見出し画像

【展示物のない展示空間】矛盾する建築 ~ユダヤ博物館~

仕事が忙しすぎて、なかなか更新できずにいたくろちゃんだ。仕事ばかりしていると、ある時突然、虚しい気持ちに襲われることがある。

「ここ3週間くらい、やりたかったこと全然できていないな」みたいな。

今日はドイツベルリンのユダヤ博物館について話したいと思う。
ユダヤ博物館では、ホロコーストの記録や遺品が展示されている。
ユダヤ博物館は、アメリカ人建築家のダニエル・リベスキンドによって設計された。彼の両親はユダヤ系でホロコーストの生存者でもある。

彼は、ヴォイドという概念を用いて、ホロコーストによる惨劇を建築として表現した。

設計者の想いが建物に体現された時、建物(building)は建築(Architecture)となり、建築は空間体験者に語りかける。(byくろちゃん)

リベスキンドは、どのような想いを空間に込めたのだろうか?どのような手法を用いて、ホロコーストに対する想いを空間化したのか?みなさんと一緒に考察していきたいと思う。


1. 「ユダヤ博物館」について

表紙の写真のうねうねした蛇のような形の建物が今回ご説明するユダヤ博物館だ。
外部と内部は次のようになっている。

画像2

         ↑ 傷だらけのチタン亜鉛合金の外観

画像1

             ↑ 記憶のヴォイド

画像3

                               ↑ 継続の軸(ヴォイド空間を梁が貫く)

傷だらけの外観。何もない空虚な空間(ヴォイド)。鉄筋コンクリートの重々しい梁が空間を貫通する。
いずれも、重たい印象を受ける空間ばかり。

気付いたと思うが、ユダヤ博物館にはヴォイドという空間がいくつも存在する。このヴォイドという空間を理解することが、この建築を理解するカギとなる。

2. ヴォイド(Void)とは何か?

画像4

左側の用紙Aに見て欲しい。用紙Aからは、実際にはないのだが、右上の部分に切り取られた三角の形を連想することができる(用紙Bの部分)。
これがヴォイドだ。

画像5

続いて、左側の三角形Bを見て欲しい。三角形Bの形からは、Aの部分を連想することはできない。これは、ヴォイドでもなんでもない。

ちなみに、ヴォイドの意味は下記の通り。

Void: 欠けて 空虚な あいて

なんとなくイメージがついただろうか?
すなわち、ヴォイド空間とは、単なる吹き抜け空間ではない。本来無いはずである空間、すなわち「欠落」を表現した空間なのだ。


3.【クイズ】ヴォイドはどこにあるでしょう?

次の画像は、ユダヤ博物館の平面図だ。ここクイズ。この中にヴォイドが隠れている。それはどこでしょう??ぜひ探してみて欲しい。

画像6


4.【答え】

青色の部分が、ユダヤ博物館のヴォイドだ。つなげてみると、一本線上になっている。この部分だけ床が抜けており、天井まで抜けた空間となっている。うねうねとした展示空間を歩いていくと、何度かこの抜けた空間(空虚な空間)を通ることとなる。

画像7


5. リべスキンドが空間に託した想い

『建築設計資料集成』には、次のようなことが記載されている。

ベルリンのユダヤ人の存在について残されたものはごくわずかだという設計者の思いは、ものを展示するスペースではなく、展示するべきものの不在を展示するという絶対的矛盾において、この特異な建築形式を成り立たせている。『建築設計資料集成 展示・芸能』日本建築学会編

傷だらけの外観。
無機質な鉄筋コンクリート壁からは、ひんやりとした冷気が感じられ。
展示空間なのに展示物がないという矛盾を抱えた空間には、ぽっかりと空いたヴォイド空間が連続する。それらの空洞は、まるでホロコーストにあったユダヤ人の心のようだ。
空間体験者は、まるで建築が何かを語りかけてくるように感じられるはずだ。

6. 建築とは何か?

建築家は、建築を説明する際によく言葉を使う。しかし、実際に建築を訪れてみると、建築の説明文が書かれた看板はないし、建築家の説明付き録音テープもない。

建築とは、最終的には言葉ではない。できあがった造形が全てであり、空間体験をした人々が空間体験をして感じたことが全てなのだ。

いい建築とは、説明しなくても、空間体験者に何かを語りかけてくるものである。そういった意味でユダヤ博物館は、空間が何かを語りかけてくるような建築だと思う。

僕も設計者として、空間が語りかけてくような建築を日々目指していきたいと思う。


表紙 ARCHITECTURE DESIGNより



いいなと思ったら応援しよう!