彷徨う”青いビーチサンダル”を探してよ。#リライト金曜トワイライト
青白い空気に包まれる夕方とも夜ともつかない時間になると、色々な思い出がふと匂い立つことがある。家路に向かい高速を走るときはなおさらだ。
まだあの人も頑張っていると思う、だから僕も、もう少し頑張りたいんだ。
海へ続く長い坂、波音、青い空と白い海鳥、眩しさ、そして心地よい風。
スラっとした佇まい、凛として涼しげな瞼、真っ白な麻のブラウス、細い脚、そして青いビーチサンダルのあの人は、今でも思い出のなかでくっきりとした輪郭を保っている。
初めて彼女と言葉を交わしたのは、雑誌の覆面座談会が終わった時だった。
「原稿の確認の連絡をするので、自宅の連絡先をお伺いしたいのですがFAXはおもちですか・・・」
「ありますよ」と僕
それまで”編集者”という空気を着ている精悍な印象だったのだが、そのときはじめてニコっとした表情の可愛さが意外な組み合わせだった。濃紺のブラウスに白い腕見えているのも印象的だった。
翌日すぐにFAXが流れてきた後に、電話が来て、原稿の確認を済ませて、要件が済んだときのことだった。
「突然ですが、ウナギ食べに行きませんか?」
友達の結婚前のお祝いをしに別荘に泊まるので、一緒に行きませんかと。一度しか会ったことないのに大胆な展開に内心ドキリとしつつも、悪い気もしないし、予定も空いているし、この話に乗ってみることにした。
「美味しそうですね。じゃ。クルマ出しましょうか」と僕
晴れた土曜日なんかウキウキしている僕がいて、予定よりも早く起きて、予定よりも早く朝食を済ませ、予定よりも早く集合場所についてしまった。彼女は予定の10時より少し早く表れた。差し入れの缶コーヒーってのが、なんか仕事っぽいけど、そこがなんか和んだ。
彼女は意外と笑うし、はにかむし、おどけるし、何よりも横顔が素敵だった。お互いの仕事の話が多かったような気もするが、例の別荘へと向かう二人きりの時間はあっという間だった。
みんなでウナギを食べて、花火をして、キンキンに冷やした日本酒を飲んだ、まあまあ楽しい時間だった。別荘にいたメンバーのことは正直あまり覚えていないけど、彼女の親友と結婚する彼氏が学校とか会社名を言うダサいやつだったのだけは何故かよく覚えている。
なんか居心地の悪さもあって、一人デッキに出て、月の光を反射する海をぼんやりと眺めていたら、彼女が横にやってきた。
僕の心拍数は少し上がった。
彼女とは、なんというか仕事も似ているところもあるし、古い言葉かもしれないけどなんとなく波長が合った。行きの車中では話していなかった、学生時代のこと、親友のこと、シゴトのことを夢中で話していた。
気付くとさっきまでみんなが居たリビングには誰も居なくなっていた。
「....お酒とってこようかな」
僕たちは同じ部屋に泊まることになっていることをこの瞬間で知る鈍感な僕だけれど、彼女との一緒の時間をもっと過ごしたくて、もちろん下心もあったけど、冷酒やおつまみを持てるだけもって、割り当てられていた部屋に移って、またデッキで話した。
初めてのデートで恋人たちが話さないようなことを僕たちはお互いをさらけ出すように話した。彼女は、友達のことを気にかけ、家族のことで悩み、自分のキャリアのことで迷っていたし、大好きな先輩が最近亡くなってしまったことも話してくれた。
僕は僕で色々と話したけれど、彼女の話に引き込まれていた。
俯きながら軽く僕の左肩に触れた彼女の頬はほんのりと朱に染まっていた。
それを見て僕の心はざわついた。
「こっちの方が辛口で美味しいよ」
彼女が幾分照れながら手渡してくれたグラスの日本酒は、辛口というよりもほんのりと甘く、彼女の体温で柔らかな優しい香りが立ち上っているようだった。
でも、そのぬくもりとは対照的に、重ねた手は冷たいなと感じたのは今も覚えている。
その夏から、僕たちは一緒にいるようになった。
でもそんなに長続きはしなかった、秋がきて、冬が終わるころには僕たちの関係は終わっていた。クリスマスもお正月も二人とも仕事だった。
分かれた理由はよく思い出せない。
「彷徨っているの」
でもある朝、白い毛布に包まりながら僕の肩を噛んで言ったこの言葉は今もよく覚えている。今になってやっとわかった気がしている。
まだあの人も頑張っていると思う、だから僕も、もう少し。。。
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今回リライトした作品はこちら。
【追記】
・今回のリライトのポイント
男性側の気持ちというか、ワクワク感とかドキドキ感とかをもっと書きたいと思い、リライトしてみました。が、あまり原型からは変わっていないです。
・この作品を選んだ理由
なんか社会人って感じの話で、私にとっては新卒のころは大学院生で、こうしたなんかほろ苦い感じの経験をほぼしていないので、羨ましくてこれを選びました。(潤ちゃんったら~って言いながら書きました)
・どんなところにフォーカスしてリライトしたのか
登場人物のセリフは全部使いたかったのでそれを活かすようにしました。それと物語の中で使われている色をイメージしてリライトしました。
・感想
リライトしているうちに物語に没頭する感覚になったし、情景や心象が鮮明に浮かぶようだった。一味違う読み方を体験できたのは良かったと思う。これもやってみないと分からないことなので、色々な方に挑戦して欲しいなって思いました。