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ブラック・ジャックの世紀末的な道路交通事情をデータ化する記事

連載50周年なので、夏休みの自由研究代わりに作成。高橋一生版のドラマは見逃しました。



小学校の図書室ではだしのゲンと同列に置かれた豪華版のブラック・ジャックが、手塚治虫作品の原体験という方、結構いると思います。


自分もその一人で、学び舎という特殊な空間の中、歴史系や偉人モノではなくエログロ要素もあるのに何故か読むことを許されているマンガ作品、という点になんともいえない背徳感を覚え、他の子がドッヂボールへ興じているのを横目に夢中で読みふけっていました。



昔語りもほどほどに本題へ入りますが、初めて読んだ当時から思ってたこととして、このマンガやけに交通事故描写が多いんですよね。



先述の豪華版(=文庫版)ブラック・ジャックは全17巻231話なんですが、そのうち交通事故描写を含む回は全部で38話もあります。これはがん/白血病描写の19話、銃撃による負傷/死傷描写の33話を上回る数字で、全体の16.4%に相当する多さです。



これだけの偏りには何かしらの意志が介入しているに違いないので、その理由を38話全て個別検証することでこじつけ考察していきたい、というのが本記事の趣旨です。丁度我が子へ布教する用に実家から全巻引っ張り出してきたとこだし。


ちなみに検証の前提ですが、ブラック・ジャックの書籍はサザンやEXILEのベスト盤みたいに複数の出版形態があり、ものによっては収録順や内容が違ったりします。




今回はデータ集計にあたり、上記Wikiで言うところの秋田文庫全17巻(豪華版シリーズと同じ収録順)を参考にしました。



秋田書店、手塚治虫
『ブラック・ジャック』
秋田文庫第1巻表紙より


作者の没後にチャンピオン掲載順を無視した順番で収録して刊行、という謎仕様ですが、先述のとおり自分の初体験はこの収録順なので、読んでて一番しっくり来るんですよね。また順番の入れ換え、という作為を通して、出版社側の方針やプライオリティを推し量れるかもしれないですし。



とは言え雑誌掲載順からも何かしら見えるものはあると思われるので、話数が明記されている40周年公式サイトのリンクも併せて貼ることにしました。エピソード人気投票のために作られたサイトなので、投票数(=読者にとっての印象の強さ)も指標にできて一石二鳥。




各話ごとのあらすじも載ってしまっていますが、学校にある時点で事実上教科書みたいなものなので、ネタバレについては度外視することにします。つーかバレてなお普通に面白いですしね、ブラック・ジャック。


まずは対象となる38話を文庫本の収録順で列挙し、内容の細かい分析を行った上で、その背景に何があるのかを考察、という順番で行きます。




①考察対象エピソードの紹介(38話/231話中)


話ごとのタイトルはサイトではなく、手元にある文庫本の表記に統一しています。


1巻


12話収録 該当4話


・医者はどこだ!

事故描写の詳細:

物語冒頭で意図的な暴走運転をかました悪童アクドくんによる自損事故。本人も重体となり、B・Jによって表向き治ったことになっているが、実はもう死亡している。第1話なのでカラー回。


・六等星

事故描写の詳細:

B・Jが椎竹先生について語る過去回想中、鉄材をつんだトラックが自損事故を起こしている。運転手は挟まれて身動きがとれなかったが、椎竹先生に迅速な応急処置をしてもらえた。その後の経過は不明。


・アリの足

事故描写の詳細:

ポリオの少年から財布をひったくった暴走族数名を、B・Jが自分の車で轢いて追い払った。全員逃げたので大事には至っていないっぽい。


・二つの愛

事故描写の詳細:

板前のタクがトラックにはねられ、両腕を切断する重症を負った。その後轢いた運転手の有馬がタクの代わりに板前となったが、今度はその有馬がトラックに轢かれて死亡した。ちなみにカラー回。



2巻


14話収録 該当3話


・ダーティ・ジャック

事故描写の詳細:

高速道路のトンネルの崩落に、幼稚園児を遠足へつれていく途中のトラックと、B・Jの車が巻き込まれた。子ども5人が死亡、残った子のうち半数も重体。カラー回。


・流れ作業

事故描写の詳細:

