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MAD LIFE 115

8.今、嵐の前の静けさ(9)

4(承前)

 瞳に会いにいくときに、いつも下車する駅だ。
 洋樹は胸を押さえた。
 警察に全てを打ち明けた瞳――そのうち、彼女の兄は逮捕されるに違いない。
 そうなったら、瞳はひとりぼっちだ。
 彼女のことが心配でならなかった。
 居ても立ってもいられず、気がつくと洋樹は電車から降りてしまっていた。

「嘘……本当に?」
 瞳の身体は小刻みに震えた。
「瞳、一週間も留守にしてすまなかったな」
 目の前の男がいう。
「……お兄さん!」
 瞳はその男――間瀬浩次の胸の中へ飛びこんだ。
「会いたかった! 会いたかったよ、お兄さん!」
「瞳……」
 兄が瞳の髪をやさしく撫でる。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿! 一週間もどこへ行っていたの?」
「……すまない」
 瞳は顔を上げた。
 兄にいわなければならないことがある。
 私……警察になにもかも打ち明けてしまったの。
 しかし、その言葉を口にする勇気はなかった。
 いずれ、兄は警察に捕まってしまうだろう。
 イヤだ。
 ようやく会えたのに……また離れるのはイヤだ。
「お兄さん、逃げよう」
 瞳は浩次の腕を強く引っ張った。
「え? 逃げるってどこへ?」
「どこでもいいから早く!」
 逸る気持ちを押さえて叫ぶ。

(1985年12月5日執筆)

つづく

1行日記
今日は八神さんのコンサート! うーん楽しみ……明日から期末テスト……。 

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