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#2『天才は眠らない〜クルーズトレイン「TOWA(永遠)NI(に)」殺人事件』
■ 第二章 エッセイ■
月島星花の部屋は、静寂に包まれていた。机の上には白紙が広げられ、ペンが置かれている。星花はじっと紙を見つめ、「未来の鉄道」というテーマに思いを巡らせていた。
彼女は深呼吸をし、ペンを取った。そして、まるで誰かに導かれるかのように、文字を綴り始めた。
『2050年、日本の鉄道は「繋ぐ」から「創る」へと進化を遂げていた。
量子テレポーテーション技術を応用した「クォンタム・レール」は、
単なる移動手段を超え、新たな価値と可能性を生み出す社会基盤となっていた。』
星花は書きながら、自分の才能を隠さなければならないことを思い出し、ペンを止めた。しかし、頭の中では壮大なビジョンが広がり続けていた。
突然、スマートフォンの着信音が鳴り、静寂が破られた。
「もしもし、あかり?」
「星花ちゃん、エッセイ進んでる? 私、全然書けないよ〜」
電話の向こうであかりが甘えた声を出す。星花は微笑んだ。
「まだ…ちょっと考え中かな」
実際には、星花の頭の中ではすでに素晴らしいアイデアが形になりつつあった。しかし、それを素直に伝えることはできない。
「そっか。じゃあ、一緒に考えない? 私の家に来ない?」
星花は一瞬躊躇したが、あかりの誘いを断る理由も見つからなかった。
「わかったわ。すぐ行くね」
あかりの部屋は、星花の部屋とは対照的だった。壁には鉄道の写真やポスターが所狭しと貼られ、机の上には雑誌や資料が山積みになっている。
「ねえねえ、星花ちゃん。未来の鉄道って、どんなのがいいと思う?」
星花は慎重に言葉を選んだ。「そうねえ…環境に優しくて、誰もが快適に利用できるものかな」
「おー、いいね! じゃあ、私はスピードにこだわってみようかな。新幹線の2倍のスピードで日本中どこへでも行けちゃうみたいな!」
あかりの目が輝いている。その純粋な情熱に、星花は心を動かされた。
「あかりは鉄道が好きなのね」
「うん! パパが鉄道マニアでね、小さい頃からよく一緒に乗り鉄したんだ」
星花は、あかりの新しい一面を知って嬉しくなった。そして、自分も少しずつ心を開いていいのかもしれないと思い始めていた。
数日後、二人は完成したエッセイを見つめていた。
星花のエッセイは、環境技術と人工知能を融合させた未来の鉄道システムを提案するもの。省エネルギーで、乗客一人一人のニーズに合わせたサービスを提供する革新的なアイデアが詰まっていた。
一方、あかりのエッセイは、超高速鉄道の夢を熱く語るものだった。技術的な詳細は曖昧だったが、その情熱は読む者の心を掴んで離さない。
「すごいね、星花ちゃん。まるで本物の技術者が書いたみたい」
あかりの言葉に、星花はハッとした。才能を隠そうとしていたのに、つい本気で書いてしまったのだ。
「そ、そんなことないよ。あかりのも素敵だと思う。夢があるもの」
星花は慌てて話題を逸らした。
それから二週間後、二人のもとに一通の封筒が届いた。
震える手で開封すると、そこには「TOWA NI」試乗会への招待状が。二人は抱き合って喜んだ。
招待状には、選考理由も記されていた。
『お二人のエッセイは、審査員全員の心を捉えました。
星花さんの斬新かつ現実的な未来ビジョンと、
あかりさんの鉄道への純粋な情熱が見事に調和し、
「TOWA NI」が目指す「新たなる感動」を体現するものでした。
若い世代の柔軟な発想と熱意こそ、
私たちが求める「未来の鉄道」の姿です。』
あかりは興奮気味に言った。「ねえ、私たちすごくない? 特に星花ちゃんのアイデア、本当にすごかったんだね!」
星花は複雑な表情を浮かべた。うれしさと同時に、自分の才能が表に出てしまったことへの不安が込み上げてきた。
「あかりのエッセイがあったからだよ。二人で選ばれたんだから」
星花はそう言って、あかりの貢献を強調した。しかし胸の内では、ある予感が膨らみつつあった。
この旅が、自分の人生を大きく変えてしまうのではないか―。
そして彼女は知らなかった。
その予感が、痛ましいほど的中することになるとは。