見出し画像

スカイとマルコ(25)・それぞれの道

「スカイ、スカイ、僕の声が聞こえる?」

真夜中、マルコの声がすぐ近くで聞こえた。
「え、マルコ、まだ病院にいるんじゃないの?」

マルコはその質問に答えず、話を続けた。
「スカイ、僕、スカイと一緒に下界に落とされ、色々あったけど、やっぱり、落としてもらって良かったよ。何が良かったって、”愛”ってものが分かったんだ。僕の中に生まれる愛、そして、時枝ママの中からどんどん溢れる愛、でね、僕と時枝ママと育てていく愛。僕の内側にも外側にも愛が満ち溢れていて、愛に包まれていて、僕は本当に幸せだったんだよ。だから、君は僕の為に怒ってくれるけど、後のことはどうでもいいんだ。僕はここで十分大切なものを見つけたからね。そう、君のこともだよ。僕は、スカイが本当に大切だって思い知ったよ。スカイに会いたいって、この身体があるうちに、スカイに会いたいって思って、頑張って探し続けたんだ。犬の力を全部使って。そして、会えた。だから、僕は満足なんだ。」

「マルコ、何を言っているの?」

あたしは、真っ暗な部屋を見渡した。ベッドで、いつも通り、月子さんが規則的な寝息を立てている。

ここはマルコのいる病院じゃない。なのに、こんなにマルコの気配を感じるのはおかしい。声もすぐ耳元で聞こえるし。

あたしはマルコがあたしの知らないうちに、ここに連れて来られたのかもしれないと思って、キッチンの隅々から、バスルームまで探した。

どこにもいないことが分かり、窓の外に浮かぶ満月を見上げた時、あたしの目の前に、マルコを抱いた神様が現れた。

「あ、神様。」

「スカイ、マルコは下界で、十分、修行をした。マルコは犬として、一生懸命、生きた。そして、大切なものを与え、与えられた。マルコは下界で学んだことをきっと天界でも生かしていくだろう。」

神様の胸に抱かれたマルコは、綺麗なマルコに戻っていた。神様と一緒にキラキラとした膜に覆われ、幸せそうな顔をしていた。

「神様、マルコを連れて帰るのね。じゃぁ、あたしも一緒に、連れて行って。お願い。いや、お願いします。お願いします。マルコと一緒にあたしも帰りたい。」

あたしは必死で神様に縋りついた。

そんなあたしを神様は、慈しむような、困ったような顔つきで見るだけ。あたしは、悲しくって、辛くって、癇癪を起こしそうになった。
そんな時、マルコがいつもののんびりとした調子で言った。

「スカイ、スカイは僕よりずっと強い身体を貰ったんだよ。スカイ、信じて。神様は僕たちに罰を与えたんじゃない。チャンスを与えたんだよ。スカイなら、絶対、素晴らしいものを得て、天界に帰れる。僕はいつもスカイを見守っているからね。ズルしないようにさ。」

マルコは、最後の一言にウィンクをつけてきた。

神様は、最後にあたしの頭をひと撫でして、マルコを抱いて、天へ帰っていった。

あたしは、真っ暗な部屋に一匹だけ残された。

急に心細くなり、あたしは、天に向かって吠えた。

ワォーン、ワォーンと。下界に落とされて初めて、心が痛くて辛かった。
マルコが同じ世界にいない寂しさに身体が張り裂けそうだった。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?