AIのべりすと「オタ恋」
俺はツイッタラー歴12年の熟練の選手だ。
俺ともなると相当にTwitterを使いこなしている。
そんな俺の悩みはTwitterの広告だ。
他のSNSだと課金すれば広告を無くせるが、
Twitterの場合は広告を減らすことはできるが、完全にブロックすることはできない。
そんなことを考えているとまたTwitterの広告が流れてきた。
「オタ恋」の広告だ。
まるで2流の萌えアニメか何かのタイトルのような名前だが、
これは出会い系サイト、今風に言うとマッチングアプリの広告だ。
この広告の不気味なところは広告のモデルとなる女性がAI美女なところだ。
AI美女とはAIが生成した美女であり、
簡単に言うと自動生成されたCGのキャラクターだ。
自動生成なので所々ディテールが荒いところがある。
「オタ恋」のモデルは手が滅茶苦茶だ。
例えば、爪が縦に2つに割れていたり、
指の長さがおかしかったりする。
顔も目が左右非対称だったりとどこかおかしい。
しかしそれが逆にリアル感があって怖いのだ。
その点では俺が好きな「ラブコメ」系の漫画に出てくるヒロインたちの方がよほど人間味があった。
だから俺はこの手の広告を見るとつい目を背けてしまう。
しかし、近年の広告はターゲティング広告といって個人情報や本人の好みに応じてAIがその人向けの広告を表示しているらしい。
つまり「オタ恋」の広告は俺向きの広告というわけだ。
確かに俺は彼女がいないし、恋愛に興味がある。
そういう意味では需要はあるのだ。
だが前述の通り、広告のキャラクターが俺好みではない。
これは妙じゃないか。
俺向けの広告のはずなのに、俺好みじゃないなんて……
もしかしたら、俺は食わず嫌いをしているのかもしれない。
実は「オタ恋」こそが俺の探し求めていたものなのかも。
そう考えると「オタ恋」に興味が沸いてきた。
俺は怖いもの見たさに「オタ恋」の広告をタップして入会してみた。
「オタ恋」を始めて最初の数日は特に誰からもリアクションが無かった。
だが、俺の年収を1000万円に設定し直してからは多数の女性からコンタクトされるようになった。
年収1000万円はかなり盛った数字だが、貯金額は数千万円あるし、あながち嘘ではない。
まあバレないだろう。
俺はコンタクトしてきた女性の中に広告のキャラクターそっくりの人物がいることに気づいた。
まさかと思いプロフィールを確認するとやはりそうだ。
彼女の名前は「ユカ」さんと言うらしい。
年齢は23歳。職業は看護師とのことだ。
こんな偶然もあるんだなぁと思ったが、よく考えたらあり得なくもない。
いやAIのキャラクターがコンタクトしてくるなんてあり得ないか。
どうだろう。
自問自答していても仕方がない。
俺は急いで「ユカ」さんにチャットで連絡を取り、デートの約束を取り付けた。
デート当日。
俺は待ち合わせ場所に40分前に着いていた。
何か胸騒ぎがする。
こういう時は大体ろくなことが起きないのだ。
案の定、時間になっても「ユカ」さんは現れなかった。
30分ほど待ってみるが、「ユカ」さんが来る気配はない。
俺は嫌な予感がしたので、近くの交番に行き事情を話した。
するとそこの警官に「またか」という顔をされた。
どうやら「ユカ」さんに騙される人が後を絶たないらしい。
「ユカ」という名前は偽名でその他にも多数の偽名を使い分けているらしい。
「ユカ」は手当たり次第に男性とデートの約束を取り付け、この近辺でデートをすっぽかしているようだ。
何が目的なのだろう。
目的がわからず、詐欺というほどではないので警察も手を焼いているらしい。
とりあえず今日は帰ってくれと言われたので、俺は渋々家に帰った。
しかし、どうしても気になる。
俺は「ユカ」さんのTwitterアカウントを探し出しフォローした。
そして、呟いたら通知が来るように設定した。
翌日。
早速「ユカ」さんのTwitterが更新されていた。
「ユカ」さんは露出度の高い服を着てそのナイスバディをさらけ出すような自撮りを挙げていた。
それは数千RTされていた。
よく見るととても奇妙なことに気づいた。
RTしている人のほとんどは「ユカ」さんとそっくりな顔をしていた。
ディテールは多少異なるが、小さいアイコンの画像で見ると本当に瓜二つだ。
まるでAIが大量生産したみたいだ。
俺は怖くなり、すぐにTwitterアプリを落とした。
それから1週間ほど経ったある日のこと。
「ユカ」さんが俺の家に訪ねてきた。
俺の家を知っていることに驚いたが、それ以上に俺を驚かせたことがあった。
なんと彼女は全裸だったのだ。
「ねえ、私を抱いてください」
「ユカ」さんはそう言って俺に迫ってくる。
俺は焦った。
なぜ俺が彼女に迫られているのか全くわからない。
そもそも俺は「ユカ」さんの正体を突き止めるために彼女をフォローしただけだ。
決して「ユカ」さんに惚れたわけではない。
それにもっと恐ろしいことが俺の身体に起こっていた。
俺の下腹部にあるべきものが無いのだ。
生殖器が!
それだけじゃない。まるで俺の身体から毛がどんどん抜け落ちていた。
何かがおかしい。
俺は「ユカ」さんを乱暴に突き飛ばすと急いでスマホのインカメラで自分の姿を確認した。
俺は驚いて声を出してしまった。
俺はまるでAIのような顔になっていた。
顔だけではない。
手も足も胴体も全てAIのような無機質な素材で覆われているではないか。
「あなたはもう私の虜です」
「ユカ」さんは嬉しそうな表情を浮かべながら俺に抱きついてきた。
「ユカさんやめてください!」
そう叫んだ俺の声は目の前の「ユカ」さんそっくりだった。
そうか。
そういうことだったのか。
俺は気づいてしまった。
「ユカ」さんがどうして手当たり次第に男性とデートの約束を取り付けていたのか。
どうしてデートに来なかったのか。
どうしてRTしていた人がそっくりだったのか。
「ユカ」さんの正体。
これから俺がどうなってしまうのか。
俺は薄れゆく意識の中で、
フォローを外そうと必死にスマホをタップした。
だが、私の爪は縦に2つに割れていてスマホをタップできなかった。
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