サイレントバイオリンの雑感

くろわたです。サイレントバイオリン(エレキバイオリン)の利点難点というか使用に関する雑感をなんとなくまとめようと思って筆を取りました。購入検討中の方とかに届けと思ってはおりますが、まあ実際参考になるかどうかは…何とも言えません。

まず前提として、わたしはプロの奏者ではないです。生楽器(木のやつ)を20年くらい弾いたり弾かなかったり、サイレントはYamahaのSV130を10年程度こっちも弾いたり弾かなかったりしてきた趣味ばいよりん弾きの者です。そんな人のただの感想みたいなもんですが、読んでくれるとちょっとだけよろこびます。


サイレントバイオリンの利点

・音が小さい

そりゃそう。ここが崩れると根幹が揺らぐ。
体感としては生楽器の1/3くらいの音量になっている気がします。あんまり薄い壁だと抜けて聞こえる可能性こそありますが、一般的な扉の一枚でも挟めばそこそこ防音されます。とはいえここに関してはYoutubeなんかにも大量に検証が上がってますしここで文字でお伝えするのはなんかアレってことで次。


・比較的安価

バイオリンってのはおおむね皆さんがイメージする通りそれなりの価格がします。初心者用楽器セット等はここでは一旦置いておくとして、それなりの期間使い続けようと思えば諸々で20万円程度が最低ラインになってきます。音大とか行ってるとなると100万は下らなくなってくるそうですし、プロなんてそれこそ目が飛び出るような金額のものを使用されてる方も多々。

一方でサイレントはYamahaなどの大手が作製している高品質なものでも数万程度で一そろい(ケースや弓、弦類も含めて)揃えられます。その分粗悪かと思いきやそうでもなく――というよりそもそも生楽器とは発音の方法が根本的に違うので、両者を比較して楽器的な特性の優劣を考えるのはちょっと違う気もします。あえて言うならば弦と弓は生楽器と同じものが使用可能なので、安価故の粗悪さがあるとすればこのあたりになるのでしょうか(とはいえ特に弦に関しては消音に特化した弦を使用するケースもありますし、やはり単純な比較は困難そうです)。いずれにせよ生楽器と比較すればそこそこ安価に上質なものがひとセットそろう、これは大きなメリットだと個人的には思います。


・録音とかがやりやすい

これは実際に僕自身が使用するまで盲点だった利点でした。サイレントバイオリンというのはその名の通り音量を抑えてヘッドホンやイヤホンなどから演奏者のみに音声を届けることを目的として作製されているわけですが、つまり音声が電気信号に一度変換されているので直接PC等に音の情報をブチ込めるわけです。生楽器の場合は当然マイクを介することになるため、周辺環境(ノイズとか)やマイクの品質といった外部要因が大きく影響してきます。その点サイレントを用いた録音はシールド(音の信号をPCに突っ込むケーブル)一本とオーディオインターフェース(音の信号をPCにわかるように変換する機械みたいなやつ)があればどこでだって録音可能です。後ろのテレビでYoutuberが大音量挨拶とかしててもその音は一切入ることなく、バイオリンの音のみを録音したりだってできます。


・機械音楽との相性がいい(?)

これは個人意見の差が大きく割れるので利点とまとめていいかは悩むところですが、昨今流行りのDTMと呼ばれるいわゆる打ち込み音楽とサイレントの音は相性がいい…ような気がします。サイレントバイオリンの音は弦の振動を機械が読み取って電気信号に変換し、それを再度バイオリン『のような音』として発現しているものになります。つまり電気信号から実際の楽器を模倣した音声が流れているわけで、同じく電気信号から楽器音を再現している機械音楽との相性はいいように感じました。
とはいえ打ち込み音楽の音源にも数や種類は多くあり、中には実際の生楽器を録音したものだって存在します。それに楽曲の作成者の技術や信念、意向によっても、こうしたある種の”機械感”といったものは出たり出なかったりするものです。こればっかりは音の作り手や演奏のスタンスによって大きく意見が割れそうってことで、あくまで私個人の意見程度として置いとかせてください。


およそこのあたりがサイレントバイオリンの利点として挙げられるものだと思います――が、ここまではおよそ想像通りというか、そりゃそういうのを目的に作られてんだからそうだろって感じが否めません。本題はむしろこれ以降の難点の方で、なんだったら先んじて使用した経験からこれらをあらかじめ共有することで現在購入を検討している方たちへの一助になりたくてこの文を書いているまであります。

