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ニンゲンドモは30周年アニバーサリーソングである


どうも中野梓です。
今回ピロウズ35周年ということでピロウズ30周年ソング??の「ニンゲンドモ」の歌詞を考察していこうかと思う。もともと曲の考察のようなものは一度やってみたいと思っていて、良い機会だと思いこの文を書きました。よろ。

この曲を誰もそう思ってないだろうしそんな扱いもされてないが一応30周年ソングにあたるのかなと個人的には思っている。Rebroadcastという30年目に出した今のとこのラストアルバム、そのアルバム曲の中からPVも作られたリード曲として存在していて「これ30周年ソングでは??」と思っている。まぁハッピーバースデーや雨上がりに見た幻のような明らかなアニバーサリーソング感はないし時代とはいえシングルカットもされてはいないが。
またこの曲はガラテアやターミナルヘヴンズロックのようなポエトリーリーディングという語りのような歌唱法をとっており、はたまた珍しく曲からではなく歌詞から作ったというのもこの曲の大きな特徴である。PVで有江さんやYokoさんというピロウズ以外のメンバーが演奏しているというところも珍しい点だ。
そんなニンゲンドモだがみんなはどんな印象だろうか?なんとなく歌詞がとっつきにくい、共感しづらいみたいな意見をたまに耳にする。なによりこの楽曲が発表されたとき割と賛否両論だったのを覚えている。あまり人気の曲とは言い難いかなと正直思う。歌詞が〜と書いたが特に「加害者と被害者のどっちにも優しくする優しい人〜」この部分に引っかかっている人をすごく見かける。この部分から掘り下げていこう。

そもそも僕がこのアニバーサリーソングにして異色作とも言えるニンゲンドモについて深く考えてみようと思ったきっかけが書籍ハイブリッドレインボウ2を読んだからだ。厳密に言えばさわおさんのインタビューのこの部分
【以下引用】

シンイチロウくんはね、適当に庇うんだよ。俺がシンイチロウくんの嫌いな奴の悪口を言ったとしても「まあそう言うなよ。いいとこもあんだよ」って、逆にそいつを庇うんだ。だから俺が本当に悩んで「どうしたらいいんだろう」って真鍋くんのことを相談しても、まったく同調してくれない。

ザ・ピロウズ ハイブリッドレインボウ2(2019) p.38  


「わかった、もうピロウズ辞めるわ」って言ったら、シンイチロウくん、急に焦り始めちゃってさ。
打ち上げにいたnoodlesのテーブルに行って「yokoちゃん、ちょっと山中がおかしくなったから止めてくれないか」ってお願いしたらしいの。俺がyokoちゃんに弱いこと、知ってるんだよ(笑)。そしたらnoodlesのメンバーが全員「なんとかできるのはシンちゃんしかいないでしょ? さわおくん可哀想だよ」って言ってくれたらしくて。

ザ・ピロウズ ハイブリッドレインボウ2(2019) p.39


一部を紹介しているが書籍をお持ちの方はぜひこの2ページだけでも原文を読んで欲しい。
これを読んで「こんなことがあったのか…」という気持ちと同時に「あれ?これニンゲンドモの歌詞ではないか!?」とも思った。
もしかしたら気づいた方もいるかと思う。おそらく「加害者と被害者の〜」の歌詞はこのエピソードからきたのではないか、つまりはドラムの佐藤シンイチロウ(以下シンちゃん)のことを歌っているのではないか。と、このインタビューを読んで思った。
そう考えるとなんとなく辻褄が合うなと思う部分がある。Yokoさんを呼んでコーラスをさせていることだ。この歌詞の後にYokoさんに「白状すべきだろ〜」と歌わせているところはこのインタビューでのエピソードを感じさせる。なによりさわおさんの恐ろしい部分が出ているなぁと感じる。
少し話が変わるがファントムペインという曲がある。これはおそらく淳さんのことを歌った曲ではないかと全体の歌詞を見て思っているのだが、サビで「ノーレスキューノーレスキュー」というコーラスがあり、おそらくライブでは淳さんにこのコーラスを歌わせてたのであろう。それを思うとなかなかすごいなと思ってしまう。この「白状すべきだろ〜」もそれに似た作為的なブラックユーモアとも取れるような仕掛けに思える。
このことに気づき、改めて歌詞全体を見返したときに「この曲って世の中の歌を装っているが本当はピロウズ3人の歌、ないしは山中さわおから見た30年連れそった二人と自分の歌ではないか」と思った。

二番の「新宿のコンビニエンスストア カタコトのタイ人が働いている〜」のくだり。ここの歌詞はレジ袋を真横に入れてしまうような愛想もなく不器用だけど覚悟は人一倍あるそんな君のロックを聞いてみたい。とのような歌詞である。これは真鍋さんへの当てつけのような皮肉ではないかと思っている。よくさわおさんはブログやpodcastなどで真鍋さんに対してやる気がない等の不満を漏らしている。器用で愛想の良い真鍋さんと不器用で愛想のないタイ人を並べて皮肉っているのではないかと思う。ただもう一度熱量を取り戻して欲しい意味で「キミの好きなロックミュージック聞いてみたいな」という真鍋さんへの問いかけを配置しているように思える。

