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株主提案とは?

株主提案権について詳しく解説します。


1. 株主提案権とは

株主提案権とは、①議題提案権(会社法303条1項)、②議案要領通知請求権(同法305条1項)、③議案提案権(同法304条1項)の総称を指し、会社が招集する株主総会において議題・議案を提出する権利をいいます。

株主提案権とは

①議題提案権とは、会社が招集する株主総会で一定の事項を株主総会の議題とすることを株主が取締役に対して請求できる権利のことをいいます。端的にいえば、株主総会の目的となる議題を提案する権利です。

②議案要領通知請求権とは、株主が株主総会の議題にかかる議案を提出したい場合に、その議案を他の株主に通知するように(又は招集通知に記載・記録するように)、提案する株主が取締役に請求できる権利のことをいいます。要するに提案する議案を他の株主にも通知せよと請求する権利です。株主総会で唐突に議案を提出しても、他の株主は十分な判断ができない可能性があるので、事前に準備・検討できるようにするためにこのような権利が認められています。

なお、ここでいう議題とは、例えば招集通知に記載されている「剰余金処分の件」や「取締役選任の件」、「監査役選任の件」といった株主総会の目的となる事項のことをいいます。一方で、議案とは議題の具体的な解決策であって、例えば「1株につき50円配当する」や「取締役の候補者A氏」や「監査役の候補者B氏」といったものが議案です。

一般的にメディアで報じられる「ある上場会社で、株主から株主提案が提出された」というのは、この①議題提案権と②議案要領通知請求権を組み合わせて権利が行使されたことを意味しています。

ややテクニカルな話になりますが、上場会社では上記①②の権利行使に加えて当該議案の要領について電子提供措置をとることを請求するも併せて行います。上場会社では、議案情報等が記載された株主総会参考書類等に関しては電子提供措置を講ずることが義務づけられているため、株主は議案要領通知請求に代えて、当該議案の要領について電子提供措置をとることを請求するかたちをとります(会社法325条の3第1項4号)。

なお、③の議案提案権は、株主総会の場で議案の提出をすることができる権利のことをいい、一般的に動議といわれるものです。この権利は、②の事前に議案を通知することを請求する権利と異なり、実際に株主総会の当日にその場で議案を提出することができる権利のことをいいます。

③の権利は、会議体の構成員であれば当然に認めらる権利として位置づけられているもので、実務ではどちらかというと①議題提案権と②議案要領通知請求権が問題になることが多いので、以下では、特段断りがない限り、この①②の権利について説明していきます。


2. 株主提案権が認められる趣旨と要件(勘どころ)

(1)株主提案権の趣旨

株主提案権制度が設けられた趣旨は、株主総会におけるコミュニケーションの活性化にあります。すなわち、「株主の疎外感を払拭し、経営者と株主あるいは株主相互間のコミュニケーションをよくして、開かれた株式会社を実現」することにあると説明されてます(稲葉威雄「改正会社法」(金融財政事情研究会、1982)131頁)。

コミュニケーションの活性化を図って、開かれた株主総会とするためには、自由闊達な議論ができることが理想で、広く株主に株主提案権を認めるのがその趣旨にかないます。

しかし、その一方で広く認めすぎると濫用的に使われる恐れもあります特に、取締役会設置会社では、所有と経営の分離が制度的に進み、株主は原則的に経営に関与しないことが想定された設計になっており、濫用的な株主提案権の行使を防ぐ要請が強く働くと考えられます

そこで、会社法では、取締役会設置会社の場合は、株主が株主提案の権利行使を通じて経営に関与したいのであれば株主に一定の要件を満たすことを課すことにしています。

さらに、公開会社(主に上場会社)であれば、株主が頻繁に入れ代わることが想定されるため、無条件に株主提案権が認められると、これもまた濫用的な行使の恐れがあるため、一定の制約を設けることとしています。例えば、昨日株式を取得した株主が今日にも株主提案権を行使することができるのは公開会社には沿ぐわないのではないかという発想です。


(2)株主提案権の要件

上記趣旨に基づいて、株式会社の機関設計と株主の流動性の観点から株主提案権の要件を整理すると次のようになります。

議題提案権と議案要領通知請求権の要件

① 取締役会設置会社かつ公開会社の場合(上場会社)

取締役会設置会社かつ公開会社の場合は、主に上場会社が該当するケースで、議決権個数300個以上又は1%以上の割合を6か月以上前から保有していることが要件となります。この保有要件や保有継続要件の水準は、政策的な理由でそのように設定されている側面が強いです。

保有要件である1%はハードルがやや高いですが、もうひとつの要件である議決権個数300個(単元株が100株で1議決権の場合、30,000株)を保有すればその要件を満たすことになります。東京証券取引所が公表するプライム市場の1株あたりの平均は2,469円(2023年3月基準)なので、ざっくりと約7,406万円(=2,469円×30,000株)を要することになります。

株主提案権は共益権であり、株主共同の利益を追求する権利として考えられているので、株主提案権は複数の株主と共同で行うことができます。つまり、保有要件は、株主ひとりで満たす必要はなく、共同提案者で合計して要件を満たしていれば、株主提案権を行使することができます。

また、300個又は1%以上の保有は、6か月前から継続して保有しておく必要があります。いつから6か月前なのかというと、株主提案権の行使期限から遡って6か月前からとなります。よく勘違いされがちですが、決算期末から遡って6か月ではありません。

例えば、3月決算の上場会社であれば、9月末までに保有しておかなければならないわけではありません。株主総会の開催日によって期限は前後しますが、6月下旬に株主総会が開催されるとして、株主提案権の行使期限が8週間前の4下旬くらいだとした場合、10月末あたりまでに保有しておけば、6か月要件を満たすことになります。


② 取締役会設置会社かつ非公開会社(非上場会社)

取締役会設置会社かつ非公開会社の場合※は、議決権個数300個又は1%以上を満たせば足り、保有継続要件は必要ありません。非公開会社の場合であれば、株式の取得には会社の承認が必要になるため、会社は濫用的な行使をする恐れがある株主を事前に排除することができるので、保有継続要件を不要としています。

※森ビルや竹中工務店等があります。


③ 非取締役会設置会社かつ非公開会社(非上場会社)

非取締役会設置会社かつ非公開会社の場合※は、議題提案権については特段要件は課されていません。株主であれば誰でも議題提案権を行使することができます。これは、かかる会社であれば濫用的な行使を防ぐ措置が不要なため、株主提案権の本来の目的に資するような設計となっています。一方で、議案要領通知請求権については、会社が他の株主に通知するための準備期間を確保するため、行使期限が設けられています。

※オーナー会社等多くの中小企業がこれに該当するでしょう。

メディアで報じられる株主提案は上記①の上場会社を前提に報じられることがほとんどで、株主提案と聞くとついつい制限があるものと考えがちですが、株式会社制度全体でとらえると、必ずしもそうではない設計になっています。


3. 拒絶事由

会社法上、株主提案権の3つの権利のうち、②議案要領通知請求権と③の議案提案権について、以下の事由に該当する場合は、かかる提案を会社は拒絶することができます。

  • 法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき10%以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合(304条、305条6項)

  • 議案要領通知請求権について、取締役会設置会社においては、会社法が定めた議案の個数を超える場合(305条4項)


4. 参考資料

  • 田中亘「会社法(第4版)」(東京大学出版会、2023年)

  • 神田秀樹「会社法(第24版)」(弘文堂、2022年)

  • 比較法研究センター「株主提案権の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書」(平成28年3月)

以上


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