MAD LIFE 370
25.最後の嵐(5)
2(承前)
「う、動くな!」
八神が中西に向かって叫ぶ。
だが、中西はその言葉を無視して走り続けた。
「それ以上近づくと、本当にこいつらの命はないぞ!」
「大丈夫だよ!」
そう叫んだのは俊だ。
「こいつは臆病者だ。人を殺すことなんてできやしないから」
「そうか」
中西は俊の言葉を信じて、さらにスピードを上げる。
「く、来るな!」
八神の慌てふためく声が闇に響いた。
大勢の警察官に取り囲まれている郷田が拳銃をかまえる。
それに気づいたのは浩次だけだった。
他の者は皆、人質にナイフを向ける八神に気を取られていたのだ。
銃口は中西を狙っていた。
「危ない!」
浩次がそう叫んだと同時に銃声が鳴り響いた。
洋樹の前を走っていた中西の身体が奇妙によじれる。
彼はバランスを崩してその場に倒れ込んだ。
「中西!」
洋樹は中西のそばに駆け寄ろうとしたが、再び銃声が響き、目の前を銃弾が通過していった。
このままでは俺もやられる。
洋樹はその場に伏せた。
「一歩も動くな!」
狂気じみた郷田の声が闇の中に響く。
「動く奴は容赦なくぶち殺してやる!」
(1986年8月17日執筆)
つづく
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