優しさの連鎖-映画「すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」感想-

みなさんこんばんは、本日は現在上映中の映画「すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ」の感想について話します。私はすみっコぐらし全然知らないんですが、ゴジラより面白いってツイートを見かけて俄然気になって観てきました。

…傑作でしたね。あんなファンシーな見た目なのに骨太のドラマのギャップにやられました。

だってさ、資本主義批判や能力主義社会での自己肯定感の問題に切り込んでくるとは思わないじゃん。

まあ、最初のキャラクター説明のあたりでこいつらかわいい見た目してるけど、社会のメインストリームからは外れた存在なんだってのが示されることで背筋伸びますよね。

以下ネタバレありでストーリーに触れていきます。

今作ではすみっコたちが、森で見つけたくま工場長(画像真ん中)の指揮するおもちゃ工場で働きます。最初はたどたどしかったすみっコたちが段々上手におもちゃが作れるようになっていく様子が見ててワクワクしますね。

工場で作られるおもちゃは、最後にくまのスタンプを押されることでなんと動き出す。街の住人と楽しそうに遊んでます。

工場もホテルのような宿泊設備に食べ放題のご馳走と至れり尽くせり…

しかし、くま工場長が売り上げや個人の仕事量を張り出したあたりから雲行きが怪しくなります。日に日に増加するノルマ、疲れをみせるすみっコたち。…これ本当にファンシーグッズキャラクターの映画?

そして最大の疑問は、なぜそこまで生産拡大にこだわるのかということ。そんな何百個何千個も生産したって捌ききれないだろう。

そうです、おもちゃ工場は街の人々を笑顔にするというよりも、もはや生産それ自体が目的となってしまいました。

「あそんで、あそんで」と街中に溢れるおもちゃたちの画はかわいい通り越してゾンビ映画を彷彿とさせます。

住人たちも怖がって外に出られなくなってますからね。

ある日手違いでおもちゃの箱に入れられて工場の外に出てしまったちびっこたち(雑草とかなめくじとか)。すみっコたちは彼らを探しに行こうとしますが、それを阻む工場と工場のロボット。なんと外に出してもらえない。まるで奴隷扱いですよ。というかくま工場長はなにをしているんだ?

すみっコたちはくま工場長に直談判するため、なんとか工場長室へ向かいますが、そこで目にしたのはもう動かないくま工場長。

なんとくま工場長の正体はおもちゃ工場で作られたくまのぬいぐるみでした。

ではこの工場を動かしてるのは誰?

…その正体は工場自身でした。

工場は昔は小さく、手作りのおもちゃは街の人々を笑顔にしてました。事業が軌道に乗り、従業員も増え、工場も機械制へ。おもちゃを大量に生産できるようになり、工場は賑わいを見せていきました。

しかし、何事にも終わりは来るもので、そのうち売り上げが減少、工場は閉鎖されました。

さて、工場はおもちゃを作るためにありました。そんな自分の存在意義を見失った工場は、おもちゃが作れないともう一度見捨てられると思い、際限のない生産拡大へと進んでしまったのです。

すみっコたちはそんな工場に、自分たちは仲間だ、別におもちゃが作れなくても大丈夫だと手を差し伸べます。

そして工場はおもちゃが作れなくなっても、また新しい一歩を踏み出すのでした。

私たちは往々にして社会的に成功しなければならない、自分の存在価値は◯◯だ。という考えに囚われがちではないでしょうか。

学生なので大した経験はありませんが、私だったらテストの点がよくなければ、第一志望の大学に入れなければ自分に価値はないって何かに追われるように勉強してましたね。

そんな考えを解放してくれるのが今作です。言ってしまえば「あなたはそのままでいい」ってのがすみっコぐらしのテーマではないでしょうか。すみっコたちはそれぞれの種族の中でははぐれ者かもしれませんが、それを卑下することもせず、同じような境遇の仲間と楽しく暮らすことができています。

自分はダメなやつだからこの社会では生きていけないって塞ぎ込んでしまいそうになっても、すみっコたちは寄り添ってくれるのではないでしょうか。

そして、そこで大事になってくるのが利他性です。劇中で別に工場のみんなを笑顔にしたいという動機を否定しないのがミソです。工場はすみっコたちの優しさに触れることで別の方法でみんなに笑顔を届ける方法を見つけるのです。

ストーリー説明では隠してましたが、今回のキーマンはすみっコの一員のしろくまです。しろくまのドラマは映画館で確認してもらうとして、優しさの連鎖がこの物語を解決に導きます。

言い換えると資本主義から「贈与」によって解放されていく過程を、すみっコぐらしの設定を活かして見事に描いたのがこの映画です。

今求められている物語の最先端なんじゃないか?

小難しい言葉を使ってしまいましたが、この辺気になる方は近内悠太の「世界は贈与でできている」を読んでみてください。

映像も見所があり、演出も素晴らしいので気になった方は是非映画館に足を運んでみてください。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

それでは次回の投稿でお会いしましょう。

渡部

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