院長の娘がトラックに轢かれて重体。B・Jが手術し一命はとりとめる。



・助け合い

事故描写の詳細:

B・Jの冤罪を証言により救った商社マンの蟻谷が、つとめ先の不正隠蔽のために命を狙われることとなり、車で後ろから線路に突き飛ばされて電車へ轢かれ重体。B・Jが高速道路逆走などの道交法違反を駆使して警察を撒きながら搬送先の病院までたどり着き、手術して回復。


3巻


15話収録 該当4話


・B・J入院す

事故描写の詳細:

物語の冒頭でB・Jの乗る車が対向車と正面衝突し、右腕を折る重体。搬送先の病院で治療を受け回復するも、今度はそのオペを執刀した医師がトラックにはねられ重体。その後の経過は不明。



・ふたりの黒い医者

事故描写の詳細:

自宅にいた女性のところへ表通りからトラックが突っ込み、背骨の骨折で寝たきりになった段階で物語開始。B・Jの手術により回復するも、移送中の病院車とトラックが正面衝突し、女性とその子どもは全員死亡。


・ピノコ愛してる

事故描写の詳細:

子どもがトラックに轢き逃げされ、B・Jが手術するも死亡。


・奇妙な関係

事故描写の詳細:

1億円強奪事件の犯人と刑事のカーチェイス中、刑事側の車が自損事故を起こし、両足の複雑骨折。B・Jが手術しリハビリ中。


4巻


14話収録 該当2話



・デカの心臓

事故描写の詳細:

車がスリップして鯉の生け簀へはまった。運転手にケガはないが鯉を守るために車を押そうとしたデカが挟まれ、足をケガした。B・Jの手術により回復。


・万引き犬

事故描写の詳細:

物語冒頭で万引き犬ラルゴがトラックにはねられた。B・Jが手術し回復。


5巻


14話収録 該当1話



・されどいつわりの日々

事故描写の詳細:

直接の描写はないが、物語開始時点で子ネコが車に轢かれている。その後アイドルの桃田善江が自損事故による四肢の対麻痺となっていたことが判明。B・Jの手術により回復するも、実は桃田は自殺企図により前回の事故を起こしており、退院後再度自動車事故による自殺を決行し、今度は死亡。子ネコは親ネコが傷をなめて治した。


6巻


14話収録 該当3話



・からだが石に…

事故描写の詳細:

進行性化骨性筋炎の息子を救うため、脳移植先の死体を轢いて確保しようと父親が暴走運転を起こし、母親が巻き込まれてお腹にいる赤ちゃんが死亡した。



・ナダレ

事故描写の詳細:

知能をつける手術を受けた鹿が、森を開発するトラックを見境なしに襲い、横転や衝突事故を引き起こしたもの。カラー回。


・身代わり

事故描写の詳細:

手術の天才クロイツェル博士が、交通事故により植物状態となった。劇中では回復していない。


7巻


14話収録 該当3話



・ふたりのピノコ

事故描写の詳細:

ピノコの顔のモデル、ロミの死因が公害病であることを告発しようとした保健所の医師が、口封じのために暴力団のトラックに突き飛ばされ、崖下へ転落し重症。B・Jが治療し一命はとりとめる。


・黒潮号メモ

事故描写の詳細:
ロケに遅れそうだったスター俳優の帆村が、対向車と接触後そのまま当て逃げ。車の中にはB・Jが手術を成功させたばかりの患者が乗っており、事故が元で死亡した。


・タイムアウト

事故描写の詳細:

鉄骨を大量に載せたトラックが荷崩れを起こし、後続の軽トラと通行人の幼児が巻き込まれた。軽トラの運転手は命に別状なし、幼児は重症だったがB・Jが手術し成功。


8巻


14話収録 該当3話


・殺しがやってくる

事故描写の詳細:

大統領の手術を阻止するためにB・J宅へ殺し屋が侵入したさい、こっそり抜け出したピノコが車で逃げようとして自損事故を起こしたもの。ピノコはB・Jが治療し回復。その後殺し屋は大統領暗殺に成功し、車で逃走の過程で自損事故を起こし死亡している。


