「牛物語」
ナセカとキーマーは、子供の頃からの親友だった。ナセカは何事にも真面目で一直線、キーマーはどんなときも笑顔を絶やさず、軽やかに周囲を和ませるムードメーカー。そんな二人が住む村のハズレには魔女アチャが住んでいた。
アチャは世間一般の魔女とは違い、悪い魔法を使う訳でも呪いをかけるわけでもない。ただ、焼き肉好きという一面を持っていた。そのため、村人たちは魔女であるアチャを敬遠しつつも、焼き肉の匂いにはつられてアチャの小屋に近づくことがあった。
ある日、ナセカとキーマーは村の祭り用のイベント集客が上手くいっていないことを知り、アチャの小屋を訪れることになった。祭りの目玉イベントは豪華な焼き肉が振る舞われるという。「きっと彼女なら魔法でなんとかしてくれるはず・・・」二人はアチャに事情を説明し、焼き肉を作る助けを頼む。
アチャは煙たそうに彼らを見ると、杖を軽く振った。
アチャ「ふふ~ん、じゃああんたが牛になれば解決するわよ。」
ナセカ「も!?」
その瞬間、真面目なナセカは大きな牛に変えられてしまった。キーマーは目を丸くしながらも笑い出す。
キーマー「ナセカ、これは焼き肉屋の看板になれるよ!」
ナセカ「ももっ!?」
ナセカはモウモウと文句を言いながらも、どうにか状況を受け入れることにした。
キーマーは、ナセカが牛になったことを逆に活用し、自慢のマインドと思考力を活かし早速SNSで「#牛になった友達」というタグをつけて写真を投稿し始めた。投稿には、ナセカが牧場で草を食べている姿や、キーマーが「次回の焼き肉フェスをお楽しみに!」とコメントを添えたコンプラギリギリの画像や動画が次々とアップされていった。
すると、キーマーの投稿が村中で話題になり、村の祭りは連日大賑わいとなった。多くの人々がアチャの家を焼き肉小屋と勘違いして訪れるようになった。アチャは最初は嫌々ながらも、その賑わいに少しずつ楽しさを感じ始める。
数日後、村の祭りは終わった。イベント中駆け回っていたナセカが牛の姿のまま疲れ果てて横になっており、そこににキーマーがもたれかかる。そこへ、アチャが近づいた。彼女は笑顔で言った。
アチャ「お疲れ様。こんなに村にたくさんの人が来るのは初めてよ。楽しかったし、感謝してるわ。」
アチャがナセカに触れた瞬間、ナセカは元の人間の姿に戻った。アチャの杖がふわりと輝いていた。
キーマーはにっこり笑いながら、笑顔で言った。
キーマー「笑顔と感謝でナセカは救われたってことかな?」
ナセカ「ふ、肉牛じゃないけどな」
アチャ「どんな返しやねん」
ナセカ「哲学者だもので」
そして村の祭りは、奇妙な三人の遊び心と友情で大成功を収めることになり、その後大きく繁栄するきっかけとなった。
村人に距離を置かれていた魔女のアチャも、「まぁ悪いもんじゃないわね」とこころの動きをことばに出すようになった。村人たちとの距離が縮まったことで、時々村に現れるようになった。よく村人が牛に変えられる事件が起きたとか、起きなかったとか。
後日、キーマーのSNSは自治体抗議レベルの異議申し立てが殺到しBANされることになる。その後、彼らを見たものはいない。
…って話があるんだよ( '༥' )ŧ‹”ŧ‹”