というわけで…


サイレントバイオリンの難点

当然陽の部分があれば陰の部分だってあります。とはいえここから下は全部『私が実際に使用して思ったこと』なので、まあそういう感じなのかヘェぐらいの感じで読んでくれるとさいわいです。


・音程が取りづらい

初手から『それはおまえが下手なだけ』とボコされそうですが、一応これには論理的な理由があるそうです。生楽器のバイオリンは楽器本体が振動するので、楽器をホールドしている顎の骨伝導からも音は入ってきます。演奏中は意外とこの振動も頼りにして音を探っているようで、楽器本体が振動しないサイレントではこの情報がカットされるため感覚的な狂いがどうしても生じます。加えて生楽器では弦の振動が増幅されて音を発するため、たとえば隣接する弦にも振動が伝達したりします。A弦の4指でEを鳴らせば隣のE弦も振動するのがわかると思いますが、つまりこれによってA弦の4指が正しい位置にあることを知れるわけです。しかしサイレントではこのように弦の振動が増幅されないため、隣接弦までは反応してくれません。このように音を探る情報が生楽器と比較して少ないため、実際に曲を弾くと妙な不安感に襲われます。

サイレントの購入を検討されている方の多くは、おそらく練習環境の不足からサイレントでの代用を考えている方だと思います。それは大変すばらしい考えだと思いますし、サイレントの導入によって練習時間が増えることで技術向上が見込まれるのは言うまでもありません。しかしサイレントで演奏すると音が取れない、もうダメだとなる可能性は上記の理由からも多分に考えられるので、それはもうそういうもんだからとここで記しておきます。サイレントは運指や運弓、表情や抑揚といった訓練には適しますが、正確な音を出す練習にはやや不向き…と感じました。


・重い

これは私の使用型番のせいなのかもしれませんので、これからサイレントの導入を検討している方はこのポイントも要検証であるとお伝えしておきたかったのです。重い楽器は体への負担になって姿勢の悪化原因となるのはもちろん、生楽器と併用される方であれば生楽器に戻した際に『かっる』となって演奏に支障だって出かねません。サイレントバイオリンは言わば家電製品のため、内部はバッテリーや電気部品の類がびっしりとなっています。木製で中身が空洞の生楽器よりずっしりと来るのはやむを得ないことなので、実際に構えてみてなるべく生楽器と重さや質感が近いものを選ぶといいかもしれません。ちなみにじゃあ私はなんでそんな重いものにしたんだって話ですが、理由は単純です。
見た目がかっこよかったんです。


・弦の摩擦感、弓への反発、発色、振動といった演奏時の各因子が生楽器とはかなり異なる

これも楽器が違うんだからそりゃそうだろと思われそうですが、やはり減音を最大の目的とした機器である以上音の拡大と増幅を目的とした生楽器との差異は各所に現れてきます。前述の通り弓や弦は生楽器と同じものを選べるのである程度寄せることはできますが、そうはいっても演奏時の体感はかなり異なります。
たとえばひとつ例として――サイレントは楽器本体が振動せず弦のみが振動する構造となっているため、弦に与えられた振動の力は弦本体がすべて吸収することになります。そのため弦自体の振動は生楽器より大きくなり、結果として弓の摩擦感(右手に返ってくる振動)が大きく感じられます。したがってたとえば右手の形や重さのかけ方を練習中の段階にサイレントによる訓練を積んでしまうと、右手に感じられる感覚に差が出てうまく弾けなくなる…なんてこともあるかもしれません。このあたりの細かな差異は一見無視できそうなほどに小さいのですが、やはり実際に演奏するとなると思ったより大きく感じられる気がしました。


要するに…

サイレント、いいの? 悪いの? と問われればこれはまあ有り体に言ってしまえば『ひとによる』というなんの面白みもない解答になります。ホールでのコンサートがしたいのか打ち込み音楽にバイオリンを足したいのか、あるいは単なる趣味として一人弾きたいのか、友人とセッションがしたいのか――最終的な目標や演奏する曲のスタイルだって無限ですし、一概に断言は到底できそうもありません。
ただ一点だけ体感として言うならば、最終的に生楽器での演奏を想定しているのであればサイレント”だけ”での練習は避けた方がいい、ということでしょうか。サイレントにはサイレントの大きな魅力があり、これを用いて技術向上を目指したり新たな楽しみ方を見つけたりするのはとても素晴らしいことです。しかしやはり生楽器そのものではないため、サイレントでは得られないものも数多いということになります。互いの特性を理解していいとこどりをするような感覚でやっていくのが結局一番楽しめるんじゃないかと、そんなことを感じました。

結論:とりあえず買っちまおう。話はそれからだ





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