・再会

事故描写の詳細:

冒頭でトラック運転手である主人公が通行人の女性を過失により轢いた。女性はB・Jの手術で一命をとりとめるも、ショックで記憶喪失となった。



・通り魔

事故描写の詳細:

物語冒頭においてB・Jが冤罪で追われた際、カーチェイスから警察を撒くため意図的に自分の車を崖下へ突き落とした。B・Jはその後パトカーを奪い逃走。


9巻


14話収録 該当3話



・ある教師と生徒

事故描写の詳細:

担任の先生の暴言に耐えかねた生徒が自分で車へ飛び込み、打ち所を悪くして重体となった。その後経緯を知った担任の先生も自責に駆られて車へ飛び込んだ。両者ともB・Jが手術して回復。カラー回。


・二人三脚

事故描写の詳細:

活動家主導による、B・J宅へ突っ込ませた爆弾つきの自動車が途中で爆発し、中にいた活動家メンバーと、その父親が巻き添えになった。父親は死亡、メンバーは父親の身体移植してもらって無事。


・三度目の正直

事故描写の詳細:

F-1レーサーがレース終了直後に意識消失し、ブレーキをかけられなくなった。壁に激突する前に鉄条網を踏んでタイヤがパンクし、車はスピンするも運転手は大事に至っていない。


10巻


14話収録 該当3話


・骨肉

事故描写の詳細:

父親の危篤に駆けつけたB・Jが、財産目当てだと思った異母妹の差し金で拉致され、車で逃走する際に足へ銃撃を受け、車が横転した。B・Jは足のケガを自分で手術して治した。


・盗難

事故描写の詳細:

伯爵夫人が日本でのハネムーン時に車ごと落石事故に巻き込まれ、両手両足を失う大ケガを負った。


・人形と警官

事故描写の詳細:

警官が交通整理の抑止用として立っている人形に入れ込み、人形へのいたずらを防ごうとしたところで車にはねられた。B・Jが手術し回復。


11巻


14話収録 該当3話



・がめつい同士

事故描写の詳細:

借金のかたに財産を差し押さえられた一家が、トラックへ突っ込んで心中を図った。B・Jが処置し全員一命を取り留めた。


・話し合い

事故描写の詳細:

回想シーンにて、不良が担任教師を半殺しにしようとして両方ともトラックにはねられた。ふたりとも本間先生が手術し、不良は助かったが先生は亡くなった。


・ポケットモンキー

事故描写の詳細:

ポケットモンキーを大事に飼っている妻良内さんのことを、トラック運転手が所持金目当てで2回轢いて殺し、他の車に罪を擦り付けようとした。


12巻


13話収録 該当1話


・密室の少年

事故描写の詳細:

少年がトラックにはねられ、処置を満足にしてもらえず身体に麻痺が残った。少年はその後超能力を発現し、終盤で能力が暴走してその影響で複数の自動車の玉突き事故が起きた。


13巻


14話収録 該当2話



・あるスターの死

事故描写の詳細:

老スターがB・Jに整形手術を依頼し、手術の成功後に運転している車がトラックと正面衝突して死亡した。



・のろわれた手術

事故描写の詳細:

ミイラを発掘した学者に様々な形で呪いがふりかかり、そのうち一人が車に轢かれ重傷となった。


14巻


14話収録 該当1話



・B・Jそっくり

事故描写の詳細:

金にがめつい内科医に治療をさせるため、弱みを握っていることをB・Jが伝えたところ内科医が逆上し、タクシーでB・Jを追い回す過程でトラックと衝突事故を起こした。内科医は植物状態となるもB・Jが手術し回復した。


15巻


14話収録 該当なし



16巻


12話収録 該当なし



17巻


11話収録 該当2話



・ふたりの修二

あ事故描写の詳細:

会社の派閥争いの過程で、社長の放蕩息子に弱みを握られた半社長勢力が息子を殺そうと車で追いかけ、その過程で電車に突っ込み全員死亡した。



・化身

事故描写の詳細:

