「連載」ツーピース:チームすー。地球一周大冒険(10)
黒リスは、「不思議な国のアリス」が大好きだ。子供の頃に読んでから、ずっと。
だからなのか、この地球一周バーチャルレースの生みの親レースダイレクターのラズの頭の中に無茶苦茶興味がある。彼は、ウルトラトレイルのマニアの中では、史上最悪なレースとして知られるバークレーマラソンのレースダイレクター。え?そんなレース、聞いたことないって?そんなあなたは、このサイトをご覧あれ。
兎に角、謎めいた変なしきたりに乗っ取ったレースなのだ。ちなみに、34年間で、完走者は15人。申し込み方法も謎だし、スタート時間は、ラズが法螺貝を吹いた1時間後で、スタートは、ラズのお気に入りの両切りのキャメルのタバコに火をつけた時。各チェックポイントには本が置いてあり、選手は自分のゼッケン番号と同じページを切り取って、持って帰らないといけない。また、初めての参加者は、自分の車のナンバープレートを捧げる。。。
「HELP IS NOT COMING/助けは来ないよ。」
が、大会のキャッチフレーズ。最高に変だ。リアル秘密の国、これがバークレーマラソン。世にも奇妙なマラソンだ。多くのランナーを魅了するのも良く分かる。
だが、各100マイルトレイルレースの猛者たちが完走出来ないレースだから、黒リスには全く無縁のレース。だが、そのバークレーマラソンのレースダイレクターが、バーチャルレースを作った、それも、世界一周レースだと知ったら・・・こんなチャンスは一生に一度だと思って、飛びついた。ラズの世界観に触れるチャンスが巡ってくるなんて、夢のようである。いや、それこそ夢(バーチャル)の中を冒険するのだ。それも、ラズの作った夢である。絶対、変なことが沢山のあるに違いない。
案の定、最初から、問題発生。レース参加費が、分かりずらいのだ。
チームで$40?いや、個人で$40?
世界一周で$40?いや、レジョン(地域)毎で$40?
アメリカ人でも解釈がまちまちで、混乱多発。レースグループのサイトでも、「1レジョンで$40は高い。」「いや、ジムの会費に比べたら安いだろう。」「次のレジョンに進むのにディスカウントあるのかな?」「こんなに楽しませてもらってるんだから安いだろ。」と喧々囂々。
そんな中、早々に最初のレジョンを完走した違うチームメンバーから、「完走するとメダルが貰える。それも早く完走したら金、そうじゃないと銀」みたいな情報が届く。えー、メダルが貰えるなんて、申し込みサイトに書いてないじゃーん!!最初から書いてあれば、多くの参加者もそれを目標にするだろうし、$40はメダル代なのね、と理解するだろう。最初から記載してくれたら良いのに。と、普通は思う。
だが、きっと、ラズは、わざと記載しないのだ。
そして、絶対、グループサイト内の喧々囂々の意見のやり取りを面白がっているに違いない。ちなみに、コスト(価格)に関して、ラズはこんな面白い表現を使っている。
”一人$40の参加費で12地域のウエブサイトを何年も運営をし、12個のメダル代をそこからひねり出すのは不可能です。もし、誰かが、自分に、「$40で、世界一周できて、Tシャツとメダル12個も入っているよ。」と言えば、それは詐欺だと思うだろう。”
”私にとって、それは(1地域$40を支払うこと)、食料品店に牛乳を買い行くようなもので、牛乳が1ガロンあたり3.50ドルである(そして私は大量の牛乳を飲んでいる)なんてことを気にしていない。よもや、「なんてことだ。次の2年間、週2ガロンで、牛乳は728ドルかかるだろう。俺には牛乳を買う余裕はない!」なんて言うだろうか?”
確かに、よくよく考えると、このレースで発行されたパスポートが5年間有効なわけで、つまり5年間、ラズはレース運営をすることを考えているのだ。5年間、ずっとこのレースに参加し続けるランナーは何人いる?きっと、多くは脱落するだろう。それも踏まえ、このバーチャルレースのバジェットを考え出したのだ。また、2−5年かかるバーチャルレースで、$480ですよ、と言わず、自分が参加した距離分だけ支払えば良いとしたのも、実は、すごく良心的であろう。だって、100マイルレースに$300とか支払って、50マイルでDNF(棄権)したから、$150返金してなんて、誰も言わないよね?もしくは、自分が走れた分だけ支払います、なーんてレース存在しないよね。
ラズとのやり取りで、ネガティブコメントを持っていたメンバーが、納得し、レースに対してポジティブな考えに変わっているのを読むと、面白いなぁ、と思う。ラズは世界中から参加したメンバーと話し合いながら、このバーチャルレースを作っているようだ。実際、ラズは、こんな案も出している。
「やっぱり、Tシャツ、作ろうかなぁ。これは個人的趣味だが、自分は、$40の参加費内で作って、全員に配るコットンの安っちいTシャツをこのレースではやりたくなかったんだ。欲しい人だけが申し込めるTシャツで良いと思うんだけど、どうかな?どうせ作るなら、良い物を作りたいんだが。」と。
そう、これはラズの仕掛けたゲームなのだ。当然、ゲームマスターはラズで、私たちは彼の気まぐれなルールに従って、ゲームに参加し続けるか、下りるかを決める。それを決めるのは本人。「HELP IS NOT COMING/誰も助けに来ないよ。」だ。
くぅ〜〜、妄想大好きな黒リスは、身悶えするほど、堪らない。不思議な国の黒リスの冒険は始まったばかりなのである。
※チームすー。ジャパン:現在走行距離1,810.54キロ(1,131.59マイル)201チーム中51位。もうすぐ、メキシコの旅が終わり、ガテマラへ。