武富健治先生『古代戦士ハニワット』勝手に応援企画(3) コラム③雑誌版『ハニワット』第1部・第01話の魅力(草稿)
武富健治先生の『古代戦士ハニワット』の連載続行を勝手に応援するために、現在作成中の『ハニワット小事典(仮)』の一部を公開します(完成まで時間かかるので)。本編はキャラクター編、ストーリー篇などのデーターベースがメインです。いずれご希望があれば無料で配布します(PDF)。
コラム③:雑誌版『ハニワット』第1部・第01話の魅力(草稿)
1 雑誌版『古代戦士ハニワット』も読もう
今回は雑誌版『古代戦士ハニワット』の魅力の一端を語らせていただきます。単行本と雑誌版はそんなに違うの?って思われるかもしれませんが、結構違う部分があります。もちろん単行本でも『ハニワット』の魅力は存分に味わえます。でも雑誌版には独特の魅力があります。もし興味をもたれたら雑誌版もお読みください。武富健治先生のTwitter(@ryosuketono)の紹介文でも次のように書かれています。
漫画家は雑誌サイズで読者に与える効果を計算して作画しているから、武富先生のお気持ちはよくわかります。映画監督が映画館のスクリーンを前提に撮影しているのと同じです。とくに『ハニワット』のように背景まで緻密に描きこまれた漫画は、画面のサイズによって読者の印象が変化します。ただ雑誌版『ハニワット』の魅力は武富先生の作画を味わうだけではありません。そんな雑誌版『ハニワット』の魅力を語ります。
2 第01話のキャッチコピー
雑誌版『ハニワット』の魅力の一つは編集部がつけるキャッチコピーです。『ハニワット』の連載開始は、『漫画アクション』第14号(2018.0717)ですが、この第1部第1話のキャッチコピー、なかなか味わいがあります。
まず「約6年」の「約」に対するこだわりが、いい味を出しています。正確に書きたいけど、くどく書きたくない。そんな編集部の気持ちが「約」に表れています。こういう、漫画家と編集部の対話も雑誌版の楽しみです。さらに「堂々帰還」が凄い。というのも、このキャッチコピーは、単行本第1巻の巻頭カラーの1頁目の二段目にあって、まだ姿をみせないドグーンの「ズウウウウン」という地響きと、破壊されたビルが背景なんです。まさに、ドグーンと「武富健治」が地響きを伴って読者の前に出現/帰還している感じなのです。編集部は考え抜いてます。三段目の右側のコマは、その地響きの正体を慄(おのの)きながら見守る二人の機動隊員。そして左のコマではドグーンの顔のアップ。
そしてページをめくると見開き2頁を使って、ドグーンを取り囲む機動隊員。それを背景に、
が画面の左上四分の一を使ってドーンと目に飛び込んでくる。この「ハニワット登場」は、『鈴木先生』のファンの方には「武富健治の帰還」に読めてくるわけです(そんなことない?)。偉そうに書いていますが、ぼくは『鈴木先生』知りませんでした申し訳ない(というよりも、ほとんど漫画を読まない時期でした)。このライブ感は、まさに雑誌版の魅力の一つです。連載開始の2018年7月のムードが雑誌に溢れかえっています。ミュージシャンのCD(今何て表現するの?音源?)も、スタジオ収録盤とライブ盤で様子が違うように、雑誌版『ハニワット』には会場の歓声が響いている。
まだ第1話の見開きカラー頁には面白いところがあります。それは右側の頁に次のようなドグーンの赤文字の紹介文があります。
実際には( )内は未確認歩行物体の上に振り仮名のように表記されています。それにして未確認歩行物体とは。神をも畏れぬ所業。ある世代以上の人は、これが未確認飛行物体(unidentified flying object)、略してUFOのパロディーであることはすぐわかります(編集者は『ムー』ファンでしょうか)。編集部のユーモア感覚は第1部第1話から始まっていて、その後、作者の武富先生の意図を離れてどんどん過激になってゆきます。それにしてもUWOは本編の中で全く触れられることもなく、出オチ感強めな笑いですが、結構好きです(武富先生、本編でいじってあげてください)。こういう編集部の詞書(ことばがき)は、ライブ会場で観客が叫ぶコールみたいでいいですね。