牧場主がプロミネンスという競走馬をはね殺して息子を牧場に戻らせようと企てるが、誤って馬だけでなく肝心の息子もトラックではねてしまった。息子は脳死状態になるがB・Jにプロミネンスの脳を移植され、人馬一体となって蘇生した。




以上38話です。考察を行うに辺り、特に気になる箇所は太字表記にしてみました。


上記データを分析してみます。



②考察に先駆けた分析


・共通項の洗い出し


各エピソードを見比べ、複数の回で共通している要素を列挙していきます。先ほど太字で強調したやつですね。


目についたのは以下の3点。


(1)治安の悪さ

ひとめ見てわかる要素。過失ではなく故意のハンドルさばきや、警察から逃げるためのカーチェイス描写を含む回が12話もあります。


そのうち3回はB・J本人がハンドル握ってるのもポイント高いです。


(2)天丼/引導火力事故

これも気になった点。38話のうち、1エピソードのなかで事故の被害者が立て続けに出る回が7話あります。またそれと一部重複する形で、B・Jが手術成功したにも関わらず車にリーサルされて結局死亡、というパターンが4回起こっています。



アニメや実写で擦られまくってる名エピソード、『ふたりの黒い医者』もこの系譜なので、結構記憶に残ってる方も多いのではないでしょうか。


(3)カラー回

38話中、本編にカラーページのある回が5話あります。


ブラック・ジャックのカラー回は231話中の29話なので(扉絵のみセンターカラーとかあるならもっとかも)、その6分の1強、と考えたら結構多い気がします。


・収録順から見える要素の抽出と、ソート条件の変更


該当エピソードは文庫本の収録順だと、前半3巻が特に多めで、4・5巻のインターバルをはさんで以降は3話収録で横ばい、後半になるにつれそれもだんだん少なくなっていきます。特に多くの人が最初に目を通す第1巻に至っては、12話しか収録されてないなか、そのうちの1/3にあたる4話にわたって交通事故回があるなど、露骨な偏りが見られます。


先述のとおり文庫本は作者の没後に収録順をいじられてるので、少なくとも出版社側には事故回を序盤に固めておきたい理由がある、と推察できます。


次にソート条件の変更を行います。


まずは連載当時に雑誌に掲載された順に並び替えてみます。要するに手塚治虫が思いついた、もしくは世に出そうと考えた順ですね。


並べるとこんな感じ。


【001】医者はどこだ!(カラー回)
【009】ふたりの修二
【011】ナダレ(カラー回)
【013】ピノコ愛してる
【015】ダーティ・ジャック(カラー回)
【023】万引き犬
【029】化身
【032】ある教師と生徒(カラー回)
【044】二つの愛(カラー回)
【049】アリの足
【051】ふたりの黒い医者
【059】のろわれた手術
【061】ふたりのピノコ
【064】からだが石に…
【095】奇妙な関係
【103】デカの心臓
【104】タイムアウト
【116】三度目の正直
【122】殺しがやってくる
【127】あるスターの死
【134】盗難
【149】B・J入院す
【171】通り魔
【175】六等星
【184】二人三脚
【191】助け合い
【193】がめつい同士
【202】人形と警官
【210】黒潮号メモ
【213】密室の少年
【215】ポケットモンキー
【219】身代わり
【222】骨肉
【223】再会
【224】話し合い
【225】されどいつわりの日々
【226】B・Jそっくり
【228】流れ作業


上記の中で特に目を引くのは、冒頭15話内における割合の多さと、第219話以降の怒涛の連投です。また5話あるカラー回は全て前半50話以内に集中しています。


これらの背景にある当時の事情を先述のWikipediaから引用すると、

手塚本人が言う「冬の時代」(1968年-1973年)であり、少年誌での連載が激減し、読み切りが増加。
(中略)
1973年には虫プロ商事と虫プロダクションが倒産し、まさにどん底にいた。

そんな中『週刊少年チャンピオン』編集部は、手塚に漫画家生活30周年記念作品(ただし、1973年当時手塚はデビュー28年目である)として「かつての手塚漫画のキャラクターが全部出る作品」の企画を依頼する。編集部内で『週刊少年チャンピオン』編集長の壁村耐三が担当編集者の岡本三司に「死に水をとろうか」と相談をもちかけたくらいの状況に追い込まれていた手塚はこれを了承する。

