【エスパーミッドレンジ】のマナベース考察(スタンダード)
こんにちは、くろきです。
ありがたいことに世界選手権に出場されたテルテルさん、セゴウさん、佐藤啓輔さん、JVさんの練習・調整にお誘いいただき、【エスパーミッドレンジ】のマナベースについて考えていました。(結果的にデッキ提出に微妙に間に合ってないような気もしますが…) マナベース考察の過程や方法は他のデッキでも応用できそうで面白いな~と思ってたので本記事を書く次第です。
現状の【エスパーミッドレンジ】の最適なマナベースを提示することが目的ではなく、マナベースを考える上でどのように煮詰めていけるか?という点を紹介できればと考えています。これまでの記事と比べてやや細かな内容になってしまうかもしれませんが、興味を持っていただけると非常に嬉しいです!
※9/25 追記
テルテルさんはTOP8に入ったのち、最終的に世界選手権で準優勝! 素晴らしい成績で涙が出るほど嬉しいです!
【エスパーミッドレンジ】とは?
【エスパーミッドレンジ】は《策謀の予見者、ラフィーン》,《婚礼の発表》,《放浪皇》等を主軸とした中速デッキで、1年以上コンセプトが大きく変わらないままスタンダード環境に存在しています。
2T目にクリーチャー、3T目に《ラフィーン》といった押し付ける動きが特に強く、エンチャントやPW等での多角的な攻めも持っています。一方で《かき消し》や《喉首狙い》など相手の動きを受ける手段も豊富なため、多くの相手にバランスよく戦えることが特徴です。
また『エルドレインの森』から新たに追加された《忠義の徳目》がデッキに非常に合っており、大きく強化されました。出来事面は《かき消し》,《喉首狙い》などのインスタントリアクションと合わせて構えることができ、当事者面は《婚礼の発表》や《放浪皇》などで横並び戦略を行いやすいため強力に使うことができます。
上記のリストはテルテルさんが世界選手権で使用しているものになりますが、以降のマナベース考察はこのリストのメインの呪文構成・土地総数26を前提として進めていきます。
デッキの特徴から見るマナベース
◆各色マナのカウントについて
・1マナのアクションは(B)の《切り崩し》。勿論使えたほうが良いものの、1ターン目にタップインを消化することも多く、安定的に1ターン目にプレイできるマナベースを作るのは現実的でないので今回は重視しないことにします。
・2マナのアクションは(1)(W)の《忠義の徳目》出来事面、(W)(U)の《敬虔な新米、デニック》、(1)(U)の《かき消し》、(1)(B)の《喉首狙い》と、2ターン目に3色全て要求することがわかります。
⇒2枚目までに1枚以上引けるようなカウントが3色全てにおいて必要です。
・3マナのカードはダブルシンボルを要求するものがありません。一方で4マナのカードは《放浪皇》で(2)(W)(W)、《黙示録、シェオルドレッド》で(2)(B)(B)と白と黒のダブルシンボルを要求することがわかります。ただしどちらも《英雄の公有地》を使って色マナを供給することができます。
⇒4枚目までに2枚以上を引けるようなカウントが白と黒において必要です。ただし《英雄の公有地》をカウントに含めます。
・5マナの《忠義の徳目》当事者面は非伝説で(3)(W)(W)と白のダブルシンボルを要求します。
⇒5枚目までに2枚以上引けるようなカウントが白において必要です。
以上3つの条件をもとにして、Frank Karsten氏の記事「How Many Sources Do You Need to Consistently Cast Your Spells? A 2022 Update」を参照すると、カードを一貫して唱える(※)ためには、白15、青13、黒13、白+《英雄の公有地》が16、黒+《英雄の公有地》が16のカウントが必要であることがわかります。
よって、白15、青13、黒13、《英雄の公有地》3のカウントで十分です!
…とはなりません。これはシンボルのみを考慮した数字で、実際には土地がタップインしてしまう場合があるという問題があります。そのため、この数字は最低限の枚数だと考えることにします。
◆重要なターンにアクションを取れるか
このデッキ(というよりはスタンダードのミッドレンジ全般)の特徴として、2ターン目のアクションが重要であることが挙げられます。その理由はスタンダード環境の3マナのカードが強力で、攻めているときに強いものが多いことに起因します。
《ラフィーン》や《婚礼の発表》などの3マナのカードをより強く使うためにはこちらが攻めている状況を作りたく、効率よく盤面にクリーチャーを出していくことが求められます。特に《ラフィーン》は3ターン目にプレイしてそのまますぐに謀議ができるかどうかで強さが大きく変わります。
また受ける展開においても相手の3マナのカードが強力なので、後手の2ターン目に《かき消し》や《喉首狙い》等のリアクションできなければ盤面の有利を取り戻すことは困難です。
以上の理由から、僕はこのデッキのキープ基準に「2ターン目にアクションを取れるか」を設定しています。キープ基準については個人差があるものの、「2ターン目に2マナのアクションを取れるか」はマナベースを考える上でも重要な要素だと思い、確率を調べたいと考えました。これについては簡略化して考えたので後述します。
採用候補となる各種土地を整理する
マナベースを考える上で採用候補となる土地を洗い出し、実際にデッキを回した上での雑感も述べています。
◆基本土地
採用する理由は《廃墟の地》に対しての耐性がつくことです。《廃墟の地》を使うデッキをどのくらい意識するかで枚数が変わってくるでしょう。完全に割り切るなら0枚、保険をかける気持ちなら1枚、意識を高めるなら2~3枚といった形です。また《デニック》を唱えるのに邪魔になるので《沼》はやめた方が良いです。
◆魂力土地
マナベースとしては基本土地と同等の性能を持ちながら、ゲームへの影響力の高い起動型能力を備えています。【エスパーミッドレンジ】は伝説のクリーチャーも多く非常に使いやすいため各種1枚は採用したいです。複数枚採用する場合もありますが、被ったときのリスクを受け入れる必要があります。
◆《ラフィーンの塔》
所謂トライオームと呼ばれる土地です。1枚で3色出るためマナベースとしては最強のランドのように思えますが、常にタップインであるのは大きなデメリットです。サイクリングこそできるものの、フラッド受けとしては効率がよくありません。
確定タップイン土地は序盤に複数枚引くと動きが非常に悪くなるため、《眠らずの城塞》と合わせて採用枚数を検討する必要があります。感覚的には合わせて3~5枚程度が好ましく思えます。
◆《英雄の公有地》
基本的には無色マナしか出せないものの、伝説の呪文を唱える上では実質的に3色土地として機能し、伝説パーマネントが残ると対応する色マナも出せるようにもなります。3マナの起動型能力が強力で、残ったら非常に有利になる《ラフィーン》や《シェオルドレッド》を守ることができるのはデッキにとても合っています。
《デニック》や《ラフィーン》を唱える際には最高の働きをする一方で《デニック》以外の2マナアクションには色カウントとして貢献せず、序盤に重ねて引いたときのリスクもあるため枚数が非常に難しいです。3マナの起動型能力が影響するのは1ゲームに1回以下の頻度に感じられるので4枚は多く、1~3枚程度が適切に思えます。
◆ミシュラランド
カラー的に採用できるのは白黒の《眠らずの城塞》のみです。他のミシュラランドと異なりパワーが低く、PWに圧をかけられないのであまり強力ではありません。しかし《忠義の徳目》を使う上でクリーチャーが残ることが重要なため、ミシュラランド自体はデッキに合っています。マナベースに余裕があるなら1~2枚採用したいです。
◆ファストランド
青白と青黒に存在しています。3枚目までは最高の2色ランドですが、後半引いたときにタップインであるデメリットは無視できません。たくさん入れると4マナ目で《放浪皇》や《シェオルドレッド》をプレイする際や5マナ目で《忠義の徳目》の当事者面をプレイする際に支障をきたす場合が増えることになります。感覚としては6枚前後で調整したいです。
また、以下の2点を考慮すると、青白ファストよりも青黒ファストを優先するべきだと考えます。
①《切り崩し》を1ターン目にプレイしたいこともある。バランスをペインランド・ファストランド間で調整する際は影響しないが、スロウランド・ファストランド間で調整する際には影響する。
②後半引いてくる土地は《放浪皇》と《忠義の徳目》の2種でダブルシンボルを要求する白絡みのアンタップイン土地が好ましい。(青白ファストよりも青黒ファストの方が4枚目以降でタップインである悪影響が小さい)
◆ペインランド(ダメージランド)
青白、白黒、青黒の全てのカラーで存在します。常にアンタップインで非常にありがたいのですが、序盤にたくさん引きすぎると呪文をプレイするたびに1点2点と食らっていき厳しいゲームになります。感覚では4枚以下ならほぼ気にならず、5~6枚は許容できるライン、7枚以上は痛すぎると感じます。
◆スロウランド
青白、白黒、青黒の全てのカラーで存在します。2ターン目に呪文を唱える上では重ねて引いたときに問題がありますが、3枚目以降はアンタップインできるため《放浪皇》,《シェオルドレッド》,《忠義の徳目》出来事面など重い呪文を唱える上では非常に使いやすいです。
後半に要求するシンボル数は白>黒>青の順であることを考えると、スロウランドの優先度は白絡み>黒絡み>青絡みになりそう。総枚数を判断するのはかなり難しく、確定タップイン土地の枚数によっても左右されます。個人の感覚では4~5枚が良さそうですが、世界選手権のリストを見ていても2~7枚と人によって枚数が大きく異なるように思えます。
実際に確率計算で評価してみる
◆初手の土地枚数による区別と方針
「2ターン目に2マナのアクションを取れる確率」を考えるにあたり、7枚の初手に2マナの呪文と、それを2ターン目にプレイできるマナベースを合わせて引いている確率を求めるのは複雑です。簡略化して確率を考え、マナベースの評価をしていきます。
▪土地1枚以下、土地6枚以上
基本的にマリガンするので考慮しなくても良い。
▪土地2枚
なるべくキープしたい。キープしうるハンドの中では土地が少ない分最もタイトなマナベースになるはず。ちょうど2枚の土地で2マナの呪文をどの程度唱えられるのか確率を計算して評価する。
▪土地3枚
積極的にキープしたい。土地2枚の時と比べて組み合わせが大きく増えるため簡略化したく、タップインばかりで2マナのアクションが取れない、特定の色が出ないなど悪い状況が起こる確率を計算して評価する。
▪土地4枚~5枚
なるべくキープしたい。(土地5枚の時はやや厳しいが…) 引いている土地の総数が多い分、2ターン目のアクションを取るうえで余裕ができやすいはずなので今回は無視する。
これから考えたいことを表で整理すると次のようになります。
◆土地2枚で2マナのカードがプレイできるマナベースとなる確率計算
実際に土地2枚でそのまま2マナのカードをプレイできるマナベースを用意できる確率を計算していきます。紙とペンのみでの計算は大変なのでエクセルを用いて進めていきましょう。
採用候補となる14種類の土地から重複を許して2枚を選ぶ組み合わせをすべて書き出し、それぞれの組み合わせで各2マナの呪文を唱えられるか確認します。最終的に呪文を唱えられるマナベースとなるパターンの確率を合計することで、各呪文をどの程度唱えられるか求めることができるはずです。
(魂力土地は簡略化のため、基本土地として扱っています)
パターンは全部で105通りと、手作業で処理できる範囲です。とりあえず適当にマナベースを設定して計算してみます。
結果はこのようになりました。
当然と言えば当然なのですが、マルチカラーの《デニック》を唱えられる確率が他の呪文と比べて5~8%ほど低く、少々唱えにくいことがわかりました。これを改善したいように思います。各種土地の総数や色マナカウントを変えずにバランスを微調整をして再度計算してみました。
マナベース1とマナベース2を比較すると次のような結果になります。
マナベース1と比べて、マナベース2では《デニック》と《かき消し》、全て唱えられる場合の3項目において約2%前後改善している一方で、《忠義の徳目》や《喉首狙い》には全く影響がないことがわかります。2ターン目に2マナのカードをプレイできるかという論点では、明確にマナベースが改善しているということになります。
後付けで理由を考えてみると、白黒をタップインランドを増やして青をアンタップインに寄せる形になったことで、白黒のタップイン+白黒のアンタップインという無駄の多い組み合わせが減り、その分白黒のタップイン+青マナのアンタップインの組み合わせの総数が増えたからなのだと考えられます。
今回の比較のように、各種土地の総数と色マナカウントさえ決めてしまえば、色々試す中で理想的なマナベースに近づけていくことができそうです。
留意点として、ファストランドやペインランドのデメリットをあまり考慮できていない点があります。また、スロウランドが常にタップインのケースを想定しているために評価が低くなってしまっています。そのあたりは感覚的に調整せざるを得ない部分です。
スロウランドを採用する枚数の参考のため、土地総数26枚の際のアンタップイン土地を2枚中1枚以上引く確率についても計算しました。
どのあたりに基準を置くかというところは人によって変わってくると思いますが、僕は90%近い水準の8~9枚をタップイン土地枚数の基準に考えています。
◆土地3枚の組み合わせでトラブルの起こる確率計算
今度は土地3枚の場合について考えていきます。土地2枚の時と同様に、全ての土地の組み合わせを書き出していけば精度の高い評価ができそうです。しかし土地2枚の組み合わせの時は105通りだったのに対して、土地3枚の組み合わせは2380通りになり、流石に気力が足りません…
そのため簡単にはなってしまいますが、トラブルの起こる土地3枚の組み合わせとなる確率を計算して評価することにします。以下の好ましくない組み合わせをトラブルだと設定します。
※①,②,③は同時に起こらないものの、④は①,②,③と同時に発生する場合があるので重複しているものは2回数えてしまわないように注意します。
それぞれの確率を計算し、実際に先程のマナベース1とマナベース2を比較してみます。
マナベース2が0.3%ほど優れてはいるものの微々たる差です。他にもいろいろいじってみたものの、各種土地の総数と色マナカウントが同じであれば、トラブルの起こる確率は大きく変わらない結果になりました。そのため各種土地の枚数バランスを変化させていったときの影響を調べる目的で確認するのが良いかもしれません。
この評価の方法には少し問題点があり、全てのトラブルを同じ比重で考えてしまっているという点です。例えば[②ペインランド3枚]という状況と、[④何かしらの色マナが出ない]という状況ではトラブルの重大さが異なってくるように感じられます。その重大さを点数づけしていくことができればより適切に評価を行えるようになるかもしれません。
また[④何かしらの色マナが出ない]トラブルについては《英雄の公有地》がある分難しくなってきます。実際にゲームをプレイしていく中で、3色全ての色マナは出ないものの《英雄の公有地》のお陰で問題なく2ターン目、3ターン目とアクション出来る展開はよくあります。このようなケースの評価は手札の呪文の内容に左右されるのでより複雑な計算が必要になりそうです。
以上の課題については、今後良い方法が思い浮かべば改善していきたいと思います。
ここまでのまとめ
▪色マナカウントの最低値は白15、青13、黒13、白+《英雄の公有地》が16、黒+《英雄の公有地》が16。あくまで最低値なのでタップインのリスク等を考慮してもっと増やすべき。
▪2ターン目に呪文を唱えることが重要なので、土地2枚で2マナの呪文を唱えられる確率を計算して評価。スロウランドでは白黒を優先的に採用することで確率を改善できることがわかった。
▪土地2枚のうちアンタップイン土地を1枚以上引く確率を90%近くにしたければ土地総数26でタップイン土地は9枚までがよい。
▪土地3枚の組み合わせで悪いパターンとなる確率を計算して評価。各種土地の総数が変わらなければ大きく変化しない結果に。
▪最終的な調整では現レベルでの確率計算だけでなく、感覚的な部分も求められる。特にファスト・ペインの枚数バランスや《英雄の公有地》の影響は確率での評価が困難。
付録
◆良さそうだと思ったマナベース
感覚+確率計算を合わせて作成し、僕がいいなと思ったものをいくつか紹介します。各種土地についての雑感は既に書いているので、バランスについての細かな理由付けはしません。
◆確率計算で使用したエクセルファイル
確率を計算するうえで作成したものをシェアします。自分で細かく調整しながらマナベースを検討したいという方は是非活用してください。
左上にある表の土地枚数をいじると右に確率が反映されます。僕はエクセルを使い慣れているわけではないので、どこか見苦しい部分があってもご容赦ください。
終わりに
結局のところ、バリューランド等を考えるとマナベースの評価は人によって異なり、最も優れたものを構築することは困難です。しかし感覚によって条件を狭めながら確率を計算することで、マナベースを改善できるということを示せたのではないでしょうか。
今回使用したのは「土地2枚の組み合わせをすべて書き出す」「土地3枚の組み合わせで悪いものを数える」という原始的な方法ですが、序盤のアクションが重要なデッキであれば他のデッキについてもマナベース検討の材料にすることができると思います。例えば、パイオニアの【ラクドスミッドレンジ】のスロウランドや《変わり谷》が序盤のアクションにどの程度影響するかを調べたり…といったこともできそうです。
ということで【エスパーミッドレンジ】のマナベースについて考察してみた、という記事でした。自分一人ではマナベースについてこれほど深く掘り下げて考えようと思うことはなかったので、きっかけや意見をくれた方々には大変感謝しています。
最後までお読みくださりありがとうございました。いつもより内容の細かい記事になってしまっているため、興味を持っていただけたか気になっています。ですのでツイッター(X)やコメント等で感想をいただけたら非常に嬉しいです。
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【エスパーミッドレンジ】のマナベースを考えるにあたって、以下の記事を参考にしていました。考え方の広がる記事ですので、興味がある方は是非ご一読ください。
Frank karsten.「How Many Sources Do You Need to Consistently Cast Your Spells? A 2022 Update」
茂里憲之.「トライオームはマナベースの万能薬か」
浦瀬亮佑.「最適なマナベースを作ろう! ~4色ケシス編~」
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