【ネタバレ/R18表現有】かたわ少女 感想
2024年8月に突如としてSteam版が配信されたかたわ少女。
2012年ごろ、その身も蓋もないタイトル※が話題になったのは記憶していたが、実際にプレイしたことは無かった。
Steam版も変わらず無料という事もあり、
進捗率100%+全ED回収までプレイしたので感想を記す。
※本作は海外フォーラムで有志が作ったゲームであり、タイトルに差別的な意図は一切含まれないことを念のため記しておく
1.よかった点
・「障害に向き合うこと」に向き合った作品だったこと
私が感じた本作の魅力を一言で言い表すならこれになるだろうか。
かたわという単語やR18同人ゲームであることからネット上では
「身体障害を抱えた女の子を性的に消費するゲーム」のような
不名誉なレッテルを貼られているように思う。
しかし”大きな象”と共に懸命に生きる彼女らを通じ、私は
「真摯に障害と向き合うこと」をこのゲームの本質に見出した。
これは作中のリリーの弁だが、まさに本作の核心に迫っている様に思う。
周囲の人間が手を貸し、庇護のもとに生きていくことが
当事者にとっての幸せなのか?いやそうではない
自分の障害に向き合い、自分なりの方法で折り合いをつけ、
その上で社会が彼らを(山久学園で暮らす殆どの人々の様に)
特別扱いせず受容すること、これが理想ではないか?というメッセージ
特に華子√ではこの「甘やかすことが本人の幸せに繋がるとは限らない」
ということを痛い程知ることになった。
複雑極まりない現代社会において生きづらさを感じない人間など
ほとんどいないと私は常々考えているが、
作中の彼らが向き合うべき生きづらさが身体障害だったというだけで
現実世界の健常者である我々に置き換えてもこのメッセージは
力強く響くだろうし(少なくとも私はそうだった)、
この現実社会が山久学園のように干渉せずとも寛容な場所になって欲しいし、
そういった意味では本作は救いになりうるし、広く多くの人にプレイしてほしいと思った。
(R18ノベルゲームに抵抗がなければの話だが)
・素晴らしい日本語訳
本作は元々英語で開発され、その後複数言語へ翻訳されている。
ほんの一部日本語が怪しかったり、洋画の吹き替えのような
仰々しい言い回しがなかったわけではないが
普通にプレイする分には何の問題もない翻訳水準をクリアしている。
フリーゲームでこれは本当に素晴らしいと思う。
・無難だがシーンに適したBGM
この手のゲームではフリー音源を使用することも多いが
制作スタッフ欄に音楽担当者の名前が記載されている為、
恐らくオリジナルBGMだと思われる。
決して主張せずゲームに彩りを与える程度の無難なBGMだが、
ピアノ曲を筆頭に聞いていて心地良いものが多かった。
2.気になった点
・久夫(主人公)の振る舞い
これも原語のニュアンスを上手く和訳出来なかった事に起因する
のかもしれないが、
主人公の振る舞いに違和感を感じるシーンが少なくなかった。
親切なクラスメイトに対して突然お前ウザいんだよと突き放したり、
(プレイヤーの選択肢次第ではあるが)自分を拒絶する女の子に対して
強引に突っかかったりするシーンが散見され、少し引いてしまった。
もちろん青春真っ只中に突然心臓病が発覚したことや
普段の生活でも死を頭の片隅に置かなけばいけないこと、
自分の身体をそれまでの様に自由に使役出来ないこと
に対する若いフラストレーションの現れと言えばそれまでだが…
・遵法意識の低さ
教室や体育倉庫でセックスする描写はゲームの進行上100歩譲って
良いとしても(?)、
男子高校生が女子寮に気軽に出入りしたり、
酒をこっそり持ち込んで宴会をして泥酔したり、
風邪薬をODして酩酊したり、
今から10年以上前のゲームとはいえ当時の日本においても
ありえないような遵法意識の低さが見られた。
「身体障害を抱えている生徒が殆どだから、
廊下を走ることは普通の学校よりも厳しく禁じられている」
とゲーム冒頭で説明があったことと矛盾しているように感じた。
・岩魚子の存在
恐らくは主人公の心臓病が発覚する前の人生を象徴する人物として
登場する岩魚子というキャラクターだが、
ゲーム中盤に決別の手紙を送ってきて以降出番がない、
というのが少し気になった。
自分の障害≒過去と折り合いをつける、という解釈が正しければ
もう一度岩魚子と対峙するシーンがあっても良かったかもしれない。
・R18パッチ無しでプレイした際の整合性
Steam版はR18シーンがカットされた状態でインストールされる為、
必要に応じて公式サイトよりパッチをDLする必要がある。
私は最初このことを知らずパッチ無しでプレイしていたのだが、
性行為シーンとその前後の会話が丸々カットされていた為
文章の整合性が少し取れなくなっていたシーンがあった。
理由がなければパッチは最初から入れるべきだと思う。
3.各ヒロインについて
・笑美
初見で攻略情報を見ずにプレイした所、笑美√に突入した。
(後に知ったがとあるフラグ1つで必ず本√に入るらしい)
笑美は本作のヒロインの中で最も明朗かつ社交的な性格であるが故に、
事故で父親と両足を失った暗い過去とのコントラストが際立っていた。
後天的に障害を背負った彼女だからこそ、
再び大切な人を失うことへの恐怖や新たに大切な人が出来てしまうことへの拒絶という彼女なりの障害への向き合い方は健常者にも理解できるし、
そんな彼女に対していかに歩み寄るか、
「貴方は誰かと(私と)一緒にいて良いんですよ」というメッセージを
いかにして伝えるかが本√の核心であったように思う。
・琳
個人的に一番気に入った√だった。
それはなぜか、恐らく彼女が
最も等身大の高校生の女の子らしいヒロインだったからだと思う。
哲学的な言い回しや雲のようなとらえどころのない性格、そして
両腕の欠損という重度の身体障害者であることとは裏腹に、
自分が変わること、自己を理解すること、
何か新しいことに挑戦すること、人を好きになることといった
思春期の普遍的な悩みに直面しているというギャップの存在が
他のヒロインと一線を画しており、そこに魅力を感じた。
あまり障害については深く触れられることは無かったが、
障害などないかのように振る舞う彼女の飄々とした態度も含めて、
琳は本当に好きなヒロインだった。
・静音
正直に書くと、実質的にミーシャとの2人√なこともあり
少し冗長に感じてしまった。
聾者だが主張が強く、周囲と頻繁に衝突を起こしたりするものの
漫然と学生生活を送ることを嫌悪し、生徒会活動にも
全力で取り組むような意志の強さも持ち合わせており、
あまり主体的とは言えなかった主人公・久夫にもそれが伝播し
山久学園で教師になるという夢を抱かせるに至る、
というのが静音の魅力と言えるのだろうか?
私の読解力が低い事も勿論あるのだが、
プレイをし終えても解釈に窮する√だった。
・リリー
リリー√にはバッドEDがないこともあり、
良い意味で最も簡単に感じた。
また上述したように彼女の発言ないしスタンスは本作の
本質に迫っていることが多かったように思う。
(その点では最初にプレイすべき√と言えるかもしれない)
彼女がお嬢様学校出身という事もあってか
全盲という非常に重いハンディキャップを抱えつつも
驚く程自立した生活を送り、
かつ最も達観した障害への向き合い方が
出来ているのがリリーというキャラクターの魅力だと思う。
これもリリーの弁だが、彼女の毅然とした障害への向き合い方
というものがよく現れているだろう。
生まれ持った障害は一生付き合わなければいけない、
故にそのことを恥じることも一人で抱え込むことも
無意味だと18歳にして断じる事が出来る彼女の芯の強さに
私は大きな魅力を感じていた。
ただそんな彼女でも主人公の心臓病の発作に取り乱したり
華子達と離れ離れになることを受け入れつつも悲しんだりと、
やはり孤独になることへの哀しみはしっかりと描写されており、
その点も良かった。
・華子
華子√においては自分の障害の受容および
他者への信頼がテーマだったように思う。
(グッドEDのラストで自分が隠し続けてきた傷跡を
見せるシーンがまさにそう)
彼女の抱えている障害(後天的な火傷及びPTSD)は
他4人と異なり生理的には影響がないものであり、
どのように接するのが本人の幸せに繋がるのかが
見えづらい、というのが本√の特徴だった。
華子が繊細だからと言って過保護な選択肢を取ると
あっという間にバッドEDになってしまう。
では何が正解なのか?これはリリーが作中で言っていたように
華子の人間的な強さを信じ、本人の意思を尊重することである。
障害を抱える人が求めるものが必ずしも庇護ではない。
以上
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