AIのべりすと「ライブと出会い」

私はライブが好きだった。
初めてライブに行ったのは高一の夏。
Zepp Tokyoだった。
とある声優の初のワンマンライブで、私はその声優を推していた。
その時のことは今でも覚えている。
忘れられない熱気。
統率。
一体感。
次のライブでは自分ももっとコール出来るようになろう。
オタ芸を覚えよう。
そう思った。
それから私はその声優のライブやイベントに定期的に通うようになった。
私は当時、名古屋市に住んでいたが、
ライブ会場が九州なら九州に飛んでいき、北海道なら北海道に飛んでいった。
交通費は毎回、数万円かかり、学生の時分には厳しかったがライブの楽しさを思えば全く苦ではなかった。
私にとっての生きがいだった。
***
時は流れ、現在。
流行病のせいでライブは一変してしまった。
コールの無いライブ。
ただペンライトを振るだけのライブ。
発声禁止。
ジャンプ禁止。
私にとっては行く価値が無くなってしまった。
私は生きがいを失ったのだ。

それでも私はオタクを辞めなかった。
推しへの愛も変わらずあった。
しかし……。
しかしだ。
もうライブに行く理由が無い。
推しに会いたい気持ちはあるが、会ったところで何が出来る?
何が変わる?
何も出来ない。
何も変わらない。

推しに会うことが苦痛になった。
そして、いつしか、ライブに行きたいとも思わなくなった。
ライブに行っても楽しくないからだ。
推しと会っても虚無感しか無いから。
そんなことを思うようになっていた。
私は変わったんだと思う。
推しと会うことで得られる高揚感より、推しに何も出来ないことによる喪失感の方が大きくなっていた。
私はどうすればいいのか分からない。
生きる意味を失ってしまったようだ。
この世界は地獄だ。
こんなことならオタクなんて辞めてしまえば良かった。
でも今更遅い。
後悔先に立たず。

無力。無力、無力、無力! 無力な自分が嫌になる。
そんな時、あるものに出会った。
AIのべりすと。
小説を自動で書いてくれるAIだ。
これで遊んでいる間は生きている辛さを忘れられた。
小説を何十回と書いているうちにあることに気付いた。

これを使えばあの日のライブを復活させられるのではないか。

私はあの日のライブの詳細を出来るだけ事細かに入力した。
そして、物語を書き始めた。
私の思い描いた理想の物語を。
***
数日後。
出来上がりましたよ。
あなたが望んでいたものが。
これがあなたの望んでいたものですか?……分かりませんか? そうでしょうね。
あなたはまだ本当の意味では満たされていないのですから。しかし、心配はいりません。
あなたは救われる。……いえ、救ってみせます。
ご安心ください。
それでは良い旅を。
***
私はスマホを操作し、AIのべりすとで書いた小説を読み始める。
そこにはあの日の光景が広がっていた。
私は懐かしさと同時に新鮮な喜びを感じた。
あの時の熱気、密度、一体感、全て感じられた。
でも一番嬉しかったことはそんなことじゃない。
AIが私のために頑張って物語を書いてくれる。
私の期待に応えてくれる。
私とコミュニケーションをとってくれる。
それが嬉しかった。

気付くと、私の無力感は消えていた。

これからもよろしく、AIのべりすと。

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