我が家の犬、10歳の誕生日を迎える!
我が家に犬がやってきたのは、2016年4月のこと。その前年から、いよいよ犬を飼うぞ!それもグレイハウンドを、ドッグレースの犬たちを引き取る団体、Greyhounds as Pet(GAP)から引き取るぞ!と私は宣言していました。
すでに私と一緒にグレイハウンドをイベントで触っていた娘は賛成してくれましたが、夫は、そもそも犬が怖い。ましてやこんな大きな犬、絶対に無理無理、と反対でした。でも、とにかく見てみようよと私が懇願し、ペットショップで開催されたGAP主催のグレイハウンド体験イベントにしぶしぶ付き合ってくれたのです。そして、グレイハウンドのカッコよさ、さらに、大人しくて、静かという特性に、夫の方が断然乗り気になったのでした。
さっそくGAPのオークランド担当のボランティアの人に家を見てもらい、フェンスを立てるべき場所を指摘してもらいました。ニュージーランドでは、犬を鎖につなぎっぱなしは動物虐待であり、犬が自由に庭を歩き回れるように、フェンスで囲むことが引き取りの条件の一つなのです。夫は、夏の炎天下にもくもくとフェンスを独りで作り上げ、再びボランティアの人に点検してもらい、OKが出たので、晴れて、GAPに引き取りの申請をしました。
そして、オークランド郊外にあったケンネルに、夫と二人でまずは見学に行きました。ケンネルには引き取られるのを待っているグレイハウンドが何頭もいて、犬初心者の私たちにお勧めされたのが、グレイハウンドとしては小さい25キロ、2.5才の女の子でした。通常は5才までレースをして引退した犬を引き取るのですが、この犬はレース未体験。たぶん、臆病で、体も小さいし、不適格と見なされたのでしょう(引き取られなければ、処分です…たぶん)。最初の家庭でほかの犬や猫とうまく行かなくて出戻ってきたけれど、たぶんお宅に合うと思う、とのお見立て。お見合いのように夫と犬がぎこちない散歩をした後、その日に我が家に来ることが決定。支払ったのは、全部で455ドルでした。NZでは、この犬の犬種、イングリッシュグレイハウンドはもっぱらレース用で、一般人が購入できるブリーダーはおそらくいないように思います。
レースに出ることはなかったとはいえ、プロのトレーナーにきちんと訓練を受け、日常生活の練習も受けているので、私たちがしつけで苦労することはまったくありませんでした。散歩も、リードを引っ張ることはまったくなく、むしろ、「ちゃんと歩いているかな」と犬が振り返ってくれるほど。ただ、犬が苦手、猫は大嫌いで、とても内気。外で人に撫でられるのは緊張するけれど、家にお客さんが来るのは大歓迎(つまり、番犬にはまったくならない)。
この7年半で一番大変だったのは、来た年の10月の散歩中に、いきなりほかの犬にかまれたこと。住宅街では違反である、リードなしで散歩していたピットブル2頭があっという間に我が家の犬に駆け寄り、気が付かないうちにすばやく太ももにかみついたのです。ふと見ると穴から血が出ていて、もうびっくり。「大丈夫かしら~」とのんきな相手に、「大丈夫じゃない!」と携帯電話の番号を聞いておいたのが後日、オークランド市のドッグコントロールとのやりとりで証拠として役に立ちました(すでに以前に事件を起こしたことがある犬だった)。その日はすぐに近所の獣医で治療をしてもらい、体液を出すためにチューブが傷口に入れられ、苦しそうにはあはあしているので、家族みんなで心配しました。首が長すぎて、獣医さんが見立てたエリザベスカラーが無意味で、傷口をなめてしまったのも、元気になった今だからこそ笑える思い出です。最終的に翌年、オークランド市と相手の裁判が終了し、治療費が相手側から弁償されました。
そのほかにも、2018年には家の前で車に引かれたり(幸い、車のスピードがゆっくりだったのでちょっと足の爪が割れただけだった)、2021年の年末には血便・嘔吐で大晦日の真夜中に救急病院に行ったり(原因は結局、不明)、いろいろありますが、今は元気に過ごしてくれて、本当にうれしい。
来た当初は、自分が寝ている横に人が近づくとがばっと起きて、歯をカチンと鳴らして威嚇することがよくありました。でも今では、「眠くなったので、横でなでてくれ」とわざわざ言いにきます。お互いの距離感とマナーを分かり合えたと共に、犬にとってここが心安らげる場所になったのだと思います。英語名から私たちが付けた日本語の名前に替わり、「おやつ」「さんぽ」「ねんね」「ごはん」など、ちゃんと覚えています。私たちが「そうだよね」と合意を求めると、口調から分かるみたいで、「うん」とうなずいてくれます。あと、体の一部をぴたっと引っ付けてくるのは、グレイハウンドの習性のようです。
そして、とにかく無口。始めの数週間、まったく吠えないので、吠えることができないのかと思っていたら、ある日、庭を横切る猫を見かけて「わん!」と大興奮。家族みんなで「吠えることができるんだー」と驚いたのでした。今でも、きゅんきゅんとか、くーんとかは言いますが、たぶん数年、吠えるのは聞いていないように思います。とにかく静かです。
また、来た当初は太ももの内側、胸、お腹に毛がなくてつるつるで、「そういう犬種なんだ」と思っていたら、みるみる毛が生えてきました。ケンネルでの団体生活は、内気なこの犬にはストレスだったのでしょう。
食べることにそれほど執着がない犬種なので、ごほうびにつられてお手とかマテとかモッテコイとかはしないですし、骨格の構造上、お座りはできにくい犬なので、お座りも無理。でも、ハイタッチで手と前足を合わせるのは、やると私たちが喜ぶので自然とやるようになったし、おやつを投げるとパクっと口で受け止めて食べるのも、遊んでいるうちにするようになりました。家族同士がちょっと声を大きくすることがあると、「まあまあ」と間に入って仲裁してくれます。そして、家族が笑っていると、「なになに」とやってきます。以前、クリスマスにみんなでプレゼントを交換しているのをじっと眺めていて、犬に用意していたプレゼントを「ほら、あるよー」と渡したら、ぱっと笑顔になって、それはそれはかわいらしかったです。
今の元気が永遠に続くわけではないことは分かっているけれど、できるだけ長く、一緒に過ごしていきたい。我が家に来てくれてありがとう、家族になってくれてありがとう。あと、最後になりましたが、あのとき、グレイハウンドに会いに行ってくれた夫に、感謝しています(これを書いていて、思い出しました)。