「女には女の武器がある」というお話し
かわいい娘が就職して4年になる。
目に入れても痛くない、いや、ゴメン。
目に入れるのはさすがに無理だけど、とにかくかわいがってきた一人娘。
我ながら、蝶よ花よと愛情を精一杯与えて育ててこれたと自負している。
自慢ではないが、いや、やっぱり自慢させてほしいのだが、おとなしく優しい娘で、就職するときも事務員くらいしかできないだろうな、と思っていたら事務として採用されたので内定の知らせを聞いた時は大きくうなずいたものだ。
そんな一人娘が就職のさい、一人暮らしをしたいといいだした。
いいじゃないか、もう少しお父さんと一緒に住もうよ、という願いもむなしく、妻という援軍を得た娘の願いを断ることなど、私にはできることもなく、泣く泣く一人暮らしをゆるした。
そんな娘のことでよくない噂を聞いた。
娘が仕事を変え、そこで枕営業をしているという噂だ。
妻にそれとなく確認したところ、何をバカなことを。
もっと娘を信じなさい、とため息をつかれながら馬鹿にしたような視線を投げかけられた。
なんという愛情がないやつだ。
よし、今度娘が家に帰ってきたときに問いただしてやる。
ということで、娘が帰ってきたんだが、話しかけられる雰囲気ではない。
昔の明るく優しかった印象はなく、笑顔はなく疲れ切り、五秒に一回くらいため息をついている。
身も心もボロボロなのだろう。
よし、勇気を出して話しかけよう。
父が娘に話しかけるのに、なんの遠慮がいるのか。
「なぁ、仕事はつらいか?」
「うん、最近、慣れない仕事を始めたから・・・」
「なれない仕事?」
「そう、営業的な?やっぱり私は向いてないんだろうな」
「営業?お前が?」
「成績があがらなくてさ、上司に相談したら『お前はまだ持っている武器を使ってないだろ。使えるものはなんでも使え』って言われてさ・・・」
(それはまさか、体を使えという指示か?やはりそうか、私が救ってやらなければ!!)
「おい、お父さんは許さんぞ!そ、そんな、不潔な!!」
「不潔??」
「ま、その、ま、枕営業をやっているということだろ!?」
「な、なんで知ってるの?お父さんが?」
「父親をなめるな!なんでそんなことをやってるんだ!!そんなことをするために育ててきたんじゃないぞ!!」
「なんでって・・だって私、営業だよ?」
「え、営業だってな!!」
「寝具会社の営業だったら、枕くらい売るよ?」
「え?寝具?枕営業?」
「そう、私の会社は寝具メーカでしょ?なに、忘れちゃったの?上司にお前も営業やってみるか?って言われてチャレンジしてみたんだけど、なかなか成績が伸びなくてさ」
「じゃぁ、さっきの持っている武器を使えってのは?体を使ってってことでは?」
「違うよ。私の武器は笑顔なんだって。営業先では必死になっちゃってその笑顔が消えてるって言われたの」
「へ、へー」
「何よ、お父さん、そんなこと私がするとでも思ってるの?もう、知らない!!」
ひとまずはほっとしたけど、少しずつ親から離れていく娘にさみしさを強く感じる父でした。