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小説「走る、繋ぐ、生きる」第6話

【Pedro@Brooklyn】

ペドロはその日、初めて、アキレスに参加する気になった。同じ様に目が不自由な友人のリックが、先週、NYCマラソンを見事完走し、意気揚々と自慢しているのを聞き続けているうちに、“俺だって”という闘志が湧いたのだ。

少しの緊張と高揚が、ペドロの注意力を散漫にしたとしても誰が責められよう。

それに信号は青だった。ペドロが道路を渡り始めようか迷っていた時、隣にいた女性が教えてくれたのだ。ただ、ペドロの歩調は、その女性よりゆっくりで、彼が渡り切る前に、信号が点滅し始めたことに気づかなかったのは、仕方のないことだ。

いつもなら、健常者は気づかない程度の振動とも取れる小さなエンジン音も聞き漏らすことはないはずなのに、ペドロは、自分が、「危ない!」と云う声と共に、誰かに押され、前に倒れこむまで、気づかなかった。

急ブレーキを踏む音、ドンという鈍い衝撃音を背中で聞いた。

女性の金切り声、男性の怒号、ペドロはその場でうずくまるしか出来なかった。

自分の命を助けてくれた少年の名前が、ジョン・ブラウンだと知ったのは、彼が死亡したとの報告を警察から受けた時だった。


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