
MAD LIFE 143
10.思いがけない訪問者(6)
3(承前)
派手なドレス。
どぎつい化粧。
今まで見たことのない彼女の姿に、浩次は唖然とした。
「ご苦労様、浩次さん」
江利子が笑って、長崎の肩にもたれかかる。
それでようやく、浩次はすべてを悟った。
「こいつは俺の娘なんだよ」
長崎が江利子の髪を撫でる。
ふたりはたがいに顔を見合わせ、不気味に微笑んだ。
悪魔のような笑みだったことは今も忘れない。
手術室のランプがついてから二時間が経過していた。
浩次の頭の中には、次々と過去の記憶がよみがえってくる。
瞳の悲鳴。
盲腸で入院していた浩次が、両親と共に自宅へ戻ってきたときのことだ。
「助けて! 助けて!」
三歳だった妹の首に巻きついた太い腕。
まるで蛇のようだ、とあのとき浩次は思った。
「なにをするんだ?」
と怒鳴る父。
「おまえ、なにしに帰ってきたんだよ?」
と泣き叫ぶ母。
その男の憎しみに満ちた目。
「あんたたちに復讐するためさ」
そいつはいった。
「やめてくれ!」
浩次は全身の力をふり絞って叫んだ。
「頼むからやめてくれ! 妹に手を出すな!」
蛇のような目がこちらを睨む。
「おまえになにがわかる?」
「やめて……お願いだよ、兄さん」
手術室のランプが消えた。
(1986年1月2日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