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最近(もちか)駅

 実は私にはほぼ毎日利用する駅がある、少なくとも日に2回。しかもそれは数ある駅の中でも、私が今住んでいるマンションから最も近いところにある。最近駅という。

 まあ電車通勤がルーティンなら当たり前の事なのだけれど、ちょっと特別感を装った文章にしてみた。

 割と都会にあって、その路線の中でも急行だとか快速だとかが停まる程度には大きな駅。周辺にはショッピングモールもあるし食べ物屋にも事欠かない。ドラッグストアがやたら多い、コンビニの数より多い。あと美容院と何故か歯科医院がめっぽうある。缶コーンスープの最後の3口に残る粒くらいの密度である。割と何でもあるがなぜかうどん屋は見当たらない。丸ナントカとかナントカまるとか。うどんチェーン店には特別な地域税が課されてしまう土地なんじゃないかと思う。

 私がそんな街に越してきてもう十数年になる。車がなくてもまあ生活できる。田舎育ちとしては時々、いや割と頻繁に息苦しい。

 余談だけれど、以前電車待ちしているとカップルと思しき男女の話し声が聞こえてきた。彼は駅近隣在住と思われ、あまり詳しくないであろう彼女に、この駅(街)がどういう所なのかを熱弁していた。

「この駅から乗る人すげー多いんだよ。」

「へー、そうなんだ。」

「そうそう。でさ、降りる人も多いの。すごくね?」(興奮気味)

「え、そりゃそうじゃない?」

「……」

 私はそんな彼らの会話、と言うより彼女のドライさに感動すら覚えた。

 きっと彼は「この街には上り坂と下り坂のどっちが多いのか。」と聞かれたら真剣に悩んじゃうんじゃないかな。そして「その坂って何度以上の傾斜なのか定義ある?」とか聞いてしまうに違いない。彼女は「うーん、13度くらいかな?」みたいな返しをするところまでがセットで想像できる。

 仕事の関係でこの街に住むことになったとはいえ、このまま行けば気付かないうちに、高校卒業して実家を出るまで過ごした田舎住みの期間を超えていくだろう。人生で一番長く過ごした街になろうとしていて、それなりに愛着も湧いている。うどん屋はできて欲しい。

 この先どうなるかは正直分からないしいつか離れる時には感傷を抱くのかも知れないけど、多分何となく過ぎていく。全く同じにはならないだろうけど、駅への行きと帰りの回数をほぼほぼ同じ回数重ねながら。

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