今、恋をするということ
唐突ながら、僕は今恋をしている。37にもなった枯れた年代にあって何とも滑稽な話だが、ともかく今自分は恋をしている。
ただし、異性にではなく、同性に。
何も自分がホモだったとかそういうわけではない。好きになった人がたまたま男性だった。それだけのことだ。
10数年前の当時、自分は寝取られ空来るトラウマから心身を酷く傷つけていた。リアルでもうまくいかない、なりきりチャットでもうまくいかない、もう何もかもが嫌だ……。そう思って転がり込んだのがTRPGのオープンセッションサイトであった。
文字通り背水の陣であった。ここで何らかの成果を挙げられなければ文字通り人生が終わってしまう……当時の自分はそう考えていた。
無論、TRPGのセッションサイトというものは恋愛を前提にしたものではない。しかし、あちこち逃げ回って性の何たるかに疲れ切っていた自分にとっては、もう行き場所はそこしかなかったのである。
誰にも自慢できるような最高の恋をしよう、そう考えていた。しかし結果としてそれはうまくいかなかった。当時大学に行くために早起きをし、不規則なバイトのシフトに悩まされていた自分にとって、そのサイトでまともに遊ぶ時間はほとんど与えられなかった。
そんなサイトで自分は運命の相手と出会った。
私のトラウマに合致するメイドの女の子をPCとしていた人だった。激しく心をかきむしられて、この子を何としても自分の隣に置きたい、守りたい、そう思っていた。
しかし、運命は自分に味方をしてはくれなかった。
泣く泣く恋愛対象に妥協をし、自分の本当の痛みも封じ込めて、自分はあの場に猛烈な不満を抱いていた。でも自分にはここしかない、そこまで追い詰められていた。妥協の果てにひょんなことからその相手と仲良くなり、プレイヤー同士の交流が始まったのは僥倖ともいえたが、自分の心の奥底には海のような澱みが溜まり続けていった。
では私のキャラクターは幸せになれなかったのか?
幸せにはなった。幸せになって熟年夫婦もかくやといういちゃいちゃぶりを今もなお見せている。
そんな中で、自分は相手のプレイヤーごと好きになり、実際の性別を知っては落ち込み、一緒に遊べないと知っては嫉妬し、半ば依存に近い形でその人に寄り添っている。
思いも確かめ合った。相手としては感謝こそしながらも消極的ながらいい返事が貰えた。
この人とずっと一緒にいたいと思っている。傍にいたいと思っている。
けれど、今の自分ではそれを叶えられないのが酷く悔しい。
ゆくゆくは一緒に暮らしたいとさえ思っている。一緒に暮らして横でゲームのプレイ風景を眺めていたりしたほうが自分の嫉妬もいくらか安らぐような、そんな気がするからだ。
相手がそれにも消極的なのが、困り者だけれど。
この幸せを手放したくはない。そのためには何ができるだろう?
今のこの最低の僕で。
今もなお、その答えを探し続けている。
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