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MAD LIFE 318
21.ワーストチャプター(15)
6(承前)
「そうさ。おまえと俺は兄妹でもなんでもないんだ」
兄の口にした言葉の意味が瞬時には理解できなかった。
「おまえは俺の妹じゃないし、俺はおまえの兄貴じゃない」
「……どういうこと?」
「いいか、よく聞け」
浩次は黙って座っている江利子にちらりと目をやり、そのあと再び瞳の顔を見て話し始めた。
「おまえは捨て子だったんだ」
衝撃的なひとことにめまいを覚える。
「まさか……そんな……」
「俺も金庫の中身を見るまでは、おまえが本当の妹じゃないなんて夢にも思わなかったよ。だってあの日、おふくろは生まれたばかりのおまえを抱いて病院から戻ってきたんだからな」
「だったら私は本当の子でしょう?」
浩次はテーブルの上に置いてあった鍵を顎で指し示すと、
「その鍵で開かずの金庫を開けてみろ。そうすりゃ、すべてがわかるさ」
感情のこもらぬ声でいった。
「おまえが捨て子だってこともな」
「そんなの嘘!」
大声で叫ぶ。
「いや、嘘じゃない」
浩次は吐き捨てるようにそういうと、布団から右手を出した。
その手には黒光りする小型の銃が握られていた。
(1986年6月26日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