ランナーの話:「黒杉さん」後編
「レースの準備は4ヶ月前から始めた方が良いよ。30キロ走を出来れば、レース1ヶ月前までに、3回はやった方が良いよ。」
妹・黒リスにアドバイスをされた黒杉さんは、2014年4月27日(日)開催の第一回東北風土マラソンに向け、人生初のLSDというものにチャレンジをしていた。しかし、レース4ヶ月前というと、真冬の東北の時期。それも、ラン友もいないボッチ練。その上、風景はどこまで行っても変化のない田舎の山、田んぼ、畑。もしくは、復興途上の被災の色濃く残る街。
相当、苦痛だった模様。だが、それに耐えた結果、黒杉さん、初マラソンを、3時間45分18秒という、黒リスの初マラソンのタイム(3時間48分)を超える好タイムでゴール。本人的には、兄としての面目躍如といったところであろう。だが、その後、更にフルマラソンレースにハマるかと言えば、全くそんなことはなく、「もう、一度やってどんなものか分かったので、結構です。」という黒杉さんであった。
だが、黒リスの、「では、私、来年(2015年)、初100キロで、岩手銀河100キロというレースに出るつもりなんだけど、黒杉さんもどう?」と、いう誘いに、速攻、二つ返事を返してくる。つまり、黒杉さんは、一度もやったことのない事はやってみるというタイプ。偏見がなく、好奇心やチャレンジ精神は人一倍あるのである。
そして、一度、やると決めたら、相当、遂行能力も高い。なぜなら、言い出しっぺの黒リスが、がん治療でレースに出れなくなっても、彼は、初100キロレース完走に向け、フルマラソン完走以上に苦痛なLSDをこなし、そして、見事、完走した。しかし、こちらもやはり、「練習が大変なので、もう、結構です。」と、いったところ。全く、ウルトラレースにハマる様子もない。
因みに、これまた、黒リスの影響を受け、トレイルランニングも始め、石川弘樹監修の雄勝トレイルレースにも何度か参加したが、やはり、他のトレイルレースに出たいという気持ちは湧かない模様。
しかし、だからといって、走ることは止めることもなく、普通に続けている。何を目標にしていることもなく。
それどころか、その後、四国に定期的に渡り、お遍路さん巡礼を開始、四国八十八ケ所、1400キロの通し打ちを果たした。
以来、彼は妙な芸風を身につけた。お経を唱えながら、走るのだ。
黒リスが、石巻に帰省し、一緒に里山を走った時、背後から突然、お経が聞こえた時の驚きは未だ忘れない。どうやら、苦しくなった時に、唱えるお経があるとの事。このお経を唱えると、苦しさがスッと消える、らしい。
信じるものは救われる。今日も黒杉さんは、元気に地元を走っている。
(おわり)