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このままでいいのか神宮外苑再開発

はじめに

 2022年8月7日現在、神宮第二球場を廃止し、神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えることを中心とした神宮外苑地区の再開発計画が、いちょう並木を中心とした樹木について影響が出るのではと環境アセスメント審議会で指摘され、計画が止まっている状態にあります。しかしながら、環境アセスメントの前提となる都市計画の変更は2022年3月10日に「東京都告示第283号」として告示されており、この告示が取り消されない以上、いつ進むか予断を許さない事態だと考えています。

 計画が止まっている現時点で大切なのは、現在の都市計画が当初の都市計画と合致しているかを検証することだと思います。神宮外苑地区の再開発は2022年3月10日の変更を含め、4回の変更がありました。(注1)

当初の都市計画はどうなっていたか

 2013年6月17日の都市計画はどのようになっていたでしょうか。

2013年2月第201回東京都都市計画審議会神宮外苑地区図面_PAGE0008

 『東京都都市計画地区神宮外苑地区地区計画 計画図1』を示します。地区計画の地域は以下の通りです。千駄ヶ谷駅から反時計回りに交差点を目印に範囲を示します。千駄ヶ谷駅交差点から東京体育館前交差点。東京体育館前交差点から東京体育館交差点。東京体育館交差点から観音橋交差点を通過し、仙寿院交差点。仙寿院前から日本青年館前交差点(注1)。日本青年館前交差点からラグビー場前交差点を通って、外苑前交差点。外苑前交差点から赤坂消防署入り口交差点を通過し、青山2丁目交差点。青山2丁目交差点からいちょう並木を通って、権田原交差点。権田原交差点から信濃町橋交差点。信濃町橋交差点内側から無名橋交差点内側を通って首都高出入口よりの外苑橋交差点。外苑橋交差点から千駄ヶ谷交差点。これらの範囲が地区計画の地域です。そしてこの地区計画の地域をA地区とB地区に分けます。

2013年2月第201回東京都都市計画審議会神宮外苑地区図面_PAGE0001

 そのことが記載された「土地利用の方針」です。A地区は、大規模スポーツ施設、公園、既存施設等の再編・整備を図る地区とされ、B地区は、明治神宮聖徳記念絵画館、神宮外苑いちょう並木を中心とした緑豊かな風格ある都市景観を保全する地区とされました。上記の『東京都都市計画地区神宮外苑地区地区計画 計画図1』では青山2丁目交差点から両側のいちょう並木まで。そこから軟式野球場、聖徳記念絵画館を取り囲む部分がB地区です。      ついでに言えば、軟式野球場、聖徳記念絵画館を取り囲む道路は周回コースとして噴水広場前に0メートルの標識があり、何らかの市民ランナーが走っている場所でもあります。

B地区に影響は出ていないのか

 このB地区に影響は出ていないのでしょうか。いちょう並木をどうするかは今後の計画次第なので、現在は目に見える影響は出ていませんが、都市景観にはすでに影響が出ていると言わざるを得ません。

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 これは2022年8月6日に軟式野球場の前の噴水広場から聖徳記念絵画館を向けて撮った写真です。絵画館のバックの右側と左側に建物が写っています。右側の建物は慶応病院関係の建物で、これは神宮外苑の都市計画と直接の関係はありません。しかしながら左側の建物は神宮外苑の都市計画変更と大いに関係があります。2013年の神宮外苑地区の再開発でA地区とB地区と決めたという話はしました。当時A地区はA1からA4まで区域わけがされましたが、番号がふられていない区域がありました。信濃町交差点内側から無名橋交差点内側、外苑橋交差点部分も番号がふられていない区域であり、2017年にこの区域をA6区域とし、A-6-aとA-6-bと細分化。A-6-bの高さ制限を50メートルまで緩和。

W1440Q75_神宮外苑地区地区計画(Aー6地区)_PAGE0010

(建築物等の高さの最高限度。ホテル部分は高さ制限を50メートルまで緩和。隣は現行の高さ制限15メートルのまま)

そこに立てられた三井ガーデンホテル神宮外苑が左側に写っている建物です。

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(正面に見えるのが三井ガーデンホテル神宮外苑。左の建物は新国立競技場)

 B区域が変更される前からA区域の変更によって悪影響が出ていることは明らかだと言わざる得ません。しかもA区域の当初の土地の利用計画は「大規模スポーツ施設、公園、既存施設等の再編・整備を図る地区」であり、そこに新規でホテルを建設することが土地利用の計画に合致するのでしょうか。ホテルは大規模スポーツ施設や公園に該当するわけありません。新規で作られるホテルを既存施設等の再編・整備に該当すると言うのは屁理屈としか思えません。

 そして、三井ガーデンホテル神宮外苑が建てられた場所は神宮プールの跡地です。神宮プールで行われた1948年日本選手権水泳大会で古橋廣之進氏が自由形1500mと400mで当時の世界記録を大幅に上回る記録を出し、戦後間もない日本の人々に勇気と希望を与えた場所として知られています。このようなスポーツの拠点を取り壊して、ホテルを作ってスポーツクラスターですか。私には全く理解出来ません。

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(神宮プール跡地に建てられた神宮水泳場跡の碑。左手に見える建物は三井ガーデンホテル神宮外苑)

地区計画変更によるマイナスの影響は?

 神宮外苑地区の地区計画を変更することでB区域の都市景観に影響が出たことは説明しましたが、神宮外苑地区の地区計画を変更することでの都市景観のさらなる悪影響についても指摘しておきます。『「新国立」高さ制限緩和』『石原都政では美観保護』『2キロ先のビルに「低くして」』との見出しがついた2015年3月26日付の東京新聞です。

 記事によれば聖徳記念絵画館から2キロ離れていた場所にビルの建設計画があったがイチョウ並木から聖徳記念海岸を見たときに、ビルが突き出て美観を損なうという都の要望に対し、「景観のために協力すべきだと判断した」として高さを修正した。条例など指導する根拠がないにも関わらず、低くするように申し入れ、それを民間が受け入れた。このような官民一体の協力によってイチョウ並木から聖徳記念絵画館の景観は守られてきた様子が分かります。

W1440Q75_2014年3月25日東京新聞

(2015年3月26日付東京新聞一面。森本智之という署名入り) 

 神宮外苑の地区計画を事業者が変更して高さ制限を緩和して、周辺の人々が以前と同じように協力して都市景観を守る気になるのか。絵画館の右側に見える慶応病院の建物ですでにその結論は出ていると言えるのでは?

 「歴史的な都市景観や緑地環境を保全し、より魅力的で利用しやすい地区として整備する」のうち、残された「緑地環境を保全」するために、何をすべきか、計画が止まっている今こそ、立ち止まって考えるべき時であろう。

注1ー神宮外苑地区地区計画の変遷

1)2013年6月17日(東京都告示896号)神宮外苑地区の地区計画決定。A地区とB地区にわけ、A地区をA-1、A-2、A-3、A-4地区と指定。指定されてない部分も。

2)2016年10月3日(東京都告示1678号)旧外苑ハウス部分をA-5地区とし、そこに隣接するA-3地区、A-4地区の範囲を変更

3)2017年3月6日(東京都告示342号)旧神宮プールとちゃんぽん屋として有名だった水明亭の付近をA-6地区として指定。

4)2022年3月10日(東京都告示283号)外苑前交差点や地下鉄外苑前駅付近をC地区として追加。A地区とB地区の区分を変更。A地区にA-7、A-8、A-9、A-10地区として指定。

※範囲について知りたい人は新宿区の地区計画リーフレットが参考になるhttps://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000342914.pdf

注2ー正確には仙寿院交差点から霞ヶ丘団地交差点。霞ヶ丘団地交差点から旧外苑ハウスにそっていわゆるスタジアム通りまで範囲内。そこで日本青年館前交差点からラグビー場前交差点部分と接続。

 現在のTHE COURT 神宮外苑の所在地は渋谷区なのだから、霞ヶ丘団地交差点から新宿区と渋谷区の区の境界線を地区計画の境界線にして、渋谷区はすべて地区計画の範囲外にする方が分かりやすいはずだが、なぜこのような範囲になったのか。説明はない。

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