鳶、メロンパンを奪う
サクサク生地のメロンパンを齧っていたら、口元から手をはなした瞬間、ヴァサッ! と右の視界の端から、何やら黒いものが襲いかかってきた。
ひぇあ! 思わず、高い声が漏れた。何がおこったのかわからなかったが、右手のメロンパンが紙袋ごとなくなっていた。前を見ると、窃盗の現行犯の鳶が、脚にメロンパンをつかんで左に旋回するところだった。
油断していた。今日はピィーヒョロロロロも聞こえず、空に円を描く姿も見えなかったので、歩きながら食べていれば大丈夫だろうと思っていたのに。
パンをあげに来たんですか? すれちがったお爺さんが言った。いえ、そういうわけでは……。
私はさっき発したへんな悲鳴を思いだして気まずくなり、苦笑いをこらえながらも、どうだ、あさののメロンパン、おいしいだろう、甘さ控えめで、と友人におすすめのパンを褒められたときのようにちょっぴり誇らしく、冬枯れの桜の枝に止まった鳶を眺めた。
鴨川の鳶は、あさののパンのおいしさを知っているのだろう。はせがわのハンバーグの味もおそらく。ゆっくり、味わって食べてね。
ほんとは《La Boulange ASANO》という素敵な店名なのですが、いつも「あさののパン」とか「あさのさんとこのパン」と言ってしまいます。京都で暮らして2年半ですが、ひそかに、一番おいしいのではと思っている一推しのパン屋です。みなさんも鴨川の鳶にお気をつけください。