担当編集者の岡本によると「最初の予定では、4・5回連載して最後は無人島でエンディング…」「一種のバラエティ番組的なニギヤカシ作品のはずだった」ことからあまりやる気が出ず、
(中略)
いざ連載が始まっても、巻頭カラーもなく、地味な扱いが続いた。

連載開始の当初は人気が低く、ほぼ最下位であり、担当編集者の岡本は編集長の壁村から「どうする?」と聞かれ困ったというが、その後、じりじりと順位を上げ、50話「めぐり会い」で2位に浮上、以降は軌道に乗った。

「人生という名のSL」で定期連載は終了するが、その後も『週刊少年チャンピオン』誌上で散発的に13本発表された(最終作品は「オペの順番」)。


となり、これを踏まえると前半の15話は大御所の権威がぐらつき横綱相撲ができない状態、第219話以降は定期連載最終話の『人生という名のSL』が第218話なので、不定期連載となって読者の目に触れる機会が減った状態、ということになります。


いずれにも共通するのは読者の気を引くために1話あたりのバリューを高める必要がある、ということで、手塚治虫的にそういう大事な回では交通事故エピソードをチョイスしがち、ということがわかります。


そういう意味ではカラー回が多いというのも、自分にスポットライトが当たる週なので、そこに勝負エピソードをぶつけた結果、と考えると納得ができます。


ちなみに第1話から、交通事故回としては最後のカラーである第44話『二つの愛』までの間に、文庫本で確認できるカラー回は全部で11話あります。


【001】医者はどこだ!
【004】アナフィラキシー
【011】ナダレ
【015】ダーティ・ジャック
【016】ピノコ再び
【017】灰色の館
【025】パク船長
【028】ピノコ生きてる
【032】ある教師と生徒
【033】なにかが山を…
【044】二つの愛


※太字は交通事故回


主要人物であるピノコの掘り下げ回や、B・J自身がケガをする回、怪奇要素を含む回などなかなかにインパクトの強いエピソードが揃っていますが、その中の約半数が交通事故絡み、というのは特筆しておくべきかと思います。



次に40周年企画で行われた、全エピソード人気投票の得票順にソート条件を変更してみます。



ここから読み取るのは読者的に興味関心の高いエピソードと、交通事故描写との間にどの程度の相関関係があるかです。上記サイトの投票結果から、交通事故回のみを抜粋すると以下の通りになります。


第2位 【175】六等星 (文庫本第1巻収録)
481票

第10位 【051】ふたりの黒い医者 (文庫本第3巻収録)
231票

第11位 【013】ピノコ愛してる (文庫本第3巻収録)
215票


第12位 【044】二つの愛 (文庫本第1巻収録)
214票※カラー回

第20位 【184】二人三脚 (文庫本第9巻収録)
162票

第21位 【061】ふたりのピノコ (文庫本第7巻収録)
161票


第22位 【191】助け合い (文庫本第2巻収録)
159票


第30位 【011】ナダレ (文庫本第6巻収録)
102票※カラー回


第31位 【049】アリの足 (文庫本第1巻収録)
92票


第33位 【001】医者はどこだ! (文庫本第1巻収録)
81票※カラー回


第34位 【023】万引き犬 (文庫本第4巻収録)
80票


第43位 【223】再会 (文庫本第8巻収録)
67票


第58位 【122】殺しがやってくる (文庫本第8巻収録)
44票(同率あり)


第58位 【224】話し合い (文庫本第11巻収録)
44票(同率あり)


第64位 【032】ある教師と生徒 (文庫本第9巻収録)
42票(同率あり)※カラー回


第72位 【095】奇妙な関係 (文庫本第3巻収録)
38票(同率あり)


第87位 【222】骨肉 (文庫本第10巻収録)
31票(同率あり)


第107位 【149】B・J入院す (文庫本第3巻収録)
23票


第108位 【202】人形と警官 (文庫本第10巻収録)
22票(同率あり)


第119位 【029】化身 (文庫本第17巻収録)
19票(同率あり)


第119位 【213】密室の少年 (文庫本第12巻収録)
19票(同率あり)


