ちょっとだけ人生を豊かにする漫画の名言・名シーン 第1話「アオアシ」
『たかがサッカーじゃないか』一条花
(「アオアシ」小林有吾 2015〜)
スポーツ漫画において
「この競技の漫画でこれ以上のものは今後出ないやろ」
と言うくらい圧倒的なものというのがある。
バスケットボールにおける「SLAM DUNK」
バレーボールにおける「ハイキュー!!」
そして
群雄割拠、名作も多いサッカー漫画において
ついに出てしまったのが
「アオアシ」である。
もし、自分がサッカー漫画を連載してる漫画家さんだとして「アオアシ」を読んでしまったが最期
「こんな漫画家描けへんやん、普通!
アオアシ、まじ半端ないって!!」
と泣く泣く筆を折るか
「稲中卓球部」のようなギャグへと
路線変更するしかないと思い詰めたに違いない。
(※「稲中」も半端ないですが)
「アオアシ」の革新的な部分は
世間的な知名度の低い“Jユース”(Jリーグの育成チーム)を舞台にしているのも然る事ながら
サッカーというスポーツの
特に戦術性にフォーカスしてる部分にある。
サッカー漫画のみならず
スポーツ漫画の多くは
チームプレイを描きつつも
最終的には主人公の備え持った才能や努力の末編み出した必殺プレイなどで、超理論的に強豪チームを下してメデタシという展開に
収束しがちである。
戦略、戦術といった部分は無いことはないが
ほとんどオマケ的要素に過ぎなかった。
(まあ、大半の読者は
主人公が所属する弱小チームが強豪を倒すという過程において、登場人物がそれぞれ葛藤を抱えながら成長していく部分を主に求めているので、戦術など小難しい部分を排除するのは何も間違った手法ではない)
しかし、
「アオアシ」はこの戦術部分を
なんならサッカーのルールすらもよくわってない読者にすら伝わるニュアンスで、
解説口調にならぬよう自然に登場人物により説明させることにより
試合展開のスピード感をまったく落とさずに
読者を決して飽きさせず尚且つサッカーに対する知識が深まるという満足感を十二分に与えてしまうのだ。
更に、主人公達の挫折、成長を描きつつ
恋愛、青春要素を加味してしまってる
いや、まじ半端ない漫画なのです。
※以下、ネタバレ要素があります。
「たかがサッカーじゃないか」
このセリフは
ヒロイン“一条花”が
主人公“青井葦人”に向かって
言うセリフです。
(第64話「たかがサッカー」)
ある時葦人は監督の福田に
攻撃的ポジションであるFW(フォワード)から
守備的ポジションDF(ディフェンス)への転向を勧められる
それも一時的ではなく
「今後FWとしては一切起用しない」
とまで言われているのでほぼ強制である。
今までのサッカー人生において
点を取ることこそがサッカーだと信じていた
葦人は当然混乱する。
直前の試合で得点をあげ、チームは勝利。
FWとしての自信がつき
これからこのチームでキャリアを積み上げるんだと心に誓った直後であっただけにその衝撃は相当なものであったろう。
自分の才能(葦人は得点能力だと思い込んでいた)を見いだされチームへ導いてくれた恩人として絶大な信頼を抱いていた福田監督に
直接告げられたことによるショックは尚更大きい
(※このDF転向から、物語は加速度的に面白くなるのですが)
突きつけられた選択に愕然とし
ぼう然自失の状態で寮を抜け出し
夜のバス停に佇んでいた葦人を花が見つける。
食事もロクに摂っていないと気づいた花は
葦人を連れて選手用食堂へ忍び込み
勝手知ったる調理場でさっと料理し葦人に振る舞う。
(これがまた美味そうなんだ)
料理には手をつけようともしない葦人に向かって
花は“あること”をし(ここは是非原作で)
その後語るセリフが今回の名言・名シーンである。
それを紹介する前に
まず二人の関係を若干補足する必要がある。
花は監督である福田達也の義妹であるが
まだ幼い頃、兄妹になる以前から現役時代スペイン1部リーグ(世界最高峰レベル)、日本代表選手として活躍していた福田のファンであり、初恋の相手といっても良いほどの強い憧れを抱いていた
(そのくせサッカーのルールすらまともに知らないのが花ちゃんの不思議ポイント)
お互いの親の婚姻で、その福田達也が義兄になり、
世界で戦う一流選手の凄みを間近で観ることになるが
福田が不慮の怪我により選手生命を一瞬にして絶たれるという絶望と苦しみをも
身内として目の当たりにし
人知れず彼女の記憶に深い傷として刻まれていた。
このシーンの時点では、
葦人に対して恋愛感情よりは
彼に福田達也の面影を感じ、
愛媛の田舎から単身東京に出てきた葦人が困らないように
ぶっきらぼうながら色々気遣っている
といった関係である。(厳密にはちょっした発展はあったのだが…)
(※このあとの葦人の表情を写した小さな一コマが実は凄い。
きっとまだ若干呆然としたままの頭で
花の幼い頃の体験など知る由も無い葦人に
この花の渾身の一言がほとんど届いてないことがわかるのだ。
いずれこの時の花が伝えようとした事の真意に気づくのか
しかし気づくとすればより深い絶望を葦人自身が味わうときになるかもしれぬ事を思えば
気づかずに済むに越したことはないだろうし。う〜む。
しかし、少なくとも葦人を気遣う花の真心は葦人に届いているはずで(初めは食べるのを拒んでいた花の料理を食べれるようになったことからも、ドン底メンタルから少しは立ち直っている)
その後のストーリー展開でそれを示唆するシーンもあるので、いずれにせよ二人が良い関係のまま物語を終えることを一読者として願うばかりである)
このシーンは物語においてもとても重要なものですが
スポーツに限らず
何かに熱中し過ぎるあまり周りが見えなくなってしまっている。
そんな人に対する気遣いの言葉として万人刺さるのではないでしょうか
ただ、下手に真似して逆効果ってことのほうが
多そうなのでお互いの関係性を吟味してから
ご使用下さい。
因みに
花ちゃんはスポーツ漫画界においても抜群の人気を誇るヒロインである。
(ジュニア版【読み仮名つき】の表紙は花ちゃん率高めじゃないの!通常盤持ってても買う価値あり!?)
よく二次元ヒロインを
“俺の嫁”と豪語する輩をネットで見かけるが
花ちゃんに関しては
“俺の嫁”にしたいという願望は共感できる
(あくまで気持ちだけね)
しかし、判官びいきの俺は
ほぼ負け確定ヒロインの杏里お嬢にどうしても肩入れしてしまうのだ。
葦人と花ちゃんは、まぁ幸せになってくれよ!
杏里お嬢は俺がヨロシクやるから
と
逆玉を目論んでいるネットヤカラの
俺もその一人です
(杏里はチームのスポンサー企業のオーナーの御息女なのだ)
この記事を書いてる時にたまたま耳にしたこの曲
なんてこった、まるで花ちゃんの気持ちを代弁してしているかのようだ
と思ってしまったので、あまり深く考えず貼り付けておきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?