MAD LIFE 365
24.それぞれの行動(16)
7(承前)
「坊主。あんまり威勢がいいのも考えものだぜ」
郷田が俊に向かっていう。
「確かに八神は臆病者だけどな、その分、カッとなるとなにをやらかすかわからねえ。俺よりずっとおっかねえ奴なんだぞ。命は大切にしたほうがいい」
郷田の迫力に、俊はなにもいい返すことができなかった。
「もうやめておいたら? あんたたちの計画は絶対に失敗するんだから」
真知の言葉に、郷田はにやにや笑う。
「お嬢さん。俺たちがどうして、アジトと金の受け渡し場所を同じにしたか、あんたにはわかっていないようだな」
「……どういうこと?」
「金の受け渡しにサツが現れたら、すぐに八神が現れるっていう寸法さ」
「え?」
「おまえたちにナイフを突きつけて、警察の前に現れる。人質を返してほしければ金を置いて全員退散しろって脅せばいい」
八神が答えた。
「うまくいくわけないわ」
「いいや、うまくいく」
郷田は笑った。
「なぜなら俺たちには――」
薄汚れたジーンズから黒い塊を取り出し、彼は続けた。
「これがあるからな」
「あ――」
俊は息を呑んだ。
郷田が手にしていたものは拳銃だった。
午前一時。
それぞれの思いを胸に抱きながら、旧埠頭に集結する人たち。
風が強い。
最後の嵐が吹き荒れようとしていた。
寂れた港。
大きくうねる波。
闇の中で――
今――
(1986年8月12日執筆)
つづく