となると「女性客にだけ威張るドライバー〜」の部分はさわおさん自身の歌である。実際内容もさわおさんらしく攻撃的な内容でさすがさわおさんだなとなりがちである。でもこんな人が身近にいたら結構しんどいとも思う。ブチギレて癇癪を起こしたなんて話もたまに聞く。何にでも全力で怒る人というのはその善悪は置いといてまぁめんどくさい。ただ、さわおさんはそれを自分でもよく分かっているはずだとも思う。よくさわおさんは「真鍋くんとシンイチロウくんは大人だからスルーできるけど〜」というようなことを発言しており、そんな二人をリスペクトしていて、自分の行動が二人に負担をかけていることも理解しているように思える。
この歌詞はこんな風に立ち向かうべきだみたいな歌詞ではなく、あくまで自分の良くない部分として描かれているのではないか。それはシンちゃんのくだりも真鍋さんのくだりも当人たちを良く描いていない。むしろ批判的で当人たちはチクリと来るだろう。だからこそ自分もその良くない部分として冒頭にこのような話を描いているのだろう。あくまでさわおさんはその二人と対等であって、だから二人の批判をする前に自分の良くない部分をこの歌詞を序盤に置いているのではないだろうか。

このことを念頭に置いてサビを聴くと聴こえ方が全く違う。特に「異なる主義主張」というワードはこの多すぎる人類、大衆に向けて言っているワードだと思っていたが実はピロウズのメンバー、そして自分にも向けて言っているように思う。しかしまだ「キミの好きなロックミュージック聞いてみたいな」のようにまだその隙間で希望を抱いている。

そして「人混みの中で不平不満〜」の部分。ここがつまりはオチとして機能している。シンちゃんや真鍋さんのことをどんなに喚いてもそんな自分自身もニンゲンドモの一部であり、その3人の拘りやワダカマリを頭上から睨んでも(俯瞰で見ても)心安らかにする接点はまだ30周年経た今でもまだ見つからない。そのような意味に僕は聞こえる。

二番のサビ以降は「ニンゲン」を「ピロウズ」と置き換えるとしっくりくるように思える。

「ピロウズでいることに心がすり減ってもそれをどうしろっていうんだ」
「ピロウズをはみ出していく僕らは戻れるのか」


産声を上げた意思表示詰まった願いとはつまりピロウズを結成したときの3人の願いであろう。また一致した願いを持ったあの頃に戻れるのか。30年経ちどんどんその一致からはみ出していくことに心がすり減ってもまださわおさんは希望を捨ててないんだなと心が熱くなる。30周年の横アリのセトリで「1989→ニンゲンドモ→雨上がりに見た幻」という流れがある。これはまさに「結成当初の願い→時間と共にはみ出していくメンバー間の淀み→それでもまだ失っていない希望」を表したすごいセトリだったんだなと今になって気づいた。

そして最後に繰り返される「Where you singing now?」
直訳すると「君はどこで歌う?」という意味だ。歌うというのはおそらくその産声を上げた意思表示であり「君は今はどこで意思表示をするんだ?」という意味だと僕は捉えている。これも真鍋さんやシンイチロウさんへの問いかけにも見えるがさわおさんが自分自身への自問自答とも取れる。このニンゲンドモが収録されているRebroadcast以降、ピロウズは新譜をほとんど出しておらずさわおさんはソロ活動に専念している。少なくとも意思表示といえる作品作りはソロにしかないように思える。そのソロへの移行するかまだピロウズで意思表示をし続けるかの悲痛な自問自答を何度も繰り返しながらこの曲は終わっていく。

以上を踏まえて僕はこのニンゲンドモを30周年のアニバーサリーソングだとしている。こんな悲しいアニバーサリーソングあるかい!と思ってしまうが、おそらくさわおさんが描きたかったのは雨上がりに見た幻やハッピーバースデーのような希望ではなく、30周年を迎えるバンドのリアルである。しかも特にこの曲が他のアニバーサリーソングと異なるのは、その表現の「わかりづらさ」だ。さわおさんは直接的なメッセージを避け、抽象的で内省的な表現を用いている。表面上は社会批判や風刺に見える部分もあるが、実際にはそれがバンド自身の内なる声を反映したものだと感じられる。その感情をここまで率直に、ある意味で残酷に表現するのは、やはり山中さわおらしいと言えるだろう。この表現のコントラストが、この楽曲の最大の魅力であり、僕にとって非常に「カッコいい」と感じる理由である。
このように、バンドのアニバーサリーを生々しくリアルに描いた曲だからこそ、僕は「ニンゲンドモ」が記念すべき30周年ソングであると思う理由である。

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