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下手の横スキー01

第1回 スキーは楽し

 皆様、どもども、はじめまして。英語でいうと「はうどぅゆどぅ」。湯豆腐の美味しい季節となりました。えーい、わけわからんわい。おまけにもう春だし。

 さて、私、作家などというやくざな商売をやっております《くろけん》こと黒田研二と申します。とはいうものの、知性をまったく感じさせないアホ面、「ODA」と「有事法案」について尋ねられても、なんのことやらさっぱりわからず、「やっぱり代表作は『踊る大捜査線』じゃないですかねえ」と答える間抜けぶり、さらに冬場は仕事ほったらかしでスキーにばかり出かけているもんだから、真っ黒に日焼けしてしまって、初対面の方に「作家です」と自己紹介しても、まったく本気にしてもらえない有様。

 この前も、「作家をやってます」と答えたあと、どうも話が噛み合わないと思ったら、相手は「サッカーをやってます」と聞き間違えていたらしく、
「サッカーをやっているわりには、全然それっぽい体型じゃありませんねえ。ボールを追いかけているとき、腹とか邪魔になりませんか?」
 思わず、そいつの後頭部にヘディングをくらわしちゃいました。これでも、中田英寿に似ているっていわれたことがあるんだぞ。……髪型が。

 と、まあ、どーでもいい前置きはこれくらいにして。

 スキー歴18年、年間滑走日数40日以上、好きな映画「私をスキーにつれてって」、愛読書「極楽スキー」、尊敬する人物はチャイコフスキー、声質はハスキー、人生のテーマソングは「とんちんかんちん一休さん」(♪好き好き好き好きスキー好き~、愛してる~)ってなくらいに、スキーにはまっている35歳の私。スキー好きが高じて、今シーズンは無謀にも「全日本スキー連盟(SAJ)準指導員検定」なるものまで受験しちゃいました。
 えーと、めちゃくちゃ大雑把にいってしまうと、この試験に合格すれば、インストラクターの資格を得られるわけで、まあこんな僕でも、胸を張ってスキーを教えられちゃったりするんであります。

 とはいえ、「ふふん。滑りにはそこそこ自信があるぜ!」という人でも、そうそう簡単に取得できる資格ではなく、バッジテスト1級以上の技能を持っていることに加え、プルークボーゲンやシュテムターンなど、初心者が最初に覚えなければならない基礎技術をわかりやすく演技することができ、かつ、「スキー技術の特性とは?」「指導者としての役割は?」などの問いに答える学課試験にまでパスしなくちゃなりません。しかも、事前に開かれる養成講習会に参加しなければ受験の資格を得ることができない決まりとなっており、想像していたよりも、手間もお金もめいっぱいかかる「準指導員検定」なのでありました。

 こんなところでお金の話をするのもやらしいですが、スキー場までの交通費、リフト代、宿泊代なども含めると、受験のために投じたお金はン十万円をくだらなかったと思います。

……と、このような話を同業者でスキー仲間でもある物集高音さんにお話ししたところ、
「そこまでスキーにはまっているのなら、そいつをエッセイにしないのはもったいねえ、もったいねえ。バブルの頃の、あのスキーブームを呼び戻すためにも、おまえさんが宣教師となって頑張るのだあ!」
 と提案されたのでありました。
「だけど、スキーのエッセイなんて、この僕が書いたって、どこの出版社も相手にしてくれませんよ」
「我孫子武丸さんにお願いして、e-NOVELSで連載させてもらおう。そうすれば、どこかの出版社の目に止まって、あわよくば本になるかもしれない」
「たとえ運よくそうなったとしても、買う人なんてほとんどいないでしょう?」
「なにをいってるんだ! ミステリ作家の中には、スキーを愛する人がたくさんいるだろう! 笠井潔さん、我孫子武丸さん、二階堂黎人さん、貫井徳郎さん。本になった暁には、その人たちに推薦文をお願いするんだ。もうそれだけで馬鹿売れだぞ。東野圭吾さんはスノーボード派だけど、頭を床にこすりつけ、足の裏でも舐めてお願いすれば、きっと快く推薦文を書いてくださるはずだ!」
「……誰が足の裏を舐めるんですか?」
「もちろん、君だ。おおっと、大事な人を忘れていた。スキーといえばこの人だ。桐野夏生さんにもお願いしなくちゃな。桐野さんの推薦文があれば、アメリカでもヒットするかもしれないぞ」
「はあ……」
「よし、決まりだ、決まりだ! 100万部も夢じゃないぞ。タイトルは『私をスキーにつれてって』をもじって、『私を好きにして!』にしよう。官能小説と勘違いして、さらに売れるかもしれないしな。うん、うん。これは素晴らしいアイデアだ。早速、我孫子さんに話してこようっと」
 話半分に聞きながらも、スキーエッセイを執筆するという話には、かなりの魅力を感じていました。昔と較べて、スキー人口は極端に減っています。ザウスが解体され、各地のスキー場も次々に閉鎖に追い込まれている昨今。……こんなに楽しいスポーツなのになあ。できるだけたくさんの人にスキーの魅力を知ってもらうためにも、これはやってみる価値があるかもしれない、と僕は思ったのであります。
 僕の仕事について、親身になって考えてくれる物集さんにも感激しました。
「あ、将来本になったときには、アイデア料として、印税の1割をもらうからね」
 ……それが目的だったか。

 それから数日後、僕は準指導員検定を受検しました。
「スキーエッセイの記念すべき連載第1回は、『準指導員検定合格レポート』で決まりだな。これからは指導員として、スキーの楽しさを的確に読者に伝えられるといいなあ」と考えていたのですが……

 ……見事に落ちました(涙)。

「スキーだけに、ついつい受験も滑っちゃったよ。わは、わは、わは」
 と、笑ってみても空しいばかり。受験にかかったン十万円はすべて水の泡。この半年間の苦労は一体……。
 え……えっと、スキーは楽しいんですよ。ホント、楽しいんですよ。楽しいんだってば! え? 涙が出てるって? だ、誰が泣いてるんだよっ! これはヨダレだ! まぶたが腹を減らしてるんだよっ! おいおいおいおい……(号泣)。

 そんなわけで、「指導員の黒田研二がお送りする楽しいスキーエッセイ」は急遽、「来年の受験に向けて必死こきまくる苦悩のスキーエッセイ」に変更となりました。

 来年の今頃には笑って「合格しました!」と報告できるよう、これからの1年間もひたすら頑張っていきたいと思います(え? もしかして、この駄文も1年間続くのか?)。

 つーことで皆様、2週間に1度のおつきあいではありますが、今後ともこのコーナーをどうぞよろしくお願いします。あでゅー。あでゅーしゃん列島。このダジャレ、以前にもどこかで使ったような気がするけど、気にしない、気にしない。一休み、一休み。

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