スカイとマルコ(14)・手抜きはしない
月子さんは、実は犬を飼うのが初めてだった。
「一応、ネットで事前に一通り勉強はしてきました。リーシュは手から離れないように、こう手首に通してから持つんですよね。そして、犬を左側に置いて、お座りをさせてから、OKの合図で進む。」
”この人、本当に大丈夫かな。”という言葉を顔に浮かべながら、ケイタ君が、あたしのリーシュを月子さんに渡した。
あたしは、何食わぬ顔で、月子さんの左側にお座りをして、合図を待った。
「あら、意外に良い子?」
と、月子さんが呟き、「じゃぁ、OK」と言った瞬間、あたしは猛ダッシュをした。
ヒィっという言葉にならない叫び声を後ろに聞きながら、あたしは力一杯リーシュを引っ張り続けた。月子さんは、意外にしぶとく、あたしの引っ張りに頑張ってついてきた。結構、走るのが得意なのかもしれない。
遠くから、ケイタ君が、「熊子、止まれ!止まれ!」と叫んでいる。
敷地内の端まで行ってから、急にクルッと方向転換をした。
案の定、月子さんはバランスを崩し、バタンと前向きに倒れた。でも、リーシュは死んでも離さんぞ、と言わんばかりにしっかりと握っていたから、あたしも止まらざる終えなかった。
ケイタ君が追いつき、「だ、だ、大丈夫ですか?」と恐々と倒れている月子さんに聞いた。
月子さんは、はぁーっと一息ついて、ムクっと起き上がった。
「やはり、革パンに厚手のジャケット着てきて正解でした。お陰で、全然、大丈夫です。」
パンパンと洋服についた土を払い落としながら、月子さんは答えた。
その後、にっこりと笑い、ケイタ君に告げた。
「気に入りました。この子を引き取りたいです。」と。
ケイタ君は、あんぐりと口を開けた。
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