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下手の横スキー61

第61回 再び《キッズワールド》

 皆さん、こんにちは。
 あまりの暑さに、パンツのゴムまで緩みきっちゃって、ケツが半分ほど見えている黒田です。これからは、ハンカチ王子ならぬハンケツ王子とお呼びください。
 そんな私ですが、つい数日前に宇宙旅行から帰ってきたばかり(前回参照)。梅雨明け前に旅立ったため、今になってようやく蒸し暑い夏を味わっております。
 こんな季節にスキーの話をするのもどーかと思うんですが、先シーズンの出来事で、まだ紹介していないエピソードが残っておりましたので、どーかそれだけ語らせてください。
 次回からは「ビバ! 真夏の海でうはうはナンパ大作戦」とか「残暑を涼しく過ごす丸秘テクニック」など、季節感たっぷりのお話をお届けいたしますので。いや、それじゃあ、スキーエッセイとしてどーかと思うけど。

 さて。
 スキーシーズンも終わりに近づいた3月某日。
 ついに、《キッズワールド》のメイン指導を任されることになりました。《キッズワールド》ってなんじゃらほい? と首をひねられたかたは、このエッセイの第48回をご覧ください。リンクは面倒だから張りません。自分で探せ、自分で。
 簡単に説明すると、初めてスキーを体験する5歳から9歳までの子供たちのために設けられた特別レッスンが《キッズワールド》。
 「黒田はロリコンだから危ない」と校長が判断したのかどうかはわかりませんが、これまで小さな子供の担当になったことはほとんどなく、《キッズワールド》もアシスタントを2回務めただけ。メインは未体験でした。
 だから、「黒田さん。今日は《キッズワールド》のメイン指導をお願いします」といわれたときは、ついに来たか! と緊張しましたよ。子供たちを上手に指導できれば、僕のロリコン疑惑も消え去るはずです。

 スキー初体験の小さな子供たちを教えるときには、とにかくスキーを好きになってもらうために、最初から思いっきりテンションを上げていかなくてはなりません。
「みんな、おっはよー!」
 集まった子供たちに、オーバーリアクションで挨拶。
「…………」
「……おはよ(ぼそり)」
 うう。反応がイマイチだ。だが、ここでくじけてはなりません。
「あれえ? お声が聞こえないぞお。じゃあ、もう一度挨拶するからね。みんな、おっはよー!」
「オジサン。そんな大声出して、疲れませんか?」
 先頭に立っていた小学3年生の太郎君(仮名)から、冷めた言葉が。ううう……。
 しかし、ここで素に戻ったら負けると思い、
「つっかれませーん!」
 と、無理矢理なテンションを持続。
「じゃあ、最初になぞなぞを出しまーす。ウルトラマンや仮面ライダーが必ず泣いてしまう場所ってどーこだ?」
 以前、子供たちに教えてもらったなぞなぞを出題。
「…………」
「…………」
 おーい。みんな、もっと食いついてこいよ。
「答えは、ヒーロー、えーん──披露宴でしたあっ!」
 あ。何人かの子供が首をひねってるぞ。やっぱり、披露宴という言葉はまだ難しかったか。
「……はあ」
 ため息をついたのは太郎君。
「僕のほうが、疲労してえーんって感じだよ」
 お、なかなかうまいこというねえ。
 ……って、感心してる場合か。僕、完璧になめられちゃってるぢゃん。
 このガキ、本気で殴ってやろうか、と何度思ったかわかりませんが、そこはぐっと耐えて笑顔の2時間。なんとか無事に終わらせましたよ。

 《キッズワールド》での頑張りが認められたのかどうかはよくわかりませんが、それ以降はプライベートレッスンで小さな子供を担当する機会が増えました。
「黒田さん。レッスンお願いします。名前はアイちゃん(仮名)、4歳の女の子です。スキーはこれが初めてだそうです」
 よっしゃ。頑張っちゃおうじゃないか。
 気合いを入れて、集合場所に向かう僕。
 笑顔の可愛らしい女の子が、ピンクのウェアを着て立っています。
「アイちゃん、こんにちは」
 挨拶をすると、
「こんにちはあ!」
 元気な返事が戻ってきました。活発そうな印象。お母さんと別れ、僕と2人きりになっても、にこにこ笑っています。この分なら、楽なレッスンになりそうです。
「じゃあ、まず準備運動から始めようか。先生と同じように動いてね」
「はーい」
 うんうん。素直な子だなあ。
「それじゃあ、軽くジャンプしてみよう」
 いわれたとおり、ぴょんと跳ねるアイちゃん。
 と、そのとき。
 ぴいいいいいいいいいいいっ!
 けたたましい電子音が周囲に響き渡りました。
「なに? なに?」
 驚いてあたりを見回す僕。
 途端に、それまで笑顔だったアイちゃんの表情が崩れ、
「ママあああああっ! 助けてええええっ!」
 彼女は大声をあげながら、母親のもとへと走り去ってしまいました。
「……え?」
 その場にぽつりと取り残される僕。
 あとでわかったことですが、電子音の正体は、アイちゃんが首からぶら下げていた防犯ブザーだったようです。紐を引っ張ると、電子音が鳴り響く仕掛け。
 もしや、うちの子供になにかよからぬことを? そんな目で僕を睨みつける母親。
 い、いや、ぼ、ぼ、僕はなにもしてませんってば。
 ひっくひっくと泣き続けるアイちゃんから事情を聞き、ようやくすべてが判明しました。どうやら、準備体操でジャンプをした拍子に、防犯ブザーの紐が抜けちゃったらしいんですね。
「怪しい人になにかされそうになったら、紐を引っ張ってブザーを鳴らしなさい」と母親から教えられていたんでしょう。そのため、逆もまた真なり──「ブザーが鳴ったら、怪しい人が現れる」と思い込んでしまった模様。
 とにもかくにも、原因がわかってよかった、よかった。
 アイちゃんの興奮もおさまって、そのあとは問題なくレッスンを続けることができました。
 ふう。一時はどうなるかと思ったよ。
 安堵しながら、スタッフルームへ戻ってくると……あ、あれ? なんだかみんなの視線がおかしいぞ。
「黒田さんって、やっぱり危険なオーラを発してるんでしょうね。子供はそーゆーところに敏感ですから」
 え? え? なんのこと?
「だって、アイちゃん。黒田さんの顔を見た途端、防犯ブザーを鳴らして、その場を逃げ出したんでしょう?」
 NOぉぉぉぉぉっ!
 話が間違って伝わってるよ。
 結局、「黒田はロリコン」という噂は、その後も消えることはありませんでしたとさ。めでたし、めでたし。って、全然めでたくねーよ。

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