1日限定 呼子の住人になる旅 最終話 ~ 佐賀県
昨日の旅の様子はこちら
呼子で迎える2日目の朝。
おはよう ──
目が覚めると窓からは明るい日差しが入り込んでいて、窓越しに青空が広がっているのが見えた。今日もいいお天気。そして目線を部屋に向けると、くっきりとした光と影ができていた。
── なんだか物寂しい気持ちになった。
だって明日の朝は、ここに私はいない。
だけど、周りにあるものは昨日となにも変わらず私を迎えてくれる。
最後じゃない。私の目に映るこれらのシーンは、ずっと変わらずここにあるのだから。
美味しい朝食に幸せを感じ、オーナーとの会話もいつものように楽しんだ。
これが私の呼子での朝の過ごし方。
そうだ。楽しむことを忘れちゃいけない。
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新しい一日がはじまる。
チェックアウトだけ済ませたら荷物は預かってもらって出発。今日はどんなワクワクに出会えるだろう。
今日は、去年バスで訪れた波戸岬に行く予定にしていたけど、昨日、暑さに勝てず行けなかった場所にどうしても行きたくて今日も加部島に渡ることにした。
すっかり走り慣れた道。坂道だって軽快に上がっていける。
呼子大橋の手前で海に目をやると潮が満ちているのが見えた。そう言えば呼子の人達が、今は大潮※だと言っていた。
※潮の満ち干きの差が最も大きくなる時のこと。
昨日、加部島からの帰りに寄り道した時は干潮で潮が引いていたから、昨日と今とでは全く違った光景が広がっている。
潮の満ち干きを見れるチャンスをみすみす通り越すのはもったいない。呼子大橋を渡る前に自転車を停めて弁天遊歩道に降りてみることに。
ここからは、干潮時⑴ と満潮時⑵ の写真を交互に並べて紹介します。
⑴ 潮が引いて海面が下がっている状態。岩盤が露出している。
⑵ 潮が満ちて海面が上がっている状態。岩盤は海の中。
(全く同じ角度では撮影できていないけど、そこはお許しを。)
昨日の干潮時、男島まで歩いて行けた時に見つけた船に乗ったお地蔵さま。
お顔を見てみたかったけど岩盤がゴツゴツしててライド後の足で自信がなく行くのを断念。いつかご挨拶できたらいいな。
こちらは弁天神社。
潮が引いていると弁天遊歩道の下も
くぐることができる。
自然の現象を芸術に変える力がここにはある。海の透き通る青さ。歴史を感じさせる岩肌。それを守る神々。
この辺りは《弁天島の呼子岩脈群》と呼ばれ佐賀県の天然記念物に指定されている。
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この海の上を今日も渡る。最高だ。
素晴らしい眺めの数々に橋の途中で自転車を停め、夢中になってカメラのシャッターボタンを押した。
そして橋を渡り終えたら昨日と違って、今日は海沿いに自転車を走らせる。
この道は去年も走った道。
何度目でも海沿いの道を自転車で走るのはやっぱり気持ちがいい。
そんな中、走れば走るほど海の青さが夏の太陽に照らされて透明感あふれるエメラルドグリーンになっていく。
そんな海沿いの道にひっそりと現れる鳥居。
鳥居をくぐり坂道を上がって行く。
茅の輪をくぐり境内へ。
さらに海に向かって建つ鳥居に向かう。
この鳥居を一度通り抜け、そこから一礼をして本殿へ。
以前来た時と同じように、こうやって本殿への階段を一段一段ゆっくり上がっていく。
ここは佐賀県最古の神社と言われている。
そしてここは不思議な事が起こる場所。
── それは、昨日のこと。
百と十では1階のレストランで食事会が開かれていた。自治会の集会を1ヶ月に1回、ここで行っているのだそう。みなさん美味しい食事とお酒で盛り上がっていた。それはちょうど呼子の空が薄紅色に染まる時間。少しの間その方々と一緒に私は夕暮れの景色を楽しんでいた。
呼子で育ち、呼子を愛し、今また呼子を活気づけようと色々意見を出し合って取り組んでいると話しをしてくれた。
私もここが好きでよく来ていますってお伝えすると大変喜んでくれて、ひとりの方があることを私に教えてくれた。
それがここ田島神社のことだった。
─── お参りに行ってお賽銭を入れたら手をたたくだろ?
本殿の正面に立って手をたたくと、やまびこのように自分の打った手の音が返ってくるんだよ。
はっきりと返ってきて不思議なんだよ。
いつ行っても、手をたたくと不思議だなって思うんだ。
行ったらわかるよ。───
昨日、暑くて行けなかった訳が分かった気がした。
自分の打った手が返ってきたのか?
もうそれは、ここに書かなくてもいいでしょう。あなたも行ってみればわかります。
田島神社。たしまじんじゃ
ここには特別な縁を感じて仕方なかった。
それは昨年もお参りに来たときに、ここの大変貴重な物を『これも何かの縁だから持っておきなさい。』と授けていただいたのです。
今でも大事に持っています。
いつも一緒。この時も。
これからもずっと ──
神主さんは少し耳の遠いおじいちゃんで、とても穏やかな方。
今年もお会いすることができた。夏祭りが終わったところで8月の終わり頃に茅の輪も外すとお話ししてくれた。
もちろん、神主さんは私のことは覚えていない。それでいい。お元気そうな姿を見せて下さっただけでいい。
こんな暑い時に来て。ちゃんと帽子を被ってお帰りなさい。孫を見るかのような眼差しで私を送り出してくれた。
ありがとうございます。
また、来ますね。神主さん。
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田島神社を後にしたくろしお。さほど離れていないが、ここからはまた坂道との戦いが始まる予感。
「風の見える丘公園」 名前からして上り坂だ。でも、ここへ行く。
その坂道の途中にお勧めのお店がある。
とにかく美味しい。プルンプルンのゼリー。
ここのお母さんも、にこやかでとても優しい方。風の見える丘公園に行くと話したら坂道がんばって。と応援してくれた。
ここは自転車旅最後の目的地。
お母さんの作るゼリーを食べ、応援までいただいて自転車を漕ぐ力にも気合いが入る。
照りつける太陽に負けることなく登りきり到着。
この建物は百と十からも見える。
呼子に行ったら海沿いを歩きながら探してみるのもいいかもしれない。
レンガ色の屋根が特徴的だからすぐに見つけられるだろう。
ここに来たのは自分が自転車で渡った呼子大橋を上から眺めてみたかったから。
こうして見ると海の上の橋は壮大なスケールだと改めて思う。
呼子の街も一望できる。最高だ。
そして、思いもよらぬ景色を見ることができた。
パッチワークみたいな景色に思わず
「かわいい」と声が出た。
ここはほんとうに “風の見える丘” だ。
地も空も、南側と北側で全く違う表情を見せてくれた。
風が作る景色がここには広がっている。
最高な3日間だった。
様々な思いが今もよみがえる。
時が経ち色あせそうになったら、また会いにいけばいい。
だから、さよならはやめておこう。
ありがとう。
くろしお