
MAD LIFE 082
6.女の勇気に拍手!(8)
1(承前)
「誰だ!?」
長崎の声が聞こえた。
……しまった。
見つかったかもしれない。
だが、瞳は逃げようとしなかった。
こうなったらやけくそだ。
ドアの横へと走り、息を殺して長崎が出てくるのを待つ。
手にはしっかりと薪を握った。
防犯ベルが止まる。
小池たちが止めたのだろう。
となると、彼らはまもなくここへ戻ってくるはずだ。
それまでに決着をつけてしまわなければ。
小屋の中から足音が聞こえた。
瞳は薪を握り直す。
おじさん……待っててね。
ドアが外側に開いて、長崎が顔を出した。
タイミングを狙い、長崎の頭上へ薪を振り下ろす。
殺してしまってもいいと思った。
鈍い音が響く。
長崎は目を見開き、瞳を見た。
「この小娘が……やりやがったな」
殺意のこもった視線をこちらに向け、瞳の肩を強くつかむ。
「殺してや――」
そこまでしゃべり、彼はいきなり前のめりに倒れた。
「…………」
瞳の手から薪が落ちる。
恐怖で声が出ない。
まさか……死んでないよね?
瞳は長崎のそばに屈みこみ、彼のズボンのポケットから鍵の束を奪った。
「長崎さん! 今の音はなんです?」
小池の声が倉庫のほうから聞こえてくる。
瞳は慌てて雑木林の中へ逃げこんだ。
「おい、あっちに誰か逃げたぞ!」
「黒川、あとを追え! 俺は長崎さんを――」
雑木林の中を無我夢中で走りながら、瞳は何度も洋樹の名を呼んだ。
「おじさん、助けて! おじさん!」
視界の端に倉庫が見えた。
(1985年11月2日執筆)
つづく
この日の1行日記はナシ