スカイとマルコ(31)・そして、そこに戻る
朝起きが苦手だった月子さんが、今では、早朝の散歩が日課であり、そして、その時間の空気が1日で一番好きになっていた。
子宮の病気が発覚するまで、タバコも吸っていたし、お酒も鈴木くんが仲間とワイワイやるのが好きだったのもあり、よく外に飲みに行っていた。
今、思い返すと、まるで前世の記憶のように感じる。
鈴木くんの下の名前も、”あきのり”なのか”のりあき”なのか、よくよく考えないとどっちが正しいのかさえ忘れている。
それぐらい、鈴木くんとのことも過去になったということだ。
悪くない。月子さんは、心からそう思う。
そして、そう思えるようになったのも、全部、ソラの存在のお陰だ。
”お前みたいな女、一生、一人で生きていくことになるぞ。”
その言葉通りにならずに済んだ。いや、最初はそうなっても良いと思っていたんだ。同情で一緒にいて貰うより、一人で生きていく方がずっと良いと思っていた。でも、今なら分かる。一緒に生きてくれる相手がいるって、本当に幸せだということを。たとえそれが人間じゃなくても。
ソラと出会い、タバコをキッパリと止め、お酒も朝の散歩があるからと、控えるようになった。最初は面倒くさくて仕方なかった散歩だが、ソラと歩いているうちに面白くなり、休日などは何時間も一緒に街を探索した。
青白かった肌が日焼けで健康的な色に変わり、歳を取って、シミにもなった。そんな私をソラは愛してくれている。それが感じれるから、それで良かった。そして、心配事の一つの定期検診はいつも良好。ソラとの規則正しい生活と散歩という運動のお蔭だろう。そう思うと、ソラとの出会いで、救われたのは、私の方だと月子さんは感じる。
そんなソラが、急に若返ったように、朝の散歩をおねだりしている。
「何?どうしたの、急に元気になって。今日は久しぶりに調子が良いのね。よし、行こうか。どこに行く?今日は休日だから、ソラの好きなところ、どこでも良いよ。」
月子さんは急いで準備をして、ソラと共に外へ出た。
冬の終わりの朝7時過ぎ。少し冷えるけど、気持ちが良いぐらい。うっすらと薄暗さが残る空。でも、東の空は朝日が眩しい。
「ソラ、今日は本当に元気だね。どこまで行くの?」
最近は20分ぐらいでも疲れ切った状態で戻るのに、今日は、グイグイと昔のソラみたいに、行きたい方向へ月子さんを引っ張っていく。
「ソラ、そっちの方に行った事ないよね。そっちはお散歩コースじゃないよね。」
そんな月子さんの言葉を無視して、ソラはどんどん進んでいく。
どこまで行くんだろう?と、訝しく思いながら、1時間以上進んだところで、ピタリと止まった。
「あ、ここは・・・。」
そこは、ソラと月子さんが出会った場所。そして、ソラが保護された場所、動物シェルターだった。
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