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スカイとマルコ(12)・似たもの同士

「すみません、こちらにかなり性格の悪い子がいるって聞いたんですけど。」

月子(つきこ)さんは、真顔で、シェルターの受付でそう言って、あたしを引き取りたいと言ったらしい。確かに、偶に良い人になりたいか、本当に良い人で、問題のある犬を引き取りたいタイプはいる。でも、月子さんはそんなタイプでもなく、「え?その子が良い理由ですか?そうですね、私も相当性格悪いので、相性が良いかと思って。ほら、よく、犬と飼い主って似るって言うじゃないですか。あれって、似るんじゃなくて、実は自分に似た犬を無意識に選んでいるってのもあるんじゃないかと思うんです。」
と、冷静に説明したそうだ。

「いや〜、相当、変わった人だと思うけど、なんていうか、俺の勘では、悪い人じゃないんだよなぁ。本人は性格が悪いって断言しているけど。実際、申込書に色々記入してもらった内容からも、きちんとしている人だって窺えるし、ファイナンシャル的にも、別に裕福だったり高収入だったりではないけど、安定している感じだし、断る理由もないんだよな。だから、物は試しで、実際に熊子に会ってもらって、熊子と柏木さん(月子さんの名字)で決めてもらったら良いかと思うんだ。熊子も今回は手加減しなくて良いぞ。性格の悪い子が希望らしいが、犬を飼うってそんな甘いもんじゃないぞって感じで、思い知らせてやるのもアリだぞ。」

珍しくケイタ君も戸惑い気味だ。大体、犬が大好きで、ここで犬を引き取ろうとするのは、私は良い人です!って看板をぶら下げているようタイプが多い。月子さんみたいなタイプにはどう接して良いのか、測りかねるといったところだ。

そんなことを話しているうちに、月子さんが犬舎に入ってきた。犬達がいつも通り、興奮して吠えまくる中、ケイタ君が、立ち上がり、こっちですよ、という様に手を振る。
あたしはちょっと興味を持って、その人がどんな色の膜を纏っているのか見てやろうと、柵の入り口に移動した。

あれ?膜がない?
違う、あのゆらゆらしているものが膜?

月子さんは、無色透明な膜をしていた。




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