スカイとマルコ(32)・すぐに分かるよ
月子さんは、意味が分からなかった。
なぜ、ソラが私をここの連れてきたのか。ソラがなぜ、ここに来たがったのか。
「ソラ、私はソラを歳を取ったからって、ここに捨てたりしないよ。ソラがいくら望んだって、絶対しない。だから、帰ろう。ね?」
そう言ってみたけど、ソラは全く知らんぷりで、シェルターのゲートの前で寝転んで動かない。
シェルターのオープン時間は午前9時らしく、まだ、人の気配がしない。
どうしよう、と思っているうちに、一台の犬猫の絵がペイントされたバンが、ゲートの前を通り過ぎ、隣の駐車場へと入っていった。
途端、ソラがムクっと起き上がり、背筋を伸ばし、お座りをした。
駐車場から、一人の中年男性がのっそりと歩いてきた。髭もじゃでずんぐりむっくりで、まるで熊のようだった。
その男性は、最初は気難しい表情をしていたが、月子さんとソラに近づくにつれ、目を見開き、相合を崩した。
「熊子っ!」
男性が思わず叫ぶと、ソラは元気に飛び跳ね、男性が走って行くと、待ちきれないとばかりにジャンプして抱きついた。
男性も尻餅をつきながら、抱きしめ、一緒にその場でゴロンゴロンと転がった。
「熊子、お前、すっかり凶暴な黒子グマから可愛いしろくまになったなぁ。」
男性はそう言いながら、ソラを愛おしそうに撫で続けた。ソラもキュンキュンと甘え声を出し、顔中を舐め回している。
唖然と立ち尽くす月子さんの視線にようやく気付いた男性は、しまったばかりのバツの悪そうな顔をしながら、立ち上がり、しどろもどろに話始めた。
「いや、あ、すみません。いや、あの、ちょっとびっくりしたもので。えっと、あの、あー、あー、確か、月子さん、、、苗字はえっと、そうだ、柏木、柏木月子さんでしたよね?変わった、いや、印象的な名前だったものですから、ええ、覚えてます。え?僕ですか?あ、東野ケイタです。はい、あの熊子の譲渡を担当した。え、そんなに驚かなくても、、、。そんなに僕、変わりました?そうですよね、僕、あの頃、確か20代半ばだったと思うんで、若造でしたよね。細かったし。。。今年41になり、もうすっかり体型もおっさんです。」
確かに、見事な中年男性に変わっていたケイタ君ではあったが、月子さんは若くて、正義感の強さが全面に出ていた頃より、ずっと親しみを感じた。
「それにしても驚きました。犬の記憶力っていうか能力ってすごいですね。車を運転している東野さんに気づいたんです。いや、東野さんの記憶力も負けてないですよね。だって、真っ黒だったソラが真っ白になっているのに、すぐに気づいたんですよね?信じられません。私、相当、びっくりしています。」
「だって、この真っ青な目は変わってないじゃないですか。それに、僕にとっても熊子は特別な犬でしたから。」
そう言って、ケイタ君はまたしゃがんで、ソラを抱きしめた。
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