「新米フォスター奮闘記1」黒ごま・きな粉⑤
5日目🐕
きな粉は、ずっと私の側にくっついている。
キッチンには入っちゃダメと言っても、洗い物をする私の足元で寝そべっている。ソファに座れば、ペタンと横に。
私たちは、黒ごまのいない隙間を感じないように、くっついている。
午後2時ちょっと前、きな粉のアダプター候補のエドさんが、待ち合わせ場所に到着したと連絡が来た。心臓がキュッと縮む。
きな粉を連れて、アパートを出る。きな粉は黒ごまと違い、自分でテクテクと歩く。待ち合わせ場所に到着し、キョロキョロしていると、近くのベンチで座っていた初老の白人男性2名が近づいてきた。一人は、杖をついている。譲渡予定のペットと会う際、必ず、家族となる人全員と会わないといけない。つまり、この初老の白人男性2名カップルが、きな粉のアダプター候補というわけか。流石、ニューヨーク、ここでおじさんゲイカップル登場とは、自分の想定を遥かに超える。それにしても、エドさん、巨漢過ぎる。長い白髪を後ろに一つに束ね、口の周りも白い髭を生やしている姿に、ちょっとビビる自分がいる。こんなデカいおっさんで、このちび太(きな粉)、大丈夫かな?怖がらないかな?
だが、きな粉は吠えることも、怯えることもなく、至って、普通にその場にいた。そんなきな粉を見て、エドさん、開口一番、
「He is gorgeous! 彼、ゴージャスだね!」
一瞬で心を奪われたらしい。矢継ぎ早に、どんなフードを食べているのか、なんで名前がZACHARIAHなのか?どれぐらいその名前で呼ばれているのか?等を聞いてくる。そして、さっさと私のリーシュを外し、自分のリーシュに付け替えようとするので、”え、ちょっと待って。”という気持ちが湧く。
状況を知るワン友が、「アダプター候補が諦める様なネガティブな情報を言え。」なんて私に言っていた時は、「フォスターとして、そんなアンフェアな事出来ないよ。」と優等生発言をしていたが、気がつくと、きな粉のオシッコトレーニングが出来てないから、部屋で粗相しちゃう事、活動的で暴れん坊だから、高い運動量が必要なこと、離れると不安になる事、など、”扱いがちょっと難しいよ、それでも良いの?”的な発言をしていた。まぁ、事実ではあるけどさ、でも、やっぱり、諦めて欲しい気持ちが湧いたんだろうな。
だが、エドさんは、「うちは広い庭があるから、大暴れしても大丈夫。兄弟がいなくなって寂しいだろうけど、隣のワンコとすぐに友達になって、一緒に遊べるよ。私は来週一杯、休暇を取っているから、トイレトレーニングも徹底的にやれるし、パートナーは、自宅勤務だから、ずっと家にいる。ほら、これが我が家の庭の写真。フェンスで全部囲っているから、安全だし、プールもあるんだよ。」と、めちゃくちゃ豪華なお庭の写真を見せてくる。
負けた・・・。
もう、どんなネガティブコメントを言っても、彼らの気持ちは揺るがない。でも、だからと言って、アダプションフィー支払いの確認も出来てないのに、当たり前の様に、持ち帰ろうとするのはどうかと思う。お金持ちらしいのは分かったけど、その辺は、ちゃんとやろうよ。
フォスターは、譲渡する際、アダプションフィー支払い済みの確認書をチェックする責任がある。
「私、支払いの確認書をチェックしないといけないの。もう、支払いは終わってるの?」
きな粉を胸に抱え、すぐに立ち去ろうとする巨漢の白人男性エドに向かって、チビで英語がネイティブじゃない私が言うのはちょっと勇気がいる。
だが、それを私に言われ、漸く、気づいたみたいに、「ああ、支払いね。Vermo(電子送金アプリ)で、レスキューに払うんだったね。」と言って、iPhoneをいじる。だけど、うまく出来ないのか、パートナーのiPhoneで支払いをやらせようとする。そして、「ほら、支払いできたよ。」と、私に言うけど、確認書の画面はない。
何、この二人。本当に大丈夫?
訝しい気持ちが湧き、レスキューに連絡を入れ、支払いが出来ているか確認した。メールの返信がきた。
「支払いされてないよ。」
(つづく)
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