第132位 【210】黒潮号メモ (文庫本第7巻収録)
15票(同率あり)


第132位 【225】されどいつわりの日々 (文庫本第5巻収録)
15票(同率あり)


第137位 【015】ダーティ・ジャック (文庫本第2巻収録)
14票(同率あり)※カラー回


第137位 【104】タイムアウト (文庫本第7巻収録)
14票(同率あり)


第143位 【226】B・Jそっくり (文庫本第14巻収録)
13票(同率あり)


第149位 【171】通り魔 (文庫本第8巻収録)
12票(同率あり)


第157位 【219】身代わり (文庫本第6巻収録)
11票(同率あり)


第167位 【059】のろわれた手術 (文庫本第13巻収録)
10票(同率あり)


第167位 【228】流れ作業 (文庫本第2巻収録)
10票(同率あり)


第184位 【103】デカの心臓 (文庫本第4巻収録)
6票(同率あり)


第184位 【134】盗難 (文庫本第10巻収録)
6票(同率あり)


第184位 【215】ポケットモンキー (文庫本第11巻収録)
6票(同率あり)


第200位 【009】ふたりの修二 (文庫本第17巻収録)
5票(同率あり)


第210位 【064】からだが石に… (文庫本第6巻収録)
4票(同率あり)


第210位 【127】あるスターの死 (文庫本第13巻収録)
4票(同率あり)


第220位 【193】がめつい同士 (文庫本第11巻収録)
1票(同率あり)


第224位 【116】三度目の正直 (文庫本第9巻収録)
0票(同率あり)


2,474票/総投票数11,396票


上記のとおり、総投票数のうち21.7%が交通事故回です。得票数の最も高いエピソードは、2位の『六等星』でした。


またこの企画は上位40位以内のエピソードで単行本を作る、というものなんですが、その40位以内に交通事故回が11話、カラー回が3話も入っています。



また文庫版の前半3巻に収録されたエピソードの順位が比較的高いのもポイントですね。特に第1巻なんて4話全部40位以内に入ってるし。


これはおそらく自分みたく豪華版(文庫本)で始めて作品に触れた世代のファーストインプレッションが反映されているか、あるいは元々連載当時から人気の高いエピソードであり、それを豪華版(文庫本)発行にあたり呼び水として最初に収録した結果こうなった、もしくはその両方の可能性が考えられます。ちなみにもしこれが後者だった場合、作者だけでなく出版社側も交通事故回を人気取り用の勝負回として認識している、ということになります。


いずれにせよ交通事故描写と読者の興味関心には多少の相関関係があると見てよさそうです。



以上でデータの分析は終わったので、それらの結果を踏まえて考察に入っていきます。


③理由の考察


ここまでの分析から、

Ⅰ).過失よりは故意による事故描写が多い

Ⅱ).1話中複数回の事故や、手術成功後に事故で死亡、というパターンが多い

Ⅲ).作者は(もしかしたら出版社も)人気をとりたい時に交通事故エピソードを使う傾向にある


ということがわかってきたので、そこから想定される理由を考察していきます。本当のところは関係者にしかわからないため、あくまで個人の感想の範囲です。


理由として思いついたのは下記の4点。


・見映えのよさ、わかりやすさ


一番妥当な理由。運転や事故の描写をいれることで、作品に動きが出てコマが派手になります。言い方は不謹慎なんですけど、曲線を多用する疾走感のある手塚絵と、衝突/事故の描写ってすごい相性いいと思うんですよね。



秋田書店、手塚治虫
『ブラック・ジャック』
秋田文庫第1巻P5より



同上、P266より


第1話なんて事故描写の方にカラーページ全部使って、主人公の初登場シーンは白黒ですからね。あの人元々白黒だからべつにいいけど

読者の印象に残るシーンを自然と挿入できる、という点で、交通事故回はアイキャッチ重視のフォーマットとして優秀であることが分かります。



また先述のWikipediaによると、この作品は構想段階から

ブラック・ジャックというキャラクターには医学生だった頃の手塚自身が反映され、また劇画ブームに対抗する(あるいは取り込む)意味でアウトサイダー的な存在として描かれた。

