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#1『天才は眠らない〜クルーズトレイン「TOWA(永遠)NI(に)」殺人事件』
■第一章 クルーズトレイン「TOWANI」試乗会■
「ねえねえ、星花ちゃん! これ見て!」
休日の本屋。賑やかな雑誌コーナーで、太陽あかりが興奮気味に友人を呼んでいた。
「どうしたの、あかり?」
月島星花は、静かに友人の隣に寄り添った。二人は高校2年生。同じクラスメイトでありながら、性格は正反対だった。
あかりは明るく活発で、クラスの人気者。一方の星花は、物静かで控えめ。しかし、その大きな瞳の奥には、誰も気づかない鋭い知性が宿っていた。
「これ! 新しい観光列車の試乗会だって!」
あかりが指さす雑誌には、「夢の観光列車『TOWANI』試乗会 参加者募集!」の文字が躍っていた。
星花は黙って記事を読み進めた。
『JR東海が誇る最新鋭クルーズトレイン「TOWANI」の試乗会を開催!
幸運な30組60名様をご招待いたします。
【スケジュール】
1日目:
・東京駅 出発
・熱海到着後、専用バスで市内観光
・静岡にて昼食
・名古屋到着後、専用バスで市内観光
・名古屋泊
2日目:
・京都到着、有名料亭にて昼食
・「TOWANI」で東京へ優雅な帰路
応募方法:公式Webサイトにてエントリー。
特別枠として、5組10名の学生ペアを募集。
「未来の鉄道」をテーマにしたエッセイを添えてご応募ください。』
「ねえ、応募しない? 絶対楽しいよ!」
あかりの目は期待に輝いていた。
星花は少し躊躇した。人混みは好きではなかったし、何より自分の秘密を守らなければ...。
しかし、あかりの屈託のない笑顔に、いつものように心が揺らいだ。
「そうだね...でも、高校生だけで参加できるかな?」
あかりは得意げに笑った。「大丈夫だよ! 学生枠があるんだって。エッセイを書けばいいんだ。」
星花は驚いた。「エッセイ? 『未来の鉄道』...か。」
「そう! 星花ちゃん、文章上手だもんね。きっと書けるよ!」
星花は微笑んだ。あかりのこの楽観的な性格が、時に羨ましかった。
しかし今回は、星花の隠された才能が役立つかもしれない。
「わかったわ。一緒に応募してみましょう。」
あかりは小さな歓声を上げた。「やったー! 絶対当たるよ、私たち運がいいもん!」
その時、星花は思いもよらない予感に襲われた。
このエッセイが、自分たちの人生を大きく変えてしまうのではないか―。
しかし彼女は、その予感を押し殺した。
そんなはずはない。これは、ただの列車の旅。それ以上でも、それ以下でもない。
だが運命は、時に残酷なほど皮肉な展開を用意するものだ。