懐かしい脂肪由来間葉系幹細胞薬のはなし
日経新聞の記事に前々職での仕事を思い出す、ある意味懐かしい記事があったのでまず、この記事の内容とその経緯を紹介したいと思います。
武田薬品工業が細胞を体内に投与する「細胞医薬」を国内で実用化する。患者の免疫機能を整える幹細胞を使い、腸などが炎症を起こす難病向けに2021年度の承認取得と生産開始を目指す。細胞医薬は欧米メーカーががん治療などで先行しており、次世代の有望薬と期待されている。武田は国内で供給体制を整え、患者に新たな選択肢を提供する。
この武田薬品のこの細胞医薬を扱うに至った経緯としては、2016年7月にTiGenixの有望な新薬候補であるCx601の米国外の独占的開発・販売権に関する契約締結に引き続き、2018年1月に武田薬品は同社の買収をしています。
Cx601は、同種異系(すなわちドナー由来)の脂肪由来幹細胞の薬剤であり、活動期/軽度活動期のクローン病に伴う、既存治療または生物学的製剤による治療を少なくとも1回以上実施したにも関わらず効果不十分な肛囲複雑瘻孔の治療薬です。
ここからが、私がこの記事を読んで懐かしさを覚えた話になります。前々職の日本製薬(武田薬品の完全子会社)には創薬研究者として途中入社しましたが、転職するまでの最後の数年は韓国からの再生医療製品の導入に携わっていました。
それが武田薬品の製品と同じ適応症であり、かつ脂肪由来間葉系幹細胞であることも同じ、ただ違う点は同種同系(同じ人由来の細胞を使う)である点です。
ちょっと古い話なので、プレスも残っていないのですが、前職で実施したAMEDでの調査プロジェクトの公開報告書の29ページに日本製薬が韓国Anterogenから導入しているスライドがあったので引用しておきます。
(ちなみにこのスライドは私が作成しました)
平成28年度再生医療分野における知的財産戦略に関する調査報告書
同系、異系の差はあるものの、このクローン病性瘻孔というのは厄介な疾患でして、患者さんのQOLを著しく低下させてしまいます。
炎症によって直腸から肛門以外に直接穴が開いてしまうのが瘻孔で、そこから便が漏れ出てしまいます。その穴に幹細胞を注入して穴を埋めるというのがこの細胞医薬品の効能になります。
脂肪由来幹細胞は、筋肉や脂肪など肛門部周辺の組織に分化することが知られています。細胞が増殖・分化することにより物理的に穴を埋めるという主たる作用に加えて、間葉系幹細胞には炎症を抑制する作用もあるため、この疾患においては良いことづくめだと私は思っています。また、武田薬品が同種異系(他人由来の細胞)採用している理由は、まず細胞をストックしておくことが可能であることと、間葉系幹細胞は拒絶を回避することが知られているからです。
この日経記事に使われている3人の培養担当者が写っている写真が実は一番懐かしかったんです。Gibcoのバッファー、Corningの培養容器。私は培養担当として韓国に1ヶ月出張もしましたし、その際にCorningの培養容器を使った幹細胞の拡張培養も本当に懐かしい。
私が転職した後に、日本製薬は中止したのですが、今この記事を読んでちらと思ったのですが、親会社がやるから中止となったのかなぁと。。。
患者さんに良いものを早く届けることができるのであれば武田薬品でも日本製薬でもどちらがやっても良いと思っています。
今武田薬品は日本で第三相試験を実施中です。ここまで来ているので、あとはいつ申請して、承認されるのかということになります。すでにCx601は欧州で承認されている製品なので、早く世に出ると良いなと思っています。
この記事を読んでいただいたみなさまへ 本当にありがとうございます! 感想とか教えて貰えると嬉しいです(^-^)