という前提で作られているので、主人公含む登場人物が行う数々の無法行為は、そもそもキャラ造形や世界観醸成のために不可欠であり、確信犯的に取り入れることで誌面上における他作品との差別化を図っていた、という可能性も高そうです。



・身近な恐怖の演出


がんや脳疾患、その他難病奇病や超常現象まで出てくる本作ですが、それらと違って交通事故はどんな人間にも起こり得るものなので、読者目線で登場人物の境遇に感情移入しやすくなる、という効果があります。


またこの作品の連載開始は1973年なんですけど、この頃って国内交通事故死者が最大になった直後で、交通戦争の余波が未だ色濃く残ってる時期なんですよね。



そんな世相もあって、交通事故に対するシンパシーが現代よりさらに強かったんじゃないかな、と想像します。



・人間ドラマにリソースを割ける


交通事故は難病奇病みたいにオリジンや治療法をいちから考えなくても成立する上、事故の状況やケガの仕方で無数のバリエーションを生むことができ、マンネリが起きにくいです。加えて事故にあう前の被害者/事故を引き起こした加害者という、病気とは無縁の人間にスポットライトを当てやすいのもメリット。


総じて応用の利く非常に優秀な舞台装置で、本作でも途中まで登場人物の掘り下げを行った上で、場面転換のタイミングで唐突に自動車、という回が結構あります。


ちょっと前にネット小説でナーロッパ直結のデストラック展開が流行りましたが、それを書いた人たちが下手したら生まれてないような頃から、巨匠が同じようなことやってたって考えると感慨深いです。


・作品テーマの表現


最後に手術成功した患者をリーサルしてくる自動車問題ですが、個人的にこれはWikipediaでいう以下のテーマを表現するのに適した題材だから、だと思っています。

手塚は「ブラック・ジャックは医療技術の紹介のために描いたのではなく、医師は患者に延命治療を行なうことが使命なのか、患者を延命させることでその患者を幸福にできるのか、などという医師のジレンマを描いた」としている。


このテーマは劇中だと、


秋田書店、手塚治虫
『ブラック・ジャック』
秋田文庫第1巻P110より



秋田書店、手塚治虫
『ブラック・ジャック』
秋田文庫第3巻P47より



という、自然の意思に対して一個人は(いい意味でも悪い意味でも)あまりに無力、という思想か、


秋田書店、手塚治虫
『ブラック・ジャック』
秋田文庫第6巻P105より


秋田書店、手塚治虫
『ブラック・ジャック』
秋田文庫第2巻P279より


という、人間の業は善性を凌駕する、という思想のどちらかに寄せて表現されることが多いです。


で、これを自動車事故に当てはめた場合、車=科学=人間の業と見ることもできるし、過失による事故を逃れられない天命=自然の意思と見ることもできるので、テーマの具象化にあたって非常に都合のいいモチーフなんですよね。


このテーマには一応作中で手塚治虫なりのアンサーが提示されてるんですが、それに言及したのが交通事故回、というのは特筆すべきです。


秋田書店、手塚治虫
『ブラック・ジャック』
秋田文庫第3巻P194より



まとめ


個人的名作の条件として、

『本筋と関係ないところであっても話題のタネが尽きない』

というのがあるんですが、本記事を書くにあたって10年振りぐらいに熟読してみて、連載開始から50年経ってなお味のするガムを作った手塚治虫ってやっぱ凄いな、と再認識しました。


こんな不謹慎な記事をきっかけにするのもどうかと思いますが、昔読んだきりで終わっている方は久々に読み返すと何かしら発見があるかもしれないですよ。



おまけ



有名な話ですが、ブラック・ジャックには実は続編?と言えるようなものがあり、それがこのミッドナイトという作品です。



秋田書店、手塚治虫
『ミッドナイト』
秋田文庫第1巻表紙より



もと不良のタクシードライバーを主人公にした1話簡潔方式の作品ですが、B・Jが全編に渡って重要な役どころで登場してきます。


これまでさんざん言及してきた以上に無法のハンドルさばきが楽しめるので、本記事に興味がわいた方は一度手に取ってみるといいかも。





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