大きな動物病院と小さな動物病院

大きな動物病院の方が、レベルが高くて良さそうに思えます。

規模は人気を反映していますし、人手が多い方が仕事内容は充実してそうです。

果たしてそれは本当でしょうか?

かつては私も勤務する獣医師が1人よりも2人、2人よりも3人の方が良い動物病院だと思っていました。

結論としては、良い動物病院というのが状況に応じて変わるため、「状況に応じて使い分けるべき」です。では、どんなときが大きな動物病院が適していて、どんなときが小さな動物病院がオススメされるのでしょうか。

今回は、私の今までの勤務経験から、小さな動物病院や大きな動物病院で起こっている現実をお伝えし、それぞれの良いところと問題点をお伝えできればと思います。1〜2人の獣医師によって経営されている動物病院を小さい動物病院としてイメージしています。では、3人が大きい動物病院か、といえばそうとも言えません。大きい動物病院は、獣医師の人数もある程度は必要ですが、地域でのポジションが確立され、医療機器が充実していて、地域で10個動物病院があれば、頭ひとつ飛び抜けて人気の動物病院、と思っていただければと思います。ちなみに完全二次の動物病院はまた状況が違うので、ここでは大きな動物病院の中に含んで考慮していません。

まず、一般的に良いと思われる大きな動物病院が抱える弱点を3点説明します。

次に、具体的にその患者にどちらが適切な医療が施せるかどうか、軽症時、重症時、麻酔時に分けて考えたいと思います。

地方か都市部か、成熟度によって違いがあるとは思います。すべてが当てはまらないということも理解はしています。

※毎度のことですがn数が1(=私見)なのでご容赦ください。

大きな動物病院の弱点

1、コストがかかる

保険点数制度の整った人医療とは異なり、自分で費用を決めないといけない自由診療ですので、動物病院によってコストは異なります。

病院の維持(施設、人件費)にかかるコストが高くなるのでしょうがないことだとは思いますが、大きな動物病院のほうが医療費が高くなる傾向があります。

参考までに日本獣医師会が報告した診療報酬の調査結果です。

http://nichiju.lin.gr.jp/small/ryokin.html

ちなみに高い医療費が悪いわけではありません。正しい獣医療を行うためにかかった分は飼い主さんから請求して良いと思っています。

2,融通がきかない

組織が大きくなればなるほど、秩序を維持するためにルールができ、その組織の中ではルールに乗っ取った行動が求められます。小さな動物病院では院長の鶴の一声であったものが、大きな動物病院ではそうはいかない、ということはよくあることです。

例えば、診察時間ギリギリ過ぎても診てくれてたのに、病院が大きくなってからは、、、とか、昔は休診日に診てくれた、とか、予約しないと診てくれない、とか。

どっちが良いとかではなく、スタッフを、そして法律を守るためには必要な変化なんだろうと思います。(病院が大きくなってもそのまま院長だけが時間外などを受け持つという気概がある院長の経営する動物病院ならこの変化はないのかも?)

その分、逆にしっかりとした夜間診療を交代性で実現している可能性もあるので、ルール内では小さな動物病院よりもよりしっかりとした体制で診療を行っている可能性は十分考えられます。

3,未熟な獣医師に診られる可能性

これが一番大きな点だと思います。たくさん獣医師がいる状態では、それぞれの能力に差があるわけで、その中から誰に診てもらうか、でその医療レベルに差が出てしまいます。

そうはいっても、大きな動物病院のほうが勉強機会も多く、熱心な先生だって多そう、、、

それもそうですが、やはり経験は大きいと感じます。二次病院として紹介を受けていた中で、よくこれで脳腫瘍を疑ったな、とか、長年の経験っていうのは恐ろしいなと感じます。

小さな動物病院であれば、常にその先生に診てもらうことができるのです。

大事なのは、手に負えないやばい疾患かどうか、正しく判断する能力。

今までたくさんの後輩獣医師を指導してきて感じるのは、無知は時としてたちの悪い悪となりうるということです。純粋で一生懸命で熱心ですが、10年に1回診断するかどうかの疾患を疑ってやまず、検査検査、、、というのはありがちなことです。子宮蓄膿症なんていう診断が簡単でよくある疾患を鑑別に挙げれない、なんていうこともありました。

もちろん指導体制が整っていればそこまで変な方には進まないのですが、目の届かないところだったり、まさかそんなことまで教えないとダメ?なんていうことは多々経験してきました。もちろん自分もそんな時代を経て来ているので、彼彼女らが悪いということではありません。

さらに取り返しがつかないのは外科手術の執刀です。

人医の研修医制度等と比較して、獣医療のそれは著しく劣っており、さぁやってみようか、と犬猫の去勢手術や避妊手術を新人の獣医師に執刀させている動物病院は未だに存在します。

成長の機会を与えている、といえば聞こえは良いし、新人獣医師もとにかくできることを増やしたいという気持ちはあるため、就職の一つの決め手になるという側面もあると思います。

成長期の動物病院は、新しいことにも積極的に手を出す傾向にあります。新しい機材を導入し、新しい手術へ挑戦し、、、それで助かる命もあるが、本当なら経験者がそこにいて、指導の下で成長し、繋げていく、そんな体制が望ましいと思います。

成熟期の大きな動物病院はこんな心配がないのかもしれません。つまり、ほとんどが10年以上経験した獣医師によって構成されているような動物病院です。

私は成長期の動物病院に勤めており、新しい獣医師が入っては辞め、が比較的多かったので、特にこの点を問題だと感じているだけなのかもしれません。

大きな動物病院、小さな動物病院、どう使い分けたらよいか?

では次に、具体的にどちらが適切な医療が施せるかどうか、軽症時、重症時、麻酔時に分けて考えてみましょう。

1、軽症時

動物病院にて診察している多くの病気は対症療法で治ります。

これは臨床経験が10年を超えた獣医師なら体感している事実だと思われます。一時的な皮膚病、外傷、消化器症状、発咳。ここでの“軽症”とは、対症療法で治ってしまう症状のものを指していると思ってください。

これらを大きな動物病院でわざわざ診てもらう必要はないです。小さな動物病院で十分ですし、それすらももしかしたら飼い主さん自身の安心がほしいためだけのニーズなのかもしれません。(ただの風邪やお腹の具合が悪いときに病院へ行くかどうかはひとそれぞれですよね)

近くで波長の合う動物病院にかかって良いと思います。(距離や診察時間などの通いやすさ、コスト、待ち時間、治療方針、検査の有無、話しやすさなど)

2、重症時

重症時は大きな動物病院のほうが適切な検査や治療を行ってくれる可能性があります。

そもそも小さな動物病院では必要な医療機器がおいてない場合も多々あります。

もちろん、いつも診ていただいている獣医師の腕を信頼し、全部を任せる、でも良いと思いますが、できる限り最善を尽くしたいのであれば、しっかり検査ができる施設を紹介してもらったほうがよいでしょう。

この重症時にきちんと大きな動物病院を紹介してくれる小さな動物病院は良心的と言えます。普段通院するのに適しているでしょう。

重症ってどこからか?というと難しいと思いますので、イメージをお伝えしておきます。

今朝から急に発作が起こった!というのも重症に思えます。

熱中症でぐったり!も重症に思えます。

しかし、これらは大きな動物病院だからよりよい治療ができるとは限りません。小さな動物病院でも適切な対処をしてくれるところは多いです。

その経過次第では大きな動物病院へ転院したり、精密検査を勧められたりすることもあると思います。

一番重症だと思ってほしい例は、病院へ通っているが良くならない、悪化している、、、などの場合です。特に通院が1ヶ月近くになるのに改善せず、新しい治療方針や検査の提案もない場合は、しっかり獣医師と相談して今後の方針を相談するべきで、場合によっては大きな動物病院へ行くことを考えてほしいと思います。

そう思うと、そんな重症なときって、そうそうあるわけではないことに気づくと思います。

3、麻酔処置時

最後に、麻酔処置時です。

これはピンからキリまであるので答えはありません。

麻酔の知識や技術、手術の技術、一つの麻酔処置に割ける人員、コスト、なにを行うか(簡単なものか難しいものか)、だれが担当するのか、、、いろんな要素が絡みます。

大きな動物病院の方が、1つの麻酔にかけれる人員が多いはずですが、忙しすぎてぜんぜん人手があかず、麻酔管理に目が届いていないようなときもありました。

小さな動物病院だけど、毎日1件しか予定を入れないので、常に3人以上が麻酔に関わるような病院もあります。

さきほども述べたように、大きな動物病院だけど1年目が執刀することもあります。

基本的にはいつも通っている、いわゆるかかりつけの動物病院(小さくても大きくても良いです)にまかせて良いと思います。無理なら無理と言ってくれるはずですし、万が一のときには、結局信頼関係ができているかどうかが非常に重要です。

ただ、麻酔が必要な状況は予防的に行う手術(避妊手術や去勢手術、歯石除去など)を除いて緊急性がある程度あるはずなので、なるべく早く予定を入れてくれる動物病院がおすすめです。

犬猫の寿命は人の5分の1から6分の1程度だと思いますので、人の感覚の5〜6倍急いで良いと思います。1ヶ月後に手術しましょう、は人で言うと半年後の手術です。できれば2週間以内に対応してくれるとありがたいですね。(個人的な感覚です)

以上、大きな動物病院と小さな動物病院について述べました。

大きいから良い、というわけではないという感じが出てしまっていますね。規模だけでは良し悪しを測るのは難しく、それほどに獣医療というものは正解が多岐に渡る奥が深いものだと思います。それに、小さな動物病院は明日の大きな動物病院かもしれません。便利に使い分けてもらえば良いと思います。

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