さらに見開きカラー頁の下部には左右ぶち抜きで次のキャッチコピー。
「爆誕」て「bakutan」なんですから「っ」は発音しにくい。「爆誕ん」でしょう。でも「っ」の前のめり感じがいいですね。もう編集部もノリノリな感じです。
3 第01話の断り書き
さらに白黒頁に入ると、すぐの欄外右に次のような断り書きがあります。
これについてはお替り三杯はいけます。絶対に編集部は遊んでいる。もうノリノリで止められません。武富先生の新連載で興奮の坩堝(るつぼ)です。確かに第01話では、善光寺という実在の寺院が描かれます。善光寺の井戸がドグーンの出現場所です。でも、フィクションに決まっているじゃないですか。フィクションに。
土偶。時々出土しますよね。でも、一度もドグーンは出現したことありませんから。すくなくともぼくの住む世界では出現したことありません。ギザギザの髪型の男もいません。「鼻血ブーよ」で笑いを取る女子大生もいません(いるかも)。とにかく「この物語はフィクションです。…」という断り書きを目にすると、『ハニワット』第01話のあらゆるシーンをいじりたくなります。
これは間違いなくコンプライアンスの問題ではない。だって単行本第1巻の同じ部分にないもの。編集部への楽しい突っ込みはこの辺に致しますが、最新話(第2部・第29話)に至るまで、編集部の活躍(暗躍)を読者は楽しんでいます。みなさんも雑誌版でライブ感覚を味わってください。
4 黒の印象
最後に、絵についても触れなくてはなりません。何よりも色。これは両版を引用して比較しないと伝えにくいのですが、雑誌版は黒が強くでていて、重厚感が感じられます。単行本は、逆にその黒が若干弱いのか、シャープな印象です。例えばスクリーントーンの色を見比べると、かなり違います。例えば、ドグーン(左)とハニワット・カヤ(右)が左右でにらみ合い対峙するシーン。雑誌版のドグーンの首は、頭部から胸元にかけて徐々にスクリーントーンの色合いが濃くなってゆき陰影が強調されています。これに対して、単行本では胸元の色はそこまで濃くなく、顔の白さが際立ちます。これは同じコマの背景のスクリーントーンも同じで、雑誌版の方が、黒味が濃く見えます。雑誌版の方がドグーンの禍々しさが強調されてる印象です。もちろん見比べないとわからないのですが、おそらく原画は雑誌版に近いのではないでしょうか。
それから一番の違いは、武富先生独特の太い輪郭。漫画史上、最大幅の輪郭が何センチメートルなのかわかりませんが、武富先生の第01話でドグーンを描く輪郭は途轍もなく太い。雑誌版では、最大幅2センチメートルはありそうです。このドグーンの太い輪郭(首、背、腕など)は雑誌版が単行本よりも1.5倍増しくらい太いので力強く、迫力があります。ハニワット・カヤと組み合うシーンでは、ハニワットが細い筆で描かれているので、ドグーンとハニワットの存在感の違いが際立っています。
ドグーンの粘土感も「模様」の黒が強く、雑誌版では異形感、怪物感が凄まじいです。ドグーンとハニワットががっぷり四つに組んだ大ゴマでは、ドグーンは本当に禍々しいですね。単行本版の「模様」がつぶれているわけではないと思うのですが、雑誌版の方だと、武富先生の筆の「払い」の先、「かすれ」までも再現されていているからかもしれません。
最後に連載に際して「武富健治より」という文章が、第1部・第01話の欄外にありますので、引用させていただきます。
武富健治先生は実在します。みなさん、よろしかったら雑誌連載も追いかけてください。