目に見えない敵との戦い
私は『Yamaneko』の体を抱きしめた。
「戦いは終わったんだ。もう誰かが君を傷つける事はないんだ。
おかえり、暖かい世界へ」
しばらく黙って受け入れた後、『Yamaneko』はこう言った。
「確かに、目に見える戦いは終わった。けれど、名前を失った。...どっちが勝ったんだろうな。いや、勝ち負けすら無いんだろう。ノーコンテスト。誰も見てないところでの戦い」
『Yamaneko』は、深く深呼吸をした。
「目に見えない戦いは、今も、これから先もずっと続くだろうな」
「だから、戦いは終わったんだよ!何に対して言ってるのか、分からない」
『Yamaneko』は、あの三白眼を私に向けた。
「だからさ、別に目に見える戦いが全てじゃ無いんだ。目に見えないところで、今日も色んな戦いがあって、俺の戦いも、その中のひとつでしか無い。
それだけじゃ無い。
生きている限り、自分の中に湧き上がる葛藤と戦い続けるんだ。それは放っておくと怪物に化けるし、化けちまったら最後、どこまでも膨れ上がる。
自尊心、虚栄心、『俺が俺が』って心がどこまでも膨れ上がってさ。
いくら周りが優しくしてくれても『もっと、もっと』って欲しがって。
人から受けた親切も、『当たり前』って思うようなバチ当たりになる。
俺はそう言う奴のことは『化け猫』だと思ってる」
聴くのは怖かったが、聴くしか無かった。
「『Yamaneko』は、『化け猫』になったの?」
「バカ言え。だからぼろぼろの体と、名前を引き換えに、命からがら逃げ出したんだ。...お前がいてくれたからだよ」
そう言って、頬を少しくしゃっと歪ませた。
『Yamaneko』が私に見せた、初めての笑顔だった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?