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MAD LIFE 352
24.それぞれの行動(3)
1(承前)
……お兄さん。
浩次の横顔を眺めながら、瞳は安堵の息を漏らした。
生真面目で、正義感にあふれた……これがお兄さんの本当の姿。
本当の――
ふと考える。
本当の父と母のことを打ち明けたら、兄はどんな顔をするだろう?
洋樹の顔が脳裏に浮かんだ。
私は決して、おじさんを恨んだりはしていない。
でも……おじさんの娘になることははどうしたってできない。
私の本当の家族はお兄さんだけだ。
窓の外に目をやる。
街のネオンは彼女の心をかすかにざわめかせた。
2
「じゃあ母さん、行ってくるよ」
長崎晃はそういって家を出た。
「気をつけるんだよ」
背後から聞こえた母の声は、晃に様々な思いをぶつけているように感じられた。
このまま二度と帰ってこないつもりかい?
お願いだから、母さんをひとりぼっちにはしないでおくれ。
晃……ひとりは寂しいよ。
「心配するなよ、母さん」
晃は夜空に向かって小さく呟いた。
俺はもうどこにも行かない。
ずっと母さんのそばにいるからさ。
家を飛び出したのは、夜風に吹かれて、頭を冷やしたかったからだ。
……瞳。
まぶたを閉じると、彼女の笑顔が浮かびあがる。
瞳のことを考えると、胸がかき乱された。
瞳を幸せにしてやりたい。
自分の気持を伝えたい。
「好きだ!」と大声で叫びたい。
でも、そのきっかけをつかむことができずにいる。
潮の香りが鼻孔を刺激すた。
いつの間にやら、海の近くまで来てしまったらしい。
晃は額ににじんだ汗を拭い、さらに歩みを進めた。
(1986年7月30日執筆)
つづく
1行日記
暑い! とにかく暑い! すっかり夏になってしまったあ~