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SUVのデザイン解析#1 〜3面図は免許証の写真!?〜

 いくつか流行りのSUV車の3面図を見ると、エンジンとキャビンの2個の素直な四角い箱の繋がりが透けて見えてきます。3面図とは対象物を直角に正面(後ろ)、横と上空からの画角でみた状態で、多くが外寸を記入するために起こす図面になります。カタログの仕様諸元の下に小さく載せられていることがあります。ものづくりでは3面を見ればそのものの寸法をほぼカバーでき、そこから具体的な記述を足していきます。自動車の場合は運転席と助手席の間を分つ様に中心線が引けて左右対称です。したがって側面図は1面で済みます。前後の意匠は違うのですが、幅、高さを表す上では正面だけで十分です。それでも積載性を左右する開口部下端を示すために後ろ正面も映すことは多々あります。本文では便宜上3面図とします。

 ミニバンがエンジンと室内を繋いだ2つの箱であることは3面図を見なくとも分かることです。SUVはフロントとリアウインドーの傾斜を強めたり、角を丸くなめすことで今風の塊感のあるデザインになっています。それでもそのまま箱らしく各々の面を直角に投影します。凝らした意匠の割に3面図にその姿が収まって実物との乖離が少ないのです。一方でSUVとミニバンを除いた乗用車には、“はこ然”としていないことが多くあります。特に上面図。上から見下ろした図は、実物で見るよりもそれぞれの面の境目があやふやでどこまでが側面で、どこからが天井の平面になるのか一見すると分かりません。それにリア周りのデザインが想像以上に荷室に絞り込まれて、サイドウインドーが内側に倒れて上面に向いているのではと思うほど。開発コストも厳しい、経済的でフレンドリーなコンパクトカーですらストイックなボデーメイクを表現しているのを見ることができます。
大きいタイヤと樹脂パーツを自由に使って筋肉質な存在感を表現しているはずの今日のSUVが、意外なほど素直にストンとした箱を構造の基本にしてデザインを完成させているのは何とも驚きです。

 3面図上では、どんな躍動感を持ったキャラクターラインも全て同じ線の太さで表現されればそれはただの円弧。車の輪郭を形成する黒い実線は無機質です。車の雰囲気や愛着を吹き飛ばした工業製品としての姿を見せつけてきます。その中に漂う自由で有機的な線があるとすれば、実物の艶っぽさ、躍動感を削がれて所在のなく浮いています。

 『あれ、こんな形だっけ?』と思わせるのは我々免許証の写真と同じ。蛍光灯で生気を吹き飛ばされて露わになった顔面構造の有り様を見ては、いかに普段我々がイメージの中で生きていると思い知らされるのです。

 SUVは居住性が必要だから実は箱型?いやいや、もはや伝説となった初代ヴィッツだって当初はサイズの割に高い居住性を売りにしていて、その3面図上に複雑な面構成を見せています。5ナンバー枠の寸法規制とコストのシビアさを考えれば実用的なコンパクトカーは全て初代デミオの様なあからさまな箱型ワゴンであってもいいはずです。でも実際は多様です。寸法の制約が少なく、体躯の良さを求めるSUV。居住性を保ちつつも、ストイックかつダイナミックな面構成で今日の魅力的なデザインを実現していなかったのが不思議です。

次回も今のSUVのデザインが、なぜそのカタチなのか深掘りしていきます。

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