デジタルフォーマット:「アルケミー」の歩き方
こんにちは、くろきです。今回はMTGアリーナ限定の新フォーマットである「アルケミー」について、実際に遊んでみた感想や現在活躍しているカード・デッキについて簡単に紹介します。端的に言うと「アルケミー」のデジタル限定の要素は個人的にはかなり刺激的で面白く、環境に新鮮味もあって非常に楽しいフォーマットだと感じています。本記事が「アルケミー」を遊ぶうえで一助になれば幸いです。
1. そもそも「アルケミー」ってどんなフォーマット?
「アルケミー」は12月10日より実装されたMTGアリーナ限定の構築フォーマットです。ベースとなるカードプールは現行の「スタンダード」なのですが、テキストが再調整されたナーフカードや、デジタルでしか実現不可能な追加オリジナルカードが存在しています。
このフォーマットは新鮮な環境を求めるデジタル主体のプレイヤーに向けて作られたことが明言されており、MTGアリーナで遊ぶプレイヤーの「スタンダード」「ヒストリック」「リミテッド」に加わる新たな遊び方の選択肢となるでしょう。フォーマットについての詳しい説明はこちらの公式記事をご覧ください。
■デジタル限定のメカニズム紹介
「アルケミー」にはデジタルならではのメカニズムが存在しています。以下はデジタル限定のキーワードです。また、これらのキーワードを持つもの以外でも、紙では実現の難しい要素を持っているカードがほとんどです。
ドラフト(Draft)
ドラフトに関するカードごとに決められている15枚のカード群・呪文書の中からランダムに提示される3枚のうち、1枚を選んで手札に加える効果です。
抽出(Seek)
設定された条件にあうカードがライブラリーから無作為に選び出され、手札に加わる効果です。
創出(Conjure)
カードを創り出し、ゲームに新たに加える効果です。例えば《血塗られた刷毛》はもともとゲームに存在していなかった《血の芸術家》のカードを創り出し、戦場に出します。創出された《血の芸術家》はトークンとは異なり、戦場を離れても他のカードと同様の振る舞いをします。
永久に(Perpetually)
カードに対して、領域を移動しても適応され続ける効果です。例えば《活力減退》によってサイズ修正を永久に受けたクリーチャーカードは、何らかの方法で墓地から復活させる等してもサイズ修正を引き続き受けたままとなります。
2. 実際に遊んでみた!
私自身が新鮮な環境で遊ぶことを好むのもあり、嬉々として「アルケミー」に足を踏み入れました。とりあえず最初に作ったデッキはもともと「スタンダード」にあった【イゼット天啓】をベースにした【イゼットターン】。
《偏執的な収集者》の抽出を利用して《錬金術師の計略》を手に入れ、連続で追加ターンを得ることを狙ったデッキです。《偏執的な収集者》は手札の枚数さえ調整できれば狙ったカードに高確率でアクセスできて、想像よりも容易に意図したコンボが決まります。
ラダーで15戦ほど試し、Vtuberである蒼紅ちかさんが主催する大会:蒼紅杯にもこれを使って参加しました。
以下は実際に遊んでみて抱いた感想です。
■「スタンダード」とは別世界。新環境というだけで面白い
デジタル限定のカードは強力に見えるカードが多く、ラダーや大会も新デッキや大きくアップデートされたデッキで溢れていました。中には「スタンダード」とは比べ物にならないほどの派手な動きや強力な相互作用もあります。もちろんナーフの影響もありますが、「アルケミー」と「スタンダード」が似たような環境だとは全く感じませんでした。
そんな新鮮な環境の中で、強力なカードやデッキを自ら探すことには大きな楽しみがあります。自らの手で新たなカードの相互作用を見出すことができるかもしれませんし、環境を定義するようなデッキの制作者になることだってできるかもしれません。上記の【イゼットターン】も自分で見つけた相互作用を形にしたものであり、きちんと機能したデッキを作ることができただけでも嬉しさが込み上げます。
■MTGの持つ基本的な魅力は変わらない
