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MAD LIFE 142

10.思いがけない訪問者(5)

2(承前)

 江利子は大金を持っていた。
 江利子と再会して以降、晃が豪華なホテルに連泊できたのも、すべて彼女のおかげだ。
「お父さんとお母さんは元気?」
 江利子の質問に、晃は「ああ」とだけ答えた。
 父の顔を思い浮かべるだけで気分が悪くなる。
 俺の人生をかき回す男……あんな奴、死んでしまえばいい。
 晃は姉に気づかれぬようにため息をついた。

 手術室のランプがついた。
 町はずれの小さな病院。
 院長は立澤組の古いい知り合いなので、警察に通報される心配はない。
「社長……」
 立澤組組員のひとりである八神は、心配そうに手術室の冷たい扉を見つめていた。
「本当に大丈夫なんだろうか? あんなに出血して……」
「もし、社長が死んだら――」
 浩次の隣に座っていた郷田が顔を伏せる。
「大丈夫だ。社長が死ぬなんて……そんなことあるはずない」
 浩次はそういったものの、その声はひどく小さく弱々しかった。
「くそうっ!」
 郷田が上着を床に叩きつける。
「あの女……社長を撃ったあの女は何者なんだよ?」
 その言葉に、浩次は身を縮ませる。
 長崎江利子。
 俺の人生を滅茶苦茶にした女……。

 さらわれた江利子を救うため、浩次は長崎に命じられたとおり、内村展章を殺した。
「約束は守った。早く江利子を返してくれ」
 事務所に駆け込んだ浩次を見て、長崎はにやりと笑った。
「ああ、俺は嘘はつかない。だが、彼女がなんていうかな?」
「……え?」
「江利子、出ておいで」
 長崎に呼ばれて姿を見せた江利子は、浩次の知っている彼女ではなかった。

(1986年1月1日執筆)

つづく

1行日記
A HAPPY NEW YEAR! さあ1986年だあ。今年もよろしく。  


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