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都営住宅の住民は「移植」できますか?神宮外苑再開発で実質消滅した一つの町

ー神宮外苑地区再開発で見捨てられた問題点ー

 神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替える。そのあおりで建国記念文庫周辺の樹木が伐採され、4列のイチョウ並木の近くまで建物が建つことで4列のイチョウ並木に重大な影響がでる。などにより神宮外苑再開発について、世間の関心が高まってきた。神宮外苑再開発について2013年の時点から個人的に取り組んできた私にとっては隔世の感がある。しかしながら、本当に問題点が分かっているだろうかと隔靴掻痒の思いもしている。それは何か。東京都新宿区霞ヶ丘町の人口の移り変わりである。 

 神宮外苑は東京都新宿区、港区、渋谷区の3区にまたがっている地域であり、新宿区霞ヶ丘町は神宮外苑の周辺にある。この新宿区霞ヶ丘町は必要もない収容人数8万人規模のメインスタジアム建設を口実とした神宮外苑地区再開発問題で一番大きな影響を受けた町と言える。そのことは新宿区の住民基本台帳の町村別世帯数及び男女別人口からも明らかである。 

 神宮外苑の再開発によって新国立競技場が建設され、都立明治公園が新国立競技場の建設用地にされ、結果として都立明治公園の代替地として道路を挟んだ都営住宅である都立霞ヶ丘アパートが取り壊される。都営住宅を管理する東京都から都立霞ヶ丘アパートへの最初の住民説明会が開催されたのは2012年8月26日。その時期の新宿区霞ヶ丘町の世帯数は242世帯。男167人、女250人。合計417人の人口があったと平成24年8月1日現在の『新宿区 住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』には記載されている。 

平成24年8月1日『新宿区住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』

 その後、2013年6月17日に東京都告示第896号で神宮外苑地区地区計画の変更が決定され、2013年9月8日に2020オリンピック開催都市に東京都が選ばれるなど、国立競技場を取り壊し新国立競技場建設に向けて着々と既成事実が作られてきたものの、国立競技場解体談合による入札やり直し(2014年)、安倍元首相による新国立競技場整備計画の再検討(2015年)など新国立競技場を巡る不祥事が相次ぎ、新宿区霞ヶ丘町の人口は少しずつ減少したものの、地域コミュニティを形成できるだけの人口は残されていた。 

 そのことを示す資料として平成27年4月1日現在の『新宿区 住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』を提示する。この時期の新宿区霞ヶ丘町の世帯数は147世帯。男86人、女144人。合計230人の人口である。 

平成27年4月1日『新宿区住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』

 新国立競技場建設に伴う世論動向を受け、少しずつ減少を続けてきた新宿区霞ヶ丘町の人口が極端に減ったのは平成28年2月である。平成28年2月1日現在の『新宿区 住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』によれば、30世帯、男19人、女23人、合計42人と地域人口が初めて3桁を切った。

平成28年2月1日『新宿区住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』

 一ヶ月前の平成28年1月1日現在の『新宿区 住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』によれば、124世帯、男78人、女122人、合計200人もいたというのに。 
 たった一ヶ月間で94世帯、158人もの人がいなくなった理由は何か。新宿区霞ヶ丘町周辺で一ヶ月間でこれほど人口減少した場所は他にはないから、地震などの自然災害や火災等の重大事故が起きたとは思えない。万が一そういう自然災害や重大事故が原因ならマスコミやSNS上でその旨の報道がされてもおかしくないが、該当するような記載は見当たらない。

平成28年1月1日『新宿区住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』

 自然災害でなく、人口減につながる要素が新宿区霞ヶ丘町にはあった。それは都立霞ヶ丘アパートの移転先住居の使用許可が2016年1月からであり、都営霞ヶ丘アパート住民が駆け込みで引っ越しをした。これが大きな要因であると仮説を立てることができる。注1 

 私の上記の仮説が実態に沿っているなら、現在の新宿区霞ヶ丘町もほとんど人口はいないはず。そこで令和5年7月1日現在の『新宿区 住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』を見てみる。新宿区霞ヶ丘町は1世帯、男1人、女ゼロ、合計1人しか住んでいない。そして新宿区霞ヶ丘町の1世帯、男1人、女ゼロ、合計1人という状況は2022年8月から1年も続いている。
 新宿区霞ヶ丘町に女性が住んでいた記録となると2017年2月まで遡る必要があり、2019年4月1日から11月1日までの『新宿区 住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』は世帯数ゼロ、男ゼロ、女ゼロ、合計ゼロ人という数字が並んでいる。このような人口状態で良好な地域コミュニティが保てているといえるのだろうか。 

令和5年7月1日『新宿区住民基本台帳の町丁別世帯数及び男女別人口(日本人と外国人の合計)』

 
 そして、新国立競技場の建設用地とされた都立明治公園は2022年2月24日になって、2022年4年4月1日から2084年11月30日まで62年8ヶ月間もの間、年8億2200万円で貸す『定期借地権設定契約』に変更された。


2022年4月1日から62年8ヶ月間、国立競技場の敷地として使用することを認めた
『定期借地権設定契約』


 その結果として、2084年11月30日の定期借地権契約の期間終了後、新国立競技場が更地として東京都に返還され、都立明治公園として再整備。新宿区霞ヶ丘町に都立霞ヶ丘アパートが再築されたとして、引っ越しを余儀なくされた旧都立霞ヶ丘アパート住民が再入居できる可能性は何パーセントあろうか。 

 結論として、新宿区霞ヶ丘町は都営住宅である都立霞ヶ丘アパートの住民が大部分を占めている地域であり、新国立競技場建設を口実とした神宮外苑地区再開発の結果、新宿区霞ヶ丘町が実質的に消滅したと捉えるのが現実に即した考えであろう。

 なぜ「権力監視」と宣うマスコミ記者はこのような事実を報道せずに、樹木の伐採のみに視点をあてた報道を繰り返すだろうか。

注1ー平成27年5月19日、20日、23日東京都と書かれた『移転説明会資料(霞ヶ丘アパート)』のP6の移転日程表(予定)


移転先の使用許可は平成28年1月で移転完了期限は使用許可日から15日以内とある。

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