デジタル限定のカードやメカニズムは存在するものの、それによってゲームの本質的なシステムや魅力的な部分は変わっていませんでした。
相手の行動や手札を予想しながら、最適な行動を検討する。
カードの相互作用や目指したいことを考えてデッキを構築する。
環境に合わせてデッキ細部のカードを選択をする。
相手のデッキやプランを考えながらサイドボーディングを行う。などなど
自分がマジックに求めていた経験や魅力はこれまでと変わらず得ることができています。紙とは異なる挙動をしても本質的な部分は同じゲームです。
■ランダム要素・不運の軽減
一見不思議なように思われるかもしれませんが、リソース獲得の手段であるドラフトと抽出のメカニズムによって、ゲームのランダムな要素が軽減されているように感じました。
ドラフトは15枚の呪文書からランダムな3枚が提示されるものの、通常のドローで特定のカードを狙うよりも高確率で狙ったカードを手に入れることができるのです。具体的には、ドラフトで特定の1枚を得られる確率は20%であるのに対し、40枚のライブラリーに4枚入っているカードをちょうどドローする確率が10%になります。また望んだカードが手に入らなくとも、3枚の中で比較的ましなカードを選ぶことができます。
また抽出はもっとわかりやすく、条件にあったカードを確実に手に入れることができるので、単純にカードを引くよりも特定のカードにアクセスしやすいでしょう。先ほどの《偏執的な収集者》は手札の枚数を調整することで抽出対象となるカードを限定することができ、高確率で狙ったカードを手に入れることができます。
その他にも、自分の手札とライブラリーからカード1種類を追放することのできるカードが2枚存在しています。これらのカードはマッチアップによって不要なカードを有効なカードへと変換しつつライブラリーからも排することができ、マッチアップと引きの噛み合いが悪いといったような不運の要素を軽減してくれるはずです。
3. 注目カード・デッキ紹介
現在の「アルケミー」では多くの新カード・新デッキが試されている最中です。ここでは特によく見かけるカードやデッキについて紹介します。
■《審問官の隊長》
デッキ構築の段階で制限があるものの、戦場に出たときに3マナ以下のクリーチャーカード2枚抽出して、1枚を選んで戦場に出し、もう1枚はライブラリーに戻すという能力を持っています。簡単に言うと、戦場に出たときに追加のクリーチャーを戦場に出すことができるのです。4マナでクリーチャー2体を並べることのできるのはさながら《集合した中隊》。しかも外れてクリーチャーが出せないといった事はありません。
注目されているのは《玻璃池のミミック》との組み合わせ。このカードで《玻璃池のミミック》を出して《審問官の隊長》のコピーにするともう一度クリーチャーを戦場に出す能力が使えます。運よく《玻璃池のミミック》を抽出し続けることができれば、盤面を強化しながら能力を繰り返し使うことができるのです。
この組み合わせを強く使えるデッキとして注目を集めているのは【エスパークレリック】。《正義の戦乙女》や《月皇の古参兵》のようなクリーチャーが戦場に出たときに能力を発揮するシステムクリーチャーが多くて相性抜群です。また《審問官の隊長》自身がクレリックであり、【エスパークレリック】では《英雄たちの送り火》を使って直接ライブラリーから出す動きも強力です。
◆参考デッキ
「アルケミー」実装直後の蒼紅杯を制したのは【エスパークレリック】。もともとはライバルズリーグ所属の原根選手のリストを参考にしたとのこと。フィーチャーを見ていても粘り強く戦うことができて非常に強力なデッキだと感じました。
■《霊媒者》,《公式発見》,《書庫の鍵》
《霊媒者》は戦場に出たときに、手札にある3マナ以上のインスタント・ソーサリーカード1枚の唱えるコストを永久に2マナ下げることができます。これによってコストを下げて使用されるのは《公式発見》。もともとは6マナインスタントと重たいのですが、効果は破格で3枚の呪文を抽出したのちに手札のカードすべての唱えるコストを永久に1マナ下げることができます。
呪文のコストを永久に減らすことは墓地の呪文を再利用できる《溺神の信奉者、リーア》との相性が抜群です。コストの下がった《ゼロ除算》のようなカードが墓地にあれば、少ない隙で《溺神の信奉者、リーア》を出すことができます。
また《書庫の鍵》も上記カードと一緒に使われることの多いマナアーティファクトで、戦場に出たときに強力なカード群からドラフトを行います。運がよければ《時間のねじれ》を入手して《溺神の信奉者、リーア》によって再使用する、といったズルみたいな動きもできてしまいます。
◆参考デッキ
原根選手がこれらのカードを使用した【イゼットコントロール】を作成して配信で回しています。《溺神の信奉者、リーア》とミスティカル・アーカイブのカードを絡めた動きが派手で、配信を見ているだけでも面白そうなデッキでした。
■《呪い縛りの魔女》,《血塗られた刷毛》
クリーチャー生贄のギミックを中心に添えた黒系コントロールデッキは「スタンダード」にも存在していましたが、「アルケミー」では主に2枚のカードによって強化されました。
《呪い縛りの魔女》は死亡したときにドラフトを行える1マナクリーチャーであり、《ひきつり目》,《よろめく怪異》と同様《命取りの論争》などのクリーチャーを生贄にするカードと相性が良いです。ドラフトで得られるカードの強弱の差は激しいものの、土地や除去、クリーチャーや置物など様々な役割のカードにアクセスできる点が魅力的です。
《血塗られた刷毛》は《血の芸術家》を創出できるカードで、《食肉鉤虐殺事件》と合わせると凄まじい勢いで相手のライフを削ることができます。血・トークンでドレインできる能力も《ヴォルダーレンの投血士》と合わせると無視できないダメージソースとなります。
◆参考デッキ
海外の人気配信者であるcrokeyzがBO1用の【黒単サクリファイス】を作成しています。従来の《蜘蛛の女王、ロルス》を使った構成と異なりデッキ全体が軽いカードで構成されているのが特徴的です。
《蜘蛛の女王、ロルス》を使った重めの【黒単コントロール】でも上記のカードは使われており、ラダーにおいて人気のあるデッキの1つです。
■《執拗な仔狼》, 《狼の先触れ》
緑には優秀な狼クリーチャーが追加されています。《執拗な仔狼》は次にクリーチャー呪文を唱えたときにそのクリーチャーを大幅に強化でき、これまで不足しがちだった1マナのクリーチャー枠を埋めてくれる重要な存在です。《隆盛な群れ率い》と異なりタフ2であることも嬉しいポイント。
《狼の先触れ》は《ウルヴェンワルドの奇異》と同様に速攻とトランプルを持つ4/4/4のクリーチャーですが、予顕によって大きなサイズで出すオプションを持っています。こちらは狼であるため【グルール狼男】のようなデッキでは優先的に採用されるでしょう。【緑単アグロ】においてもナーフされた《エシカの戦車》に取って代わるかもしれません。
◆参考デッキ
蒼紅杯で3位入賞した【グルール狼男】。クリーチャーはすべて狼・狼男で固められており、サイドボードまでを見ても「アルケミー」新規カードが多く採用されています。
4. 終わりに
「アルケミー」の世界はデジタル限定の要素で溢れており、既存のフォーマットとは異なるものでした。しかし、本質的なゲームの面白さが損なわれているわけではありません。魅力的な部分はそのままに、確かな新鮮味を感じることのできるフォーマットです。特に環境の解明や新デッキの作成に意欲的なプレイヤーには強くおすすめできます。
1月には予選ウィークエンドやアリーナ・オープンのような競技イベントが「アルケミー」で開催される予定であり、今後どのようなデッキが登場・活躍するのか目が離せません!
最後までお読みくださりありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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