地球温暖化とIPCC第六次評価報告書の話/一般者向け入門解説(5)
※写真はアオサギとカモのにらめっこ。
一般の人にも理解できるように地球温暖化とIPCC第六次評価報告書の話を分かりやすく解説します。今回はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)内で科学的根拠の評価を行なっている第一作業部会の報告の後半内容を解説します。今回が最終回です。
C.リスク評価と地域適応のための気候情報
より一層の地球温暖化に伴い、全ての地域において、気候的な影響駆動要因(CIDs)の同時多発的な変化が益々経験されるようになると予測される。1.5℃の地球温暖化と比べて2℃の場合には、いくつかのCIDsの変化が更に広範囲に及ぶが、この変化は温暖化の程度が大きくなるとますます広範囲に及び、かつ/または顕著になるだろう。
D.将来の気候変動の抑制
温室効果ガス排出量が少ない又は非常に少ないシナリオ(SSP1-1.9又はSSP1-2.6)は、温室効果ガス排出量が多い又は非常に多いシナリオ(SSP3-7.0又はSSP5-8.5)と比べて、温室効果ガスとエーロゾルの濃度及び大気質に、数年以内に識別可能な効果をもたらす。これらの対照的なシナリオ間の識別可能な差異は、世界平均気温の変化傾向については約20年以内に、その他多くのCIDsについてはより長い期間の後に、自然変動の幅を超え始めるだろう。
※上記の引用部分は「IPCC第六次評価報告書 第一作業部会報告書 政策決定者向け要約の概要」からの抜粋。
【IPCC報告書の解説】
IPCCの報告書は分かり難いです。本当に大事なことなら一般の人たちにも分かるように書いて欲しいと思います。「気候的な影響駆動要因(CIDs)」と聞いてもほとんどの人は?だろうと思います。
「気候的な影響駆動要因(CIDs)」とは、地球温暖化の影響によって生じる種々の変化のことで、例えば、降水量の変化(増加する地域と減少する地域)、海面水位の上昇、雪氷面積の減少等のことです。これらの変化が一層の地球温暖化に伴い、ますます広範囲になったり顕著になったりするだろう、という予測です。
気候変動の将来予測をする際に、温室効果ガス排出量によるシナリオをいくつか用意してシミュレーションを行っています。SSP1-1.9は今後の温室効果ガス排出量が非常に少ないシナリオで2050年頃に二酸化炭素排出量が正味ゼロとなる場合、逆にSSP5-8.5は今後の温室効果ガス排出量が非常に多いシナリオで2050年頃に二酸化炭素排出量が2015年の2倍になる場合です。
温室効果ガス排出量の少ないシナリオを実現すれば排出量の多いシナリオに対して、世界平均気温であれば20年以内に、その他の変化(降水量、海面水位、雪氷面積等)については21世紀後半頃には改善が確認できるだろう、と予測しています。
例えば、気温変化では、SSP1-1.9(今後の温室効果ガス排出量が非常に少ないシナリオ)のケースでは、2041年〜2060年の平均気温上昇が+1.6℃とピークをつけた後、2081年〜2100年の平均気温上昇は+1.4℃と低下に転じる予測です。これに対し、SSP5-8.5(今後の温室効果ガス排出量が非常に多いシナリオ)のケースでは、2041年〜2060年の平均気温上昇が+2.4℃、2081年〜2100年の平均気温上昇が+4.4℃と更に上昇する予測です。
【後書き】
前回の第五評価報告書(2015年)から6年振りに第六次評価報告書第一作業部会報告書(自然科学的根拠)が2021年8月に公表されました。今回は、この第一作業部会報告書から大事な部分を抜粋して紹介しました。
今後、2022年の2月〜3月に第二作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)、第三作業部会報告書(気候変動の緩和)、9月に統合報告書が発表される予定です。
私は気候変動のことをもっとよく知りたいと思い気象の勉強を始めました。気象のことをほとんど知らない時は、ニュースで言われることをそのまま信じて聞いていました。情報や知識が少ないとニュースで伝えている内容について考えることができないからです。しかし、気象の知識を得てみると素朴な疑問が色々と湧いてきます。IPCCのまとめている報告書の内容をそのまま受け取っても良いのかという疑問も湧いてきます。
温室効果ガスである二酸化炭素濃度やメタン濃度が増加しているということは客観的事実であり、速やかな対策が必要であることには賛成です。しかし、一方で再生可能エネルギーの比率を上げるという名目で山の樹木を伐採し太陽光パネルを設置する工事も多数行われています。中には、貴重なブナ林を伐採して太陽光パネル設置する工事を計画し、自然保護団体が工事の中止を求めているという事例もあります。
今後は、冷静な目で地球環境全体を見渡しながら真実を見極め、あるべきより良い世界に向けて行動することが大事だろうと思います。
【おまけの情報/東京都の気温上昇】
直近100年あたりの東京都千代田区の気温上昇は2.4℃で、東京都の八丈島の気温上昇は0.7℃です(東京管区気象台の「東京都の気候変化」より引用)。
東京を始め日本・世界の各都市の気温上昇は、地球平均気温の上昇よりも大きくなっています。これは、都市化に伴う局地的な気温上昇(千代田区の場合、2.4-0.7=1.7℃相当分)です。夏の猛暑日や暖かい冬の日には、テレビのワイドショーやニュース番組で「これも地球温暖化のせいですかね」とよく言っていますが、その問題の主原因は都市化によるものです。都市化に伴う局地的な気温上昇も人為起源の気温上昇ではありますが、それは温室効果ガスの影響に比べると小くIPCCでも問題にされていません(緑地を増やす等の対策はした方が良いと思いますが)。
このように、ものごとは正しく理解をして問題の原因を全て正しく理解することが大切だと思います。ちなみに、東京都の都市部の気温は産業革命前と比べて既に3〜4℃上昇していると言われています(地球平均は約1℃の上昇/IPCC情報)。また、夏場に日本海側から風が吹くとフェーン現象も加わって東京や関東平野の各都市は気温が更に上昇して40℃近い気温となったりしますし、太平洋側から風が吹くと沿岸都市部で発生した熱が関東平野の内陸部に運ばれて関東平野全体が暑くなります。群馬県が暑いのはこのためです。このように、暑くなることの原因は一つではありません。
ついでなので群馬県ネタを一つ紹介します。館林市は数年前までは日本一暑い市として売り出していました。しかし、館林市の気温観測地は周囲を駐車場(アスファルト)で囲まれて気象観測地としては不適切だと指摘されていました。そしてある事情(観測地である消防組合の移転)によって平成30年6月に観測地を近くの高校の敷地内に移転しました。その年の夏は新旧両地点の気温比較も行われ、その結果、夏の最高気温の平均値は0.4℃低下(1℃近く気温低下した日もあり)しました。気候変動で1℃、2℃の議論をするなら気温の測定精度もしっかり管理してほしいという一例です。
都市化による気温上昇については、下記の記事を参照下さい。
以上