新理論

米国による新国富論-長期停滞からの脱出策
           [ 米国を軸とする世界経済の立て直し策 ]        

1 国際的な新ニューディールの必要性

米国経済が長期停滞から脱出するためには大胆な構造改革が最も効果的である。その理由は、規制改革等によって経済の潜在成長率を高めるからである。しかし、人口成長鈍化、所得不平等、投資相対価格低下、およびデレバレッジングという環境下のもとで、構造改革は難しい。例えば、過去の日本のように、需要が低迷しているもとでの規制緩和は供給過剰を招きその結果は経済のデフレ化を導くこともありうる。また、構造改革のポジティブな効果が発現するまでには長期間を要する。
当然ながら、グローバルな経済危機に対しては、世界的レベルで実行される総体的な戦略がふさわしい。このことはロンドンのG20以降においても認められている。しかし、成長戦略、利害、および経済政策等の指向性が各国で大きく異なる。そのため、諸国間で全会一致の合意が得られる可能性となると、多大な困難が浮かび上がっている。
この困難を回避しつつ米国経済の恒常的な産出不足を解消するためには、潜在的な成長余力(成長スラック)が大きい他国や他地域の経済を米国が後押しするとともに、そこでの利益を本国に還流する仕組みを充実する必要がある。
具体的には、現在、先進国に集中していたアメリカナイズされた魅力的な都市を全世界に分散する「都市国家再配置」を提案する。そのために、アフリカ、南米、中国、中近東および東南アジアの諸地域に新都市を建設し、これらの都市をリニアモーターカーや大陸間を貫通する大トンネル等の「徹底的な世界規模の社会資本の充実」を断行すべきである。

2 世界的な都市国家開発構想

世界的な都市国家開発構想は大きく分けて二つから成る。
(1)米国の都市再生
米国の主要17都市を世界的な都市国家のコアとして再生させる。まず、JFK空港のリニューアル事業に象徴するように、国内の大型インフラの更新を行う。また、例えば、ワシントン-ダラス-ニューヨークの間をリニアモーターカーでつなぐ事業も行う。なお、必要に応じて、例えば、ニューマイアミといった新都市の建設も行う。
こうした社会資本の整備による経済の乗数効果を発揮するためには、これらの地域における人口増が前提となる。すなわち、エリアを限定して、移民+都市インフラ再構築、により経済効果の増進を図る。

(2)新興国および都市化が進んでいない地域における新都市の建設
 新興国および都市化が進んでいない地域においては、上記のアメリカの17都市へのニーズは大きい。その典型的な例は中近東のドバイである。従来の新都市建設には、数十年から百年程度の長期間を要した。一方、ドバイの都市建設の期間は約5年と非常に短期間である。
ドバイの都市建設は、2007-2009年のグローバル金融危機(GFC)によって、ネガティブな影響を受けたが、短期間で砂漠の中に都市を建設するという、新たな都市開発モデルを提案した格好になっている。周辺の中近東エリアでは、「私の地域でもドバイのような都市を欲しい」というニーズがある。
こうした新都市建設の機会は、中近東に限らず、今後も高い人口成長率が見込まれる、アフリカ、南米およびアジア諸国においても、少なくない。

3 大陸間リニアモーターカー開発構想

 上記の世界的な都市国家を大陸間リニアモーターカーでつなぎ、地球規模の超高速鉄道網を整備する。例えば、アラスカからチリまでの南北アメリカ大陸縦貫、ロンドンから南アフリカの喜望峰をつなぐ欧州アフリカ大陸縦断、および東京-ソウル-中国-モンゴル-中東-アフリカを貫くアジアユーラシア大陸横断といった超高速鉄道網である。そこでは、必要に応じて、海峡横断トンネルや従来の高速道路やダムの建設など「徹底的な社会資本の充実」を図る。

4 最先端の資本主義への道
上記2および3の巨大プロジェクトのための資金調達は、税金(第1の資金調達)でもなく、また国債(第2の資金調達)に依存することもむずかしい。GFC以降、各国の経済と金融の安定化のために銀行や民間の借金を政府が肩代わりをしてきた。かといって、長期停滞を前にして公的勘定の均衡の回復を図ろうとするのは危険であり、上記で述べた野心的なインフラの充実がなされねばならない。
そこで、プロジェクトのための資金調達は「第3の資金調達」-すなわち、「世界的ニューディール証券」の発行-によるものとする。世界的ニューディール証券(「新外交債」と略す)は、従来のエクイティ証券とデット証券を組み合わせたハイブリッド証券である。また、このデット部分は各プロジェクトのエリアに存する国や地域が保証を与える。(場合によっては、アメリカが単独、もしくは西側先進国が合同で保証することも考えられる)そこでは、投資家、国民(移民含む)に加えて国も一人の投資家となって参加する。こうした全員参加型の投資は、これに参加する各主体に対して彼らの労働生産性を自らが向上するインセンティブを与える。この点が、従来の官民合同ファンド(PPP等)とは大きく異なる。なお、従来のPPPによる資金調達は、ここで提案する巨大なプロジェクトファイナンスに用いることは不可能である。
この第3の資金調達システムの核を成すのは、上記2(1)のアメリカ17都市に設置するSPCがその役割を担う。そこには、世界中から一流のアセットマネージャー(目利き)を集めて、これらの事業によってもたらされる経済効果の持続可能性を担保する。
国際的な新ニューディールと第3の資金調達の組合せによって世界経済の好循環システムが構築され、このことによって真の意味での経済の血液(マネー)の還流が駆動されるとともにそれを通じて世界規模の生産性向上が図られる。その結果、米国経済が長期停滞から脱出するのは